42. 旅立ち
第二章、開始です。
「グライエンツ公爵家サリファを国外追放とする」
役人が淡々とした口調でそう言った。
ベッドの上でそれを聞いていた僕は、静かにそれを受け入れる。
「謀反を起こしたグライエンツ公爵家は取り潰し。大罪人であるグライエンツ公爵家の者は全て処刑となった。貴殿の処遇は例外中の例外である。第二皇子殿下の温情に感謝せよ」
「……深く、感謝いたします」
僕の言葉を聞いた役人は、一つ頷くとすぐに部屋を出ていった。
「……追放、か」
魔神降臨の騒動から目覚めて数日が経過していた。
ついに僕に対する処罰が決定したのだ。
処刑とならなかっただけ良かった。
エンデンスが頑張ってくれたのだろう。まあ、元々帝国を出てどこかに行く予定だったし、そんなに気落ちはない。
今から僕は、ただのサリファだ。
――――――
「力及ばず、本当にすまない……」
問題なく動けるくらいには回復し、帝国を去る時がやってきた。
忙しい中、わざわざ見送りに来てくれたエンデンスがまた謝罪を口にしている。国外追放を宣告されてから何度も謝られてしまったが、僕は特に気にしていない。エンデンスは真面目だから自分を責めているのだろうけど、ここは気持ちよくお別れをしたいところだ。僕は帝国を出ることになったけど、二度と会えないわけではない。
「……エンデンス、本当に僕は気にしていないよ。僕は君に感謝しているんだ。だから、君も自分を責めないでほしい」
「だが……いや、これではサリファに気を遣わせるだけか」
エンデンスが頭を振り、こちらを真っ直ぐに見る。
「困ったことがあれば、すぐに連絡をしてほしい。必ず、力になろう」
「……ありがとう。僕も、何かあればどんな手段を使っても君を助けに行くよ」
エンデンスと握手を交わす。
セブファンとは異なり、帝国に残ることとなったエンデンス。だけど、いつかまた巡り合うような気がしている。
「サリファー!そろそろ出発しますよー!」
共に聖地に向かうティアロラから声がかかる。
さあ、そろそろ時間だ。
「サリファ、達者でな」
「……エンデンスもね」
二人で笑い合う。
こうして、僕は帝国を旅立った。
……
「サリファ、体調は問題ありませんか?」
「……うん、大丈夫だよ。ありがとうティアロラ」
ゆったりと馬車に揺られること数日。
ティアロラはたびたび僕のことを心配してくれていた。帝都で目覚めてすぐは身体が重かったが、今ではなんともない。というより、以前よりも身体は軽く、感覚が鋭くなっている気もしている。
ただし……
「……魔術の方は、まだ使えなさそうだけどね」
僕は魔術を使えなくなっていた。
正確に言えば、使えないこともないが制御できないという感じだ。魔神の力と本来の魔力が混ざり合い、おかしなことになっていてかなり危険な状態だ。徐々に馴染んできてはいるものの、魔神の力は異物でしかない。訓練していけばどうにかなりそうではあるが、まだまだ時間はかかると思う。
「そうなんですね……。ヴェスティ様に聞いて、何かわかるといいんですが……」
ヴェスティというのは、今向かっている聖地にいる聖女だ。現在三人いる聖女の中でも最も有名で、当代随一とも称される治癒師でもある。基本的に聖地から出ることはないので、聖女の癒しを求める多くの人たちが聖地に滞在して順番を待っているのだとか。
「……忙しい人だろうし、気長に待つよ」
今はそこまで急いではいないし、ゆっくり順番を待つとしよう。ティアロラが聖女の力で魔神の力をある程度抑えられたと言っていたから、期待できるかもしれない。
「待ってる時間なんてないです」
あれ? ?
なんだかティアロラの声が一段低くなったような。
「私は聖女ですからね!ヴェスティ様とも面識がありますし、挨拶ついでに診察してもらいましょう!」
普段の明るい声でティアロラがそう言った。
気のせいだったのかな?
「……それはなんだか、ずるいような」
「大丈夫です!というか、ヴェスティ様はそこまで忙しくはないといいますか……。まあ、到着したらわかりますので!」
「……? うん、わかったよ」
なんだかよくわからないが、大丈夫らしい。
ティアロラの言うことだから、間違いはないだろう。
「ティアロラ様、サリファ様。もうすぐ聖地に到着しますよ」
馬車の外から声がかかる。
護衛についてくれているフィライだ。彼と再会できたのも嬉しかったな。この旅の途中、久しぶりに稽古をつけてもらったが以前よりも遥かに強くなっていた。聖騎士たちと訓練することで剣技が磨かれたのだろう。聖地でも時間があれば稽古をつけてもらいたいものだ。
しばらくして、馬車が止まる。
聖地には馬車で入れないらしく、ここからは徒歩で行かなければならないとのことだ。馬車の外に出て、聖地シャイラを見る。おお、実物を見るとすごいな。全部真っ白だ。
「サリファ、今から聖地に入るんですが……、その、結構目立ってしまうんですよね……。あんまり気にしないでもらえると助かります」
ティアロラが苦笑いをしている。
やっぱり聖女だから聖地では有名人なんだろうな。
「……うん、わかった」
「ありがとうございます!では、行きましょうか!」
ティアロラの後ろに続き、聖地へと足を踏み入れる。
新しい場所というのは、なんだか心が躍るなぁ。
……
「やはり、慣れませんね……」
「……お疲れ様、ティアロラ」
ティアロラはかなり疲れている様子だ。
大通りを抜けて大聖堂近くまで来たが、聖女の人気は凄まじかった。道ゆく人々に声をかけられるだけでなく、跪いて祈りを捧げている人までいたから驚きだ。
「ありがとうございます……。気を取り直して、大聖堂に入りましょうか」
そう言って、ティアロラは大聖堂の中へと入っていく。
まあ、とりあえず僕も入ろうかな。
そう思って、大聖堂の門をくぐった瞬間。
「……ぐっ!?」
身体が途端に重くなり、地面に膝をつく。
そして……
「何者だ、貴様」
突如現れた大勢の聖騎士に囲まれ、剣を突きつけられていた。




