調査のし直し
ゼスチャラ、ハメラダス師、エルフのトスラタトテ。
アジャスの要請に応じる形で、王都からこの三人が派遣されてきた。
冒険者ギルドのブネリにこの要請を伝えてから半日もしないうちに、この三人は到着した。
行動が迅速なあたりは、流石に洞窟衆というべきか。
この三人の魔法使いのうち、アジャスはゼスチャラとのみ面識があった。
というよりは、ともにルシアナ討伐に同行した仲だった。
その時の働きでいえば、アジャスよりもこのゼスチャラの方が断然ルシアナ討伐に貢献していたような気がするが。
「いや、年末の巨人騒ぎの後始末で、こってりと絞られててさ」
そのゼスチャラはといえば、アジャスと顔を合わせるなり相好を崩してそんなことをいい出す。
「呼び出して貰えたおかげで、ようやく抜け出すことが出来た」
「年末にそんな騒ぎが起きたということは聞いているが」
アジャスはいった。
「お前らも、それに関わっていたのか?」
「若干はな」
巨漢の老人、ハメラダス師がいった。
「それよりも、現場に居合わせた証人としての事情聴取だのう。
拘束された理由は」
「ヒトの社会では、かなり重要な事件だったらしいから」
今度は、エルフの女が口を開く。
「詳細が外に漏れることも警戒して、なかなか解放して貰えなかった」
口止めをする代わりに、身柄を拘束されていたということか。
アジャスは、そう考える。
王国とやらの事情は詳しく知らなかったが、そんな真似をしないと体面が保てないということなら、それはもう体制としては末期状態なのではないか?
「そんなわけで、こうして呼び出してくれたことに感謝しよう」
ハメラダス師は、アジャスに向かってそういった。
「王都の連中も口止めはしたいが、われらにそんなことを誓わせる権限もなし。
いつまでもだらだらとわれらを拘留していたのは、われらの始末に困っていたからでもある」
今回、アジャスがそうした状況を打開する口実を与えた、という形になるらしかった。
「どれくらい捕まっていたんだ?」
アジャスはそう訊ねる。
「長く感じたが、まだ一月は経っていないな」
ゼスチャラが、そう応じる。
「おれとしては、もう少しあそこに居てもよかったんだがな。
なにせあそこは昼寝のし放題だったし」
「酒が出ないと嘆いていたやつが、よくいうわ」
ハメラダス師が、そんなゼスチャラを一喝した。
「それで、ガグラダ族の」
エルフの女、トスラタトテがゼスチャラの顔をまともに見据えて、そういう。
「早速、こちらの状況を説明して貰いたい。
こちらは、しばらく隔絶した場所に居たので、外の状況をまるで把握していない」
「この街道、とはいえ、見ての通り造営中なんだが、そこが襲撃にあって……」
アジャスは、そもそもの最初から、今回の件について詳細に説明をしはじめた。
「それで、魔法使いを呼んだか」
アジャスの説明が終わると、まずハメラダス師が口を開く。
「だが、転移魔法という線はないな。
それほど大人数に使うのには、必要となる魔力を考えると不自然であるし。
なにより、そんなことが出来るのならば、こんな街道を通り越して、もっと略奪のしがいがある人里を狙う方がいい」
「なるほど」
アジャスは、その意見に大きく頷いた。
「では、他の可能性とか、何か気づいた点はないですか?
魔法を使っても使わなくても、おれたちがなにか見逃している点とか」
アジャスとしては、なにか具体的な解答が欲しいというよりは、そこに至るための糸口、ヒントのような物が欲しい。
そういう思いがあって、魔法使いたちを呼んだのだ。
「天に消えたか地に潜ったか」
ゼスチャラはそういって芝居気たっぷりに周囲を見渡した。
「そんなことをいわれても、なにも思いつかんわな。
なにより、森の中のことにはお前らの方が詳しいだろうに」
「それだけ大勢の人間が移動しているのに、まったく痕跡を残していない。
痕跡を消した跡も見つからないというのは、かえって不自然」
トスラタトテがいった。
「もう一度、街道が襲撃された時の様子を、出来るだけ詳細に聞き出してきて。
場合によっては、誰かの狂言という可能性もある」
「狂言?」
アジャスは顔をしかめた。
「こんだけの騒ぎになって、今さらそれはないでしょう。
おれたちだけのことではなく、洞窟衆では沿岸部からの森東地域へ攻め込む準備も進めているってことだし」
「でも、その一箇所の野営地だけが見つかっているっていう状況は、そう考えると説明がつく」
トスラタトテが指摘をした。
「それ以外に、なにも見つからないという点も含めて」
アジャスは、忙しく頭を回転させはじめた。
現象だけを見ると、確かにこのトスラタトテのいうことは、それなりに筋が通っているのだ。
あの野営地跡が、何者かが故意に作った物であったとしたら。
「あなたは、街道を襲撃した時の状況を聞き取り調査して。
その場に居た人間は、必ず近くに残っているはず」
トスラタトテは、そう続ける。
「わたしたちを、その野営地跡まで誰かに案内をさせて。
改めて調べて、不自然な点がないか確認してくる」
トスラタトテの仮説が、実際には当たっているのかどうか?
