41. 美しき悪の貴族の結末は
暗闇の中を漂っていた。
意識がはっきりとせず、朦朧としている。
僕は……、そう、サリファだったか。
ここは、どこだろう。
記憶にない映像が、次々と流れていく。
あれは……小さい頃のティアロラ?
なんで洞窟で花なんて渡してるんだ?
こっちは……エンデンスか。
オーガと戦ったのは森の外だったと思うんだけど……。
身に覚えのない出来事ばかりだったが、何故かしっくりくる。どういうことなんだろう。
「……」
ん? 何か聞こえたような……。
いや、気のせいか。ここには何もない。
そう思っていたが、不意に光が差し込んだ。
その温かい光に包まれて、僕は……。
――――――――
目が覚めると、ベッドの上だった。
窓から夕陽が差し込んでいる。何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
それはそうと、ここは一体……。
ガシャンッ
すぐ近くで、何かを落とす物音。
そちらをゆっくり向くと……。
驚きに目を見開く、ティアロラがいた。
「サリファ……!!ああ、サリファ……!!」
いつかと同じように、ティアロラが抱きついてくる。
ああ、そうか、僕は。
戻って、来られたんだな。
「……ただいま、ティアロラ」
……
「本当に、本当に良かったです……!!」
涙ぐみながら、ティアロラが僕の手を握っている。
なんだか照れ臭いが、それだけ心配させてしまったのだと思うと申し訳ない気持ちになってくる。
「……ティアロラは、大丈夫なの?」
記憶が曖昧だが、確か魔神の力をティアロラとエンデンスに渡したはず。あんな力を受け取ったのだから、後遺症がないか心配だ。
「はい!サリファと比べれば、なんてことありません!」
「……良かった」
ティアロラの言葉に安堵する。
ああ、そういえばまだお礼も言えていなかった。本当に頭が回ってないな。
「……ティアロラ、本当にありがとう。僕を、救ってくれて。そして、危険なことをさせてごめん」
ベッドの上で、頭を下げる。
僕が油断したから、あんなことになってしまった。ティアロラやエンデンス、それにフィライにまで危険なことをさせてしまって申し訳ない。
だけど、みんなが僕のことを助けに来てくれたのだと分かったときは本当に嬉しかった。感謝で胸がいっぱいだ。
「顔を上げてください、サリファ。私たちは、私たちの思うがままに行動しただけです」
「……それでも」
「サリファだって、そうするでしょう?」
顔を上げると、ティアロラが柔らかく微笑みながらこちらを見ていた。それは、本当に素敵な笑顔で……。
思わず、顔が赤くなってしまった気がする。
「……そ、そうかもしれないね。でも、本当にありがとう」
「ふふ、私はサリファとこうしてまた話すことができただけで嬉しいですから」
それから、僕が眠っていた間の話を聞いた。
なんと、僕は十日ほど眠り続けていたとのことだ。身体が思うように動かないのも納得だった。
グライエンツ公爵家が起こした謀反は無事に鎮圧できたらしい。魔神の力を戦力に組み込んでいただろうから、おそらく被害もそれほどなく対処できたのだと思う。
エンデンスは謀反の後処理に追われているとのことだ。さらに、公爵家の一員である僕への処分を軽くしようと動いてくれているのだとか。その忙しい中でも時間を見つけては僕の様子を見に来てくれていたというのだから感謝しかない。次に会った時には、しっかりとお礼を言おう。
フィライは帝都の復興を手伝っているようだ。何故フィライがいたのかは疑問だったが、自ら僕の救出に志願してくれたのだとか。フィライにもちゃんと感謝を伝えなければ。
ゼブラスは、どこかへ消えたらしい。
まあ、あの男はしぶとく生きているだろう。
僕を救い出すまでの話も聞いたが、驚きの連続だった。奇跡に奇跡が重なったような救出劇だ。みんなが無事でいられて、本当に良かった。
「あ、もう暗くなってきましたね。すみません、目覚めたばかりなのにこんなにお話してしまって」
一通り話を聞かせてもらったところで、ティアロラがそう言った。
「明日また、来ますね? サリファが目覚めたことは伝えておきますので、エンデンスやフィライも駆けつけてくれると思います」
「……うん、ありがとう」
「ふふ、それでは、おやすみなさい。また明日」
「……おやすみ」
ティアロラが部屋から去っていった。
身体は重いが、眠たくはない。まあでも、ここはゆっくりするとしようか。
……
「……ゼブラス、いるんでしょう?」
