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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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海軍の出航

 グフナラマス公爵家の対応からは開戦を急いでいるような雰囲気が感じられたが、アルマヌニア公爵家はそれとは対照的に、今できることを淡々とこなしている風がある。

 おそらく、と、ハザマは考える。

 海に面した領地と内陸部の領地との違い、なんだろうな、と。

 グフナラマス公爵家のように、港を持ち、つまり海に面した他国とのつき合いがある貴族だと、自然となにごとにつけ、即応性が求められる部分というのが出てくるはずだ。

 なにせ海に面していれば、かなり遠くの国々の事情が市場などにいきなり影響してくることもあるし、情報の伝達速度も内陸部とは比較にならないくらいに早い。

 森東地域への対応も、グフナラマス公爵家の立場から見れば、一日も早く安定させる方がよく、それもただ安定させるのではなく、自分のところで湾岸部の利権をがっちり握る形で終結することが望ましいはずでもある。

 グフナラマス公爵家単独では森東地域全域を平定するほどの力はないはずなのだが、先に洞窟衆が手を着け、アルマヌニア公爵家や治安維持軍も森東地域へも介入をする意思を見せている今ならば、安心して手を出すことが出来た。

 グフナラマス公爵家はおそらく、湾岸部を押さえて関税収入を得ること、同時に海運のシェアを広げることを目的としている。

 だから、おいしい、即収入に結びつく主要な港を押さえたら、それ以降に戦い続けることは望まないのではないか、と、ハザマをはじめとする洞窟衆の関係者は見ている。

 洞窟衆としては、森東地域に安心して使える港がありさえすればそれで十分であり、グフナラマス公爵家がそれを調達、保守してくれるというのならば歓迎するだけだった。

 領地的な野心もないが、洞窟衆にはすべての業種に手を出して独占をしようという方向性も持っていない。

 むしろ、洞窟衆の関係者よりうまくできる業種については、積極的に既存の専門家を頼ることを基本方針としている。

 だから、今回の森東地域の件にしても、グフナラマス公爵家と洞窟衆の利害は衝突しない。

 アルマヌニア公爵家は、おそらくはグフナラマス公爵家よりもこの件については消極的なはずで、本音でいえば自分の領地が侵されない体制さえ確保できればそれでよし、と思っている節がある。

 王国の各地から将兵が集まり、それどころか治安維持軍までもが森林貫通街道の事業に参画することになった今の状況は、案外アルマヌニア公爵家としては不本意なのかも知れないな、と、ハザマは予測する。

 ここまでことを大げさにするつもりはなかったのに、と。

 ただ、これも考え方次第で、首尾よく街道が開通したら、その後のことは治安維持軍に任せ、アルマヌニア公爵家は森東地域の情勢に対してそれ以上に余計な手出しをしないで済む。

 見方によっては野心的ではない分、余計なリスクを抱えないで済む成り行きになっている。

 さらにいえば、森林貫通街道についても、今では他に出資者がいて、完成した暁にはそちらにもいくらかの利益を分配する必要があるとはいえ、主たる出資者はやはりアルマヌニア公爵家であり、開通後に定量的にもたらされるはずの利益は、アルマヌニア公爵家の財政をかなり潤すのではないか。

 あれだけ莫大な資金を投じて開通させた街道を誰でも無料で通すわけがなく、おそらく開通後にはその街道を利用する者から通行料を取る形になるはずで、その利権はかなり大きくなるものとハザマは予測している。

 今後、森東地域の情勢がどうなろうとも、王国側と森東地域との往来が盛んになることは決まっていて、その交通路を握っていることはアルマヌニア公爵家にとって大きな意味を持つことになるだろう。

 鉄道馬車もその街道といっしょに開通するとなれば、なおさら人や物資の行き来は盛んになるはずであり、アルマヌニア公爵家にとってはかなりおいしい結果になりそうだった。


 そんなこんなで洞窟衆内部がばたばたしているところに、グフナラマス公爵家の海軍がいよいよ森東地域へと出航した、という報せが届く。

 この世界の海軍という代物が具体的に何隻編成であるとか、そうした規模的な詳細についてハザマはまるでイメージが湧かなかったが、この近海では類を見ないほど大規模な編隊であるとは知らされている。

 砲艦外交、かな。

 と、ハザマなどは思う。

 即実戦、ということはおそらくグフナラマス公爵家も想定していないだろう。

 目的地の湾岸部で実戦を行えば、少なからず港も傷つき、補修のためにしばらく使用不能になることも考えられる。

 グフナラマス公爵家としては、可能ならばそうした港も無傷で押さえたいはずであり、つまりはそうした大艦隊をあえて揃えたということは、そうした武力で威圧した上で、森東地域の連中を萎縮させて出来るだけ有利な条件で譲歩を引き出したいのだろう。