それは、この時点ではアジャスにも、なんともいえなかった。
ただ、確かめて見る必要があると、そう感じたので、アジャスはトスラタトテにいわれた通りの手配をする。
魔法使い三人が犬頭人に運ばれていったのを見送ってから、アジャスは街道へと移動する。
そこに、街道襲撃の現場に居合わせた人間が待っているはずだった。
冒険者ギルドのブネリが手配をするように要請したところ、即座に該当する人間を集めてくれた。
アジャスはといえば、そんな簡単なことも自分自身で思いつかなかったことをひそかに恥じ入っていた。
これまで、敵を見つけて交戦することばかりを考えていて、この件の真相とか本質について考えることを避けていた。
その結果、捜索活動が行き詰まっている。
もう少し、余裕をもって考えないといかんな。
と、アジャスは、そんな風に思う。
そうしないと、どうも今回の件は解決できないらしい。
アジャスがやり慣れた仕事とはいい難かったが、それでもこうして手をかけた以上はどうにかして最後まで片をつけなければならなかった。
「とりあえず、あの時に襲撃を体験した人を、五人ほど集めてみました」
アジャスの顔を見るなり、冒険者ギルドのブネリは要件を切り出してくる。
「これでも足りなければ、もっと別の人間を呼んできます。
もっとも、誰を呼んでも聞き出せる内容に差はないはずですが」
「わかってる」
アジャスはそういって頷いた。
「あんただって、いつまでも工事を止めておきたくないだろうしな」
この工事の工程管理をしているブネリにしてみれば、一刻も早く工事を再開したいはずだった。
そのため、アジャスが要求することはかなり優先的に手配をしてくれる。
当然、これまでだって襲撃時になにがあったのか、関係者からの聞き取り調査を怠ってはいないだろう。
場合によっては、アジャス以上の熱意をもって、根掘り葉掘り詳細を聞き出しているはずだった。
「わしらが知っていることは、すでにブネリさんにすべておはなししておるのだがのう」
そう前置きして、人足はアジャスに語りだす。
「やつらがやってきたのは夕刻、日が沈みかけてぼちぼち仕事を仕舞おうかとしている時分のことだった。
わしらが片すために道具をまとめていると、ばらばらと森の中から出てくる者がおってな」
「相手の人数と風体は?」
アジャスが即座に問いを発する。
「十名以上はおったかの」
「そんなに大勢というわけでもなかった」
人足たちは顔を見合わせてから、そういった。
「ただやつらは、抜身の剣を持っておったので」
「そんなやつらに関わりになって、怪我をするのも馬鹿馬鹿しい。
わしらは、そのまま後も見ずに逃げ出した」
「服装は?」
アジャスが、再度訊ねる。
「それから、そいつらに抵抗しようとしたやつはいなかったのか?」
人足といえば、頑強な体を持ち血の気の多いやつもいるだろうに。
と、アジャスは思う。
「そんなことをいわれてものう」
「わしらは、賦役として村から駆り出されただけだし」
「なにより、こんなところで怪我をして病みついても、なんにも得することがない」
どうやらこの場に居るのは、アルマヌニア公爵領のどこかの村から、賦役として徴発をされて来た連中であるらしかった。
自発的にこの仕事に関わっているわけではないので、なおさら、
「こんなところで怪我をしたくはない」
という気持ちが強いのだろう。
「恰好はといえば、ちょうどあんたのような服装をしておったな」
「ああ。
その、森の中を歩きやすそうな、ただしかなり汚れた様子だった」
「服のあちこちが綻びて、そのままになっておったな」
「それと、ひどく痩せていた」
「やつらは、なにかいっていなかったか?」
「なにか食べる物が欲しかったらしい」
「あいにく、あの時はもう仕事をしまう時間であったし、わしらも食料などなにも持っておらんかったが」
「そう告げると、なんとも切なそうな顔をしてすぐに森の中に引き返していった」
「その直後に、森の中は捜索しなかったのか?」
アジャスは、今度はブネリの方に顔を向けて訊ねた。
「もちろん、しましたとも」
ブネリは即答をする。
「工事を中断し、大勢で街道周辺を捜して見ました。
しかし、それらしい人影は一向に見つからず」
現在までに至っている、というわけだった。
そんな騒ぎが、街道工事現場のそこここで、何度か繰り返されていたらしい。