暗闇に向かって声をかける。
ティアロラが去った後、しばらくして部屋の中に人の気配が現れた。
「おや、バレましたか。腕を上げましたねぇ」
そう言って、悪びれもなくゼブラスが現れた。まったく、どこから入ったのやら。
「ふむ、魔神の力は安定しているようデスねぇ。素晴らしい!」
なんだ、経過観察に来ただけか。
まあ、この男にとっては魔神の力を宿した人間というのは貴重なサンプルなのだろう。
「しかしまあ、よく生き残れたものデスねぇ。このワタシの予想を超えてくれましたよ。アナタは本当に面白い」
ゼブラスがじっくりと観察してくる。
なんだか嫌な感じもするが、聞きたいことは聞いておこう。すぐにどこかに行ってしまうだろうし。
「ティアロラとエンデンスに魔神の力を流したけど、本当に影響はないの?」
「ああ、アナタのお友達デスかぁ? まあ、問題ないでしょう。そもそも魔神の力など定着するものではありませんからねぇ。アナタはワタシが調整した器なので魔神の力を留めておけているのデスよ」
その言葉に安心する。
僕の身体についても気になるところではあるが、あの二人に悪影響がないのならば良かった。
「まあ、あのあと三日三晩苦しみに耐えていましたがねぇ? 異質な力が体内で暴れ回るなど、想像を絶する苦痛だったでしょう」
呆然とする。
僕はなんて能天気なんだ。後遺症がないとはいえ、二人にそんな負担をかけていたなんて。
「……そんな」
「おっと、お友達は気を遣ってアナタに言わなかったのでしょう? それなら、黙って感謝するに留めておくことデスねぇ」
言っていることは、わかる。
だが、その言葉を発したのがあのゼブラスであることがなんとも言えない気持ちにさせられた。
「んん? おっと、ワタシはそろそろ消えるとしましょうかねぇ」
唐突にゼブラスがそう言った。
いなくなるなら、最後に聞いておきたいことがある。
「……僕の寿命は、あとどれくらい?」
あとどれだけ生きられるのか。
今回の件で、おそらく寿命は縮まったのではないだろうか。目安くらいは聞いておきたい。
「ふぅむ、そうデスねぇ。あと、五年といったところでしょうか」
五年、五年か……。
あと十年くらいはあると思っていたが、かなり縮まったな。だけどまあ、まだ五年あると思うことにしよう。
「まあ、好きに生きることデスねぇ。それでは、またいつか」
「……じゃあね」
そう言って、あっさりとゼブラスは消えた。
なんというか、悪気とかは一切ないんだよな。
さて、今後はどうしようかな。
グライエンツ公爵家が起こした謀反に対する処罰についてはエンデンスが動いてくれているらしいが、流石にお咎めなしとまではいかないだろう。処刑とならないことを祈るばかりだが、こればかりは結果を待つしかない。
もし、生きることを許されてもあと五年の命だ。ここまでサリファとして生きてきたが、セブファンではサリファの命はこの一件で失われる。ならば、ここからはオマケみたいなものだ。僕は自由にやりたいことをやろう。まあ、そんなに今までと変わらないけど。
ティアロラの気が変わってなければ、当初の予定通り聖地に行くとしようか。その後は……迷宮都市にでも行こうかな? もしかしたら大陸を旅している主人公に会えるかもしれない。それに、迷宮都市ならエルフやドワーフがいるはず。せっかくこの世界に来たんだから、会ってみたいな。いや、それならいっそのことあっちの大陸に行って、主人公の一人であるエルフの巫女に会うのもいいかもしれない。まあ、色々とやりたいことはあるから今度じっくり考えよう。
ベッドに横たわり、感慨に耽る。
サリファのイベントは、これで終わったんだな。
主人公たちを救って美しく散ろうという目的は果たせなかったが、結構頑張ったのではないだろうか。
ティアロラのプロローグは悲惨な結末を回避できたし、エンデンスのイベントでも惨劇は起きなかった。
上出来だろう。
まあ、僕は何もしてないけどね!!
――――――――――
斯くして、
未知の物語への扉は開かれた。
未踏の結末に向かってゆっくりと、
未来への歯車が音を立てて回り始める。
〜 end 〜
「サリファが、あと五年で死ぬ……?」
to be continued……??
謝辞
第一章完結です!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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続きます。




