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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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独立国の下準備

「実際、領主の仕事はちょっとオーバーワーク気味だしなあ」

 ハザマはしみじみとした口調でいう。

「これは、洞窟衆の活動領域を常時際限なく拡大していることと、それに領主としての仕事と洞窟衆のトップとしての仕事との両方を同時にこなすことを求められているからで」

「それで、領主の方と洞窟衆の責任者を分離することを考えたのですね」

 リンザが、ハザマの言葉に頷く。

 このリンザも、ハザマの留守中にその重責と多忙さとを自分の身で実感していた。

「まあ、分離もやるつもりではあるんだが」

 ハザマは、そう続けた。

「ただ現実的に考えると、組織の中間層がある程度育ってこないと、それも難しいだろう」

 結局、人材をいかに効率的に育てて確保するのか、という問題に行き着いてしまう。

 それについてはルアが中心になって恒常的な仕組みを構築している最中であり、その成果が出てくることを、いや、その成果が現実に追いついて来ることを祈ることしか、ハザマたちの立場では出来ることがない。

「今までおれに集中していた権限を分割してあちこちに割り振る、ってことはどんどんやっていこうと思う」

 ハザマは、そう続けた。

「そうしないと、判断が要求される案件が渋滞して組織全体が機能不全になりかねない。

 具体的にいうと、現場の状況を熟知していてまともな判断が出来る人間にどんどんその場で判断可能な権限を与えていく」

「地方や支部にあまり力を与えするぎると、今度は離反の可能性が出てくるのではないか?」

 エルシムが疑問を口にした。

「そうなったらなったで、むしろ歓迎したいくらいかな」

 ハザマは即答をした。

「っていうか、おれとしては別に、洞窟衆という組織を丸ごと肥大化させようと考えたことはまったくないんだけど。

 結果としてここまで大きな組織になってしまっているのは、多分、この世界に社会的な隙間が多かったからだろうな」

「社会的な隙間、ですか?」

 リンザは釈然としない表情でそういった。

「王国を見てみればよくわかるが、従来の、この世界の国家っていうのはどうも硬直した身分や社会体制を前提にして、統治を行っているようなんだよな」

 ハザマはいった。

「農民であれ職人であれ貴族であれ、何世代も世襲で、血筋だけでその職業を維持していくことを前提としている。

 税金の接収でもなんでも、固定化された方法を繰り返しているだけだ」

 社会全体の事務処理能力が極端に低いから、そうせざるを得ないという側面もあるのだろう。

 前例に倣ってさえいれば大きな問題は起こらない、というわけで、でもそれは。

「そうしたやり方は、安定している反面、変化には弱い。

 社会的な、産業の流動性を否定し、抑制するような効果さえある」

 あるいは、と、ハザマは考える。

 変化を恐れる気風が強すぎて潰された発明なども、案外多いのではないか。

 そこへ出現した洞窟衆が、変化の震源地となって硬直した社会全体に亀裂を生み、その亀裂を拡大させ、従来の社会から無視され、なんらかの事情により参加出来なかった人間を吸収してここまで拡大をして来た。

 そういう側面は、あるのではないか。

 つまり、洞窟衆が急激に、ここまで拡大したことにもそれなりの素地があった。

 そう見なすのが自然であると、ハザマは考える。

 そうして拡大をしてきた洞窟衆が、今度は首脳部の処理能力がいっぱいいっぱいになったおかげで図体が大きいだけの愚物になるというのは、どう考えてもいい結末ではなかった。

 それにハザマは、もとから洞窟衆自体の維持や拡大を至上の目的として認識していない。

 洞窟衆をはじめとする組織というのは、構成員の便宜を図るために存在するのであって、構成員に無理な負担を強いてまでして無理に維持をするべきではないと、常々考えていた。

 その意味で組織的な分離や分裂については、ハザマはかなり前向きに考えている。

 構成員自体の要請がなければ、そもそもそんな事態にはなり得ないからだった。

 内発的な要請によって洞窟衆の各部署が洞窟衆から離れることについては、むしろ歓迎したいところでもある。

 それだけハザマたち中央の負担が軽減するからでもあった。

 むしろ、洞窟衆としては、そうした発展的な解消を目指して組織作りをするべきなのではないか。

 ハザマとしては、そうとさえ思っている。

 ともあれ、ここ最近、領主宛に送られてくる請願などの量を見るにつけ、もっと各部署での適切な判断を行い、自裁して動ける能力を養う必要があることは確かだった。

 そうした複雑な判断能力は、読み書きなどの定型的な学習とは異なり、なかなか効率的に教えることも難しいのだが。

 そうした内容を、ハザマはリンザとエルシムに対して説明した。

「寄る辺ない人たちが洞窟衆を頼って集まって来ることは、別にいい」

 その上でハザマは、そう結ぶ。

「こちらとしても労働力は欲しいわけだしな。

 ただ、長期的なことを考えると、そうして集まって来た人間もいずれは独立的に、自分で考えて自分の将来を選び、必要と思えば洞窟衆と袂を分かつような選択だってして貰いたい。

