表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

993/1089

冒険者ギルドの問題児

「さて、忙しくなってきた」

 森東地域にあるイデスというところで、トエスは誰にともなく呟いた。

 このイデスは、太い川がいくつか交錯する上、地面が石や砂利ばかりであり、農地には向かない。

 そのため、地元の人間からはほとんど無視をされて来た場所だったが、洞窟衆はここに進出してから大規模な土木工事をして、いくつかの小屋と船着場を作った。

 農作地には向かなくても水利の便があれば流通の基地とすることが出来ると、そう考えたからである。

 小屋はあくまで急ごしらえの安普請であり、決して頑丈な代物ではなかったが、用途が荷物を放り込んでおく倉庫とそれに仮設事務所にほぼ限定をされていた。

 つまり洞窟衆の拠点としてみたら、これで十分であり不便ということはない。

 こうした拠点は森東地域内にもすでにいくつか設置、稼働しており、さらに一定期間以上、関係者がその場所に留まるような場合には仮設住宅なども別に設えている。

 この時点、この森東地域での仕事というのは土木建築の工事か流通関係が大半を占めているので、関係者の住宅なども、居住性などよりも設置と撤去が簡便であることに重点が置かれた物になっていた。

 数日くらいは同じ場所に寝泊まりすることもあるが、すぐに別の場所へ移動する場合が多かったからだ。

 ヴァンクレスの部隊などの実戦を担当する連中に南進の許可が出た。

 それ自体は、いい。

 と、トエスは考える。

 ここ、森東地域に来た洞窟衆の関係者の中で、そうした戦闘に特化した人員が占める割合というのはかなり少ないのだが、その頭目格は揃って曲者揃いだった。

 ヴァンクレスやガンガジル王国の王子様などは、多少血気に逸る傾向はあるものの、適切な仕事を割り当てておきさえすれば実害はあまりない。

 その分、仕事を用意出来ない時などは、いつ暴発するのかと気が気でない部分もあるのだが。

 問題は、あの王様だよな。

 と、トエスは思う。

 バイラド・ゴロジオ王。

 あの王様は、つかみ所がないからなあ。

 なにを考えているのかわからない人間というと、トエスは実例として自分が所属する組織の頭目をまず最初に思い浮かべる。

 しかしハザマの場合は、実はあれでかなり先のことまで考えて、考えすぎて、実際に口にする結論が周囲からは突拍子もない、と受け止められることが多い。

 もちろん、

「周囲から理解を得られにくい」

 という性質がそれで緩和するわけではないのだが、ともかくハザマはあれで、考えている内容自体は、結構まともに思える。

 いや、そうでなくては現実問題として、これほど大きな組織にまで成長をした洞窟衆をまとめることなど出来るわけがないのだが。

 しかし、あの王様は。

 と、トエスは想像する。

 おそらく、なにも考えていないんじゃないかな。

 その場その場の思いつきで行動をしているとしか、トエスには思えなかった。

 一応、触れ込みでは、あの王様は財政的な困難に直面しているゴロジオ王国をいくらかでも救おうと、この森東地域にまで出稼ぎに来た、ということになっている。

 少なくとも、本人はことあるごとにそう口にしていた。

 なのに、せっかく稼いだお金も、なにかというと見境なく人を集めて大きな宴会を開き、散財している。

 一応、いくらかはゴロジオ王国にも送金しているようだったが。

「あれでは、本人がこの森東地域で使う金額の方が、よほど多いのではないか」

 と、トエスは予想をしていた。

 つまり本来の目的をあまり意に介さず、やりたい放題にやっているように、トエスには見えたのだ。

 王族として放埒に生きてきた、その習慣が抜けきらないだけか、それとも、自分の行動について深く考えていないだけか。

 おそらくは、その両方だろう。

 どうもあの王様は、自身が好きに行動していても、周囲の人間が勝手に自分にとって都合よく動いてくれると、素朴に信じ込んでいるように見えた。

 そうして、なにかというと派手に散財をすることもあって、ここ森東地域の人間からは妙に慕われている。

 いい金蔓だと思われているだけなのかも知れなかったが、あの王様の周囲に有力者であるなしに関わらず、大勢の森東地域の人間が集まる傾向があるのは、否定できない。

 いいかえると、あの王様を中心として独自の人脈が形成されつつあり、現にそのコネを通じてまとまった交渉もいくつかあり、洞窟衆にとってもそれなりの利益をもたらしているのであった。

