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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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121/122

先鋒

「美しいカトリーヌ様を……よくも!」

 アスラの美し顔は怒りで歪んでいた。

「カトリーヌ様はお優しくて、素晴らしく優秀な魔道士、それを……それを!」

 心底怒っているアスラにソフィアは首をかしげた。

「カトリーヌ様に恋してたとかそういう展開? ちょっと年の差過ぎない?」

 カトリーヌは確かに美しい女で芳醇な美魔女だった。

 しかしアスラとでは二十は離れていて、よく言っても姉弟にしか見えない。

「この世界でもケバい金持ちのマダムが美少年を囲うのありなんだ」

 ソフィアは笑った。

「ふざけるな! カトリーヌ様はそんなんじゃない! あの方は僕を拾って育ててくれた恩人だ! 親兄弟もいない平民以下のスラム街で魔力だけが取り柄の僕を……」

 ソフィアは、

「あれ? 伯爵家の三男って言ってなかった?」

 とローガンを振り返った。

「カトリーヌの口利きで養子に入ったらしいです。魔力が多く才能があり国家魔術師に育てるも、身分がスラム街出身では外聞が悪いのでしょう。でもその伯爵家でもあまりいい待遇ではなかったようですね。伯爵家を出てほとんどこの魔法塔で過ごしています」

「スラム街の孤児を拾って育てた恩人というわけですか」

 とワルドも呟いた。

「ふーん、そうなんだ」

 とソフィアが言った。

「お前がカトリーヌ様を粉々にした! 絶対許さない、同じ目に遭わせてやるからな! あの人はスラムで這いつくばっていた僕を見つけてくれたんだ! 絶望と孤独の中に一人いて、誰も助けてなんかくれなかった……ネズミの肉を食べられたら幸せ……それだって大人の食い残しの腐った肉だ。それすら見つからない時は草や泥水を啜って生きていた。僕がいつ死んでも誰も驚きもしない、気づいても僕の死体からまだかっぱらっていく、そんな場所から、あの人は僕を連れ出してくれたんだ! カトリーヌ様は命の恩人なんだ!」

 アスラの瞳から涙が溢れていた。

 美しい少年の顔は真っ青で震え、涙で一杯だった。


 パンパンパンと手を打つ音がした。

「分かりますよ。孤独って嫌ですよね。辛いですよね。あなたの気持ち、痛いほど分かります。私もね何百年か昔に、仲間とはぐれて一人で彷徨っていた時期がありましてね」

 と言ったのはワルドだった。

「な……」

「気の合う相棒とはぐれ、一生をかけて愛した恋人も勇者ってやつに殺されてしまいました。魔王様を殺すのは勇者の使命かもしれませんが、私の愛したゼレンティは本当に心優しい雌だった。自分が盾になり、弱く戦いを好まない者達を逃がしてやり、自分は瞳一つになって消えていきましたよ。ゼレンティが消えた時、彼女の死を惜しまない者はいなかった。それから……私は絶望と孤独の中にいました。淋しい、悲しい、恋しい、暗闇の中でそれだけを呟いてね。食料になるものなんてありはしない。魔力を回復するような美味い獲物も獲れやしない。相棒が数百年ぶりに連絡をくれなかったら、私も干からびて絶命していたでしょうね。ですから、貴方だけじゃないのですよ? どこにでもよくある話なんですよ? あなたはカトリーヌとやらに救われて貴族になった。たらふく食べて、高価な服を着て、暖かい布団で眠ったのでしょう? 国家魔術師として高い給与も貰ってるはず。でもあなたは、あなたがいた場所でまだ貧困に喘いでいる子供には手を差し伸べないのですよね?」

 最後の言葉は痛烈だった。

 アスラはぎゅっと唇を噛みしめた。

 スラムには二度と戻らない、戻りたくなかった。

 何も手に入らない、小間使いのような仕事さえない時は、パン一欠片の為に汚らしい大人に身体を差し出すしかなかった。

 アスラには二度と思い出したくもない過去だ。

 自分以外の人間がどうなろうと関係ない、スラムはそんな場所だった。

「別にあなたを非難するわけじゃない。貧困に喘ぐ人間なんてどこの国も一定数いるのですから。あなたはその才能で堂々とスラムを出て勝ち組だ。カトリーヌに恩を感じるのもいいでしょう。でも私にもあなたと同様の過去があり、ソフィア様は私を救ってくれた。ですからあなたがソフィア様に仇なすのなら、私がお相手します。この魔王の左足がね」

 ワルドの口上にローガンとエリオットは満足そうにうなずいた。

「え、何、ワルドがやっちゃってくれるの?」

「お任せ下さい、ソフィア様。その間にあちらで軽食でもどうぞ」

 ワルドが指した方向にテーブルと椅子、テーブルの上にはサンドイッチやら、パイやら、そして湯気の立つ紅茶のカップが用意されていた。

「えー、やるじゃん。そういや腹ぺこだったんだ」

 そう言ったソフィアがそそくさとテーブルの方へ走り、サンドイッチをつまむのと同時にワルドの身体が変化した。

 それは大きく、黒く、禍々しい尖った爪を持つ巨大な左足だった。

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