 その程度の自由ささえ保証できなければ、そもそも洞窟衆なんてデカ物を苦労して維持する甲斐もないのではないか?」

「全体の方向性としてはそれでいいとしても」

 一通りの説明を聞いた後、エルシムがいった。

「そういうのは、すぐに解決出来るような問題ではない。

 地道に必要な施策をした上で、相応の成果があがって来るのを待つしかないだろうな。

 なんにしても、ヒトが育つのには時間がかかる」

「わたしたちとしては」

 リンザが口を開いた。

「個々の人たちに働きかけるのは、ルアさんとかに任せて、それ以外の、責任の割り振りとか組織的な改良を進めるしかないですね」

 ハザマやリンザの立ち位置では、そのくらいのことしか出来ない、ということでもあった。

「しばらく領主代行をやってみた感想、いってみろよ」

 ハザマはリンザに訊ねる。

「素直なところを吐いて見ろ」

「なんでこんな細かい問題までいちいち領主室にお伺いを立てるのか」

 リンザは即答をする。

「そう思う案件が、予想よりも多かったように思います」

「だろう」

 ハザマはいった。

「こちらとしては、各部署で勝手に動けるように、必要な権限を持たせているはずなんだけどな。

 制度的にはそうなっていても、自分の責任で決断することを嫌がるやつが多くて、上へ上へとお伺いを立てることを続けているうちに、領主室まで持ち上がってくるわけだ。

 自分で判断し、責任を持って可決出来る人間がまだ圧倒的に少ないから自然とそうなってしまうんだが。

 こいつが、問題なわけだな」

「またさっきの話題に戻っていますよ」

 リンザが指摘をした。

「自分で判断できる人間が育つのを待つ。

 そういうことだったのではありませんか?」

「それ以外に」

 ハザマはいった。

「領主室直属の問題処理部門を、思い切って拡大したいと思っている。

 領主室にあがってくる問題を分析して、前例があるようならそれに倣って処理をし、前例がない場合はきちんとした解決方法を開発して適用する。

 場合によっては新たにその問題を処理する専門の部門を立ちあげ、実際に稼働させるところまで面倒を見る。

 今までにも似たような仕事はやって来たんだが、領主室にまで持ち込まれてくる案件の数を見ると、どうもそれでは追っつかなくなって来たらしい」

「その領主直属の部門は、かなりの権限を与えることになりますね」

 リンザはそう指摘をした。

「その部門が暴走して専横に振る舞わないよう、しっかりとした監査体制を整えることも必要になってくると思います」

「それも込みで、だな」

 ハザマはいった。

「領主室周辺の機構を大幅に充実して、もっと処理能力に余裕を持たせる時期に来ている。

 後それに……」

「まだあるのか?」

 エルシムが、口を挟んだ。

「あるよ。

 この時期に、必要なことだもん」

 ハザマはいった。

「立法機関を整備する必要もあるな。

 これまでハザマ領では、基本的には王国法に準拠して物事を判断して来た。

 だがこの王国法というのは、まあ聞くところによると、他の国の法体制も似たり寄ったりだそうだが、ともかく、ハザマ領や洞窟衆周辺で起こる問題に関しては、そのまま適用できない部分が多い。

 この例外案件が、またもや領主室の処理能力を食い潰している」

「前提となる社会体制、それに産業構造からして、まるっきり違うのだから、当然だ」

 エルシムが指摘をする。

「平地諸国と洞窟衆とでは、まったく別の環境であるといっていい。

 環境が変われば必要とされる法もまた変わる」

「今度、うちはどうも公爵領として独立をすることになるらしい」

 他人事のような口調で、ハザマはそういった。

「独立国ともなれば、自国内で通用する法体系も自前で整備せにゃならん。

 これまで使っていた法体系に不備が多く、実質使い物にならんとなればなおさら急務だ」

「でも」

 リンザは首を捻った。

「法律を作るのって、そんなに簡単に出来るものなのですか?」

「思いつきを発布するだけなら、簡単なんだけどな」

 ハザマは、そう答える。

「おれの名前で、今後はこうするからよろしくと各部署に伝えればいい。

 ただ、そのことと、実効性があり、あまり社会の実態と乖離していない法体系を整備することとは別問題だろう。

 実際に役に立つ物を作りあげるためには、それこそ、基礎研究からし直すくらいの気持ちでかかる必要がある」

「なんだか気の長いおはなしですね」

 リンザは、そう感想を述べた。

「それこそ、何年がかりの事業になるんだか。

 その法を発布してそれに従って物事を裁けるようになるまで、どれくらい待つ必要があるのやら」

「すぐに役に立つ、って仕事ではないってことは確かだがな」

 ハザマはリンザの言葉に頷いた。

「ただ、長期的に見るとこれもまた、必要だし業務の効率化に貢献する。

 しっかりした法があれば、それを参照して判断が出来ることが多くなるからな。

 少なくとも領主室に持ち込まれる問題は、減るはずだ」


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