 と、ハザマはそう想像をする。

 グフナラマス公爵家が森東地域にどこまでの野心を抱いているのか、この時点でハザマは明確には知らなかったが、海運を主産業とするグフナラマス公爵家ならば、真っ先に優先するのは港の使用権であり、さらにいえば、その港自体の領有権自体をグフナラマス公爵家に移管し、その後末永く関税収入を得たいはずだ。

 現地の連中がこのグフナラマス公爵家が出す条件にどこまで反発し、あるいは烏合するのかは、基礎的なデータを欠いているためハザマには予測できなかったが、どう転ぶにせよ、短期間ですっきりと収まるとは思えなかった。

 あるいは、このグフナラマス公爵家への対応を巡り、森東地域の湾岸部で内乱に近い騒ぎが勃発することも予想され、仮にそうなったとしても、森東地域の連中が内輪もめで疲弊すればするほどグフナラマス公爵家がつけいる隙も大きくなるはずであり。

 うん。

 と、ハザマは思う。

 森東地域の連中、少なくとも湾岸部の連中については、もう詰んでいるも同然の状況なんじゃないだろうか、これ。

 山地方向からの侵入を受け、ゴタゴタしている隙に今度は海の側から侵入を受ける。

 同情をしたくなる状況ではあったが、一番賢い選択は、おそらくは無駄な抵抗などせず、港関連の利権を丸ごとグフナラマス公爵家に譲って、その上で最低限の自治を許して貰う、というあたりが、一番傷の少ない落としどころになるだろう。

 そのかわり、その湾岸部に関して治安維持と防衛の責任は以後、グルナラマス公爵家が担うことになるわけで、面子とか体面の問題を度外視すれば、こんな状況下ではそんなに悪い選択というわけでもない。

 ただ、すんなりその結論を出せるほど、柔軟な精神の持ち主が都合よく森東地域で影響力を持つ指導者層にいるのかどうか。

 もしもいなかったら、案外、そちらの方面は泥沼になるのかも知れなかった。

 ま、そっちに関しては、もう少し様子見だな。

 と、ハザマは思う。

 そうした湾岸部の問題に関しては、まずはグフナラマス公爵家に任せて置く方がいい。

 少なくとも、この時点では。

 仮にこの先ハザマたち洞窟衆が乗りだしてくる機会があるとすれば、それはグフナラマス公爵家が助けを求めるか、あるいは森東地域問題から完全に手を引いた時になる。

 ハザマとしては、どんな形であれ、グフナラマス公爵家に海沿いの地域を落ち着かせて貰いたかった。


 一方、洞窟衆の手勢に関していえば、今のところ大きな問題は起こっていない。

 先行して突出している形のヴァンクレス率いる騎兵部隊は、何度か軍事的な衝突をしているものの、当初予想していた以上の速度で目的地に近づいている。

 その小規模な軍事衝突というのも、純粋な武力衝突というよりも、ヴァンクレスの噂を聞いた現地の腕自慢が決闘とか一騎打ちを申し込み、当然のようにヴァンクレスが勝ってそのまま通行を許可して道を譲ってくれる、というパターンが多いようだ。

 そうした決闘だか一騎打ちの後、敵味方の双方で酒を飲み酌み交わして談笑をしているとのことだから、この時点ではなんとも牧歌的な成り行きになっている。

 まだヴァンクレスの噂が先行して届いている地域だからそんなもので済んでいるが、今後、ヴァンクレスなり洞窟衆なりの噂も届いていない地域にまで達すると、本気で敵対勢力として遇されることになるはずである、とも報告書にはしたためられていた。

 こちらの方に関していえば、本格的な抗争に突入するのはまだ少し先になるようだ。

 また、そのヴァンクレスの騎兵部隊を追いかける形で、スセリセスの部隊とトエスの部隊が続いている。

 このうち、トエスの部隊は純粋な兵力というより、輜重や通信網の敷設に比重を置いており、そのため進行速度は騎兵部隊と比較するとかなりゆっくりになっていたが、今後のことを考えるとかなり重要な役割を担っていた。

 それとは別に、水賊衆に声をかけて、洞窟衆の目的をさりげなく森東地域全域に広めて貰っている。

 無用な衝突を避けるため、であったが、こちらに関しては実際のところ、どこまで効果が望めるものか、まったく予測ができなかった。

 同じ情報を伝えても、受け取る側の感性や価値観によってその受容のされ方も当然違ってくるわけで、ハザマとしてはこの効果について、

「なにもしないでいるよりはマシ」

 程度の薄い期待しか持ってない。

 ただ、陸地の縄張りを気にせず往来できる水賊衆は、この世界ではかなり強力なニュースソースにもなっているということで、その水賊衆からそれなりの信望を受けている組織として洞窟衆の名が広まるのであれば、それはそれで効果があるか、とも思っていた。



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