 おそらく、本人はそんなことはまったく意図していないのだろうが。

 洞窟衆は、そのバイラド・ゴロジオ王に、頻繁に仕事を依頼している。

 これは、かのゴロジオ王を暇にさせておくと、なにをしでかすのかわかったものではないという不安を、大勢の関係者が共有していたからでもあった。

 他にすることがないからか、洞窟衆側からあてがう仕事に対して、ゴロジオ王はそのまま次々と請け負って完遂する。

 仕事は仕事として最後までやり遂げること、それ自体はありがたいのだが、それ以外、出先でいろいろ余計なことをやらかすことが多いのも、このゴロジオ王の傾向だった。

 ゴロジオ王にあてがう仕事は、かの王の加護の性質上、洞窟衆の人間がまだ足を踏み入れていない領域にまで移動することが多いのだったが、そうして出先で見かけた女性を口説いたり落としたり、しかもそうした女性が地元有力者の血縁者や伴侶であったり、たまたまみつけた小競り合いに対して勝手に介入し、そのうちの片方に肩入れをしたり、あるいは、その両方をぶちのめしたり、その後に紛争当事者双方を同席させて盛大に酒盛りをはじめて決着をうやむやにさせたり。

 依頼した仕事は素直にこなしてくれるが、それ以上にいろいろと余計かつ予測不能な悶着を作り続ける、立派なトラブルメーカーであるといえた。

 そうして、しょっちゅう悶着を起こす割にはあまり問題視されていないのは、ゴロジオ王は意外に自力でそうしたトラブルの後始末をつけてしまうことが多いからでもあった。

 実際、洞窟衆が出るまでもなく、ゴロジオ王は自分で示談金を用意したり、洞窟衆がまだ介入してもいない地域の有力者同士の諍いを仲介したりして、結果としてはそれなりに穏当なところに収めている。

 もちろん、ゴロジオ王が出先で自分勝手な挙動を行わなければそもそもそういた後始末をする必要も生じないわけだが、洞窟衆にしてみれば、行動の予測がほとんど出来ず、制御不能な存在であることも否定が出来なかった。

 あの王様はきっと。

 と、トエスは思う。

 故郷の国でも持て余されて、体よく厄介払いされているだけなのではないか。

 あんな考えなしが一国の指針を定める王様だとしたら、その下の臣民にとっては、悪夢以外の何者でもない。

 政治の場からは、遠ざけられて当然だろう。

 その厄介な王様を、現在の洞窟衆は世話をしている、という形になる。

 冒険者ギルドの人たちも、頭が痛いところだろうな。

 などとトエスは思う。

 その冒険者ギルドの人間は、当然のことだが、このゴロジオ王の処遇について、何度かハザマに問い合わせを行っていた。

 なんらかの口実を設けて、バイラド・ゴロジオ王を冒険者の籍から外し、放逐するべきではないのか。

 その度に、ハザマからは、

「放っておけ」

 との返信を得ている。

「聞く限り、そいつは、自分で悪だくみをするほど知恵が回るタイプではない。

 それどころか、天然の主人公タイプだ。

 下手に刺激をすると、こちらが悪役になっちまうぞ」

 主人公タイプとか悪役とか、ハザマ以外の者には理解不能の語彙もあったが、要は、

「本人に害意や悪意があってやっている訳ではないから、放置しておけ」

 ということらしい。

 あんな地雷でも一国の王様ではあるわけで、洞窟衆の首領であるハザマがそういうのならば、ということで、そのまま放置されて現在に至っている。

 そのゴロジオ王の動向を見守っている冒険者ギルドの人たちにしてみれば、気が気でない状況といえたが。

 冒険者ギルドの問題児、ゴロジオ王はこれまで、軍事分野の仕事をあてがわれたことがなかった。

 不確定要素の塊のような人物であったから、これ自体は当然の判断といえる。

 たが、状況がここまで来ると、仕事をあてがう側も選り好みをする余裕がなくなってくるだろうな。

 と、トエスは予想する。

 トエスとしては、この先あの王様と肩を並べて戦うような局面が来ないことを、祈るしかない。


 ゴロジオ王のことはともかく、トエスはアレルとエレルの双子、水妖使いの三人組、大勢の、数も知れない犬頭人たちを率いて、イデスを発つ準備をしている。

 とはいえ、実際の手配は冒険者ギルドの人間に任せているので、トエス自身はあがって来た書面に責任者として署名をすることくらいなのだが。

 今、洞窟衆が抱えている人材の中で、多くの物資を迅速に目的地に送り届けることが可能なのは、水路ならば水妖使いたち、陸路ならば犬頭人ということになる。

 すでに先行しているヴァンクレスの部隊を、出先で孤立させないようにするためには、こうした特殊な人材を駆使するしか方法がなかった。

 未知の土地にいきなりそうした特殊な人材を送り込むことについて、不安がないとえば嘘になる。

 しかし、そうした潜在的な問題よりも、先行の部隊を孤立させないことの方を、洞窟衆としては優先した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