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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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リンザの詰問

 そうこうしているうちに年が改まった。

 その年末年始の期間を、ハザマはバジルニアの領主官邸の中で過ごしている。

 とはいっても別に漫然として過ごしていたわけではなく、領主として洞窟衆の首領としての仕事をこなしていた。

 溜まっていた決裁事項を消化することと並行して、今の洞窟衆には足りない種類の処理能力を洗い出して新部署を作る準備なども着々と進めている。

 そうした新部署は、地味というか稼働したからといってすぐになんらかの成果が見えるようになるわけではないのだが、長い目で見ると領主室にまであがってくるクレームを削減する機能があり、ハザマの手間もそれだけ減る。

 そんな機能を期待して創設する部署になる。

 洞窟衆なりハザマ領内なりに潜在的に存在するクレームの元、問題となりがちな箇所を早期に発見し、問題が顕在化する前に解消をする、そんな機能を目指して創設される部署になるはずであった。

 洞窟衆もこれだけ組織として巨大化、複雑化をしてくると各部署間での摩擦はそれなりに出てくるわけで、その摩擦を調整して解消をするなり、それが無理なら問題を緩和するなりの調停を行う作業を専任で行う部署の必要も出てくるのだった。

 仕事の内容が多岐にわたり、なおかつ、扱う仕事が変わるたびに新たな知識を刷新する必要も出てくるという面倒な仕事になるが、こうした部署があるのとないのとでは組織全体の効率がかなり変わってくる。

 なにより、ハザマとしては洞窟衆という組織には、

「ハザマが不在であっても問題なく稼働し続ける」

 自律性を持つこと、を、期待していた。

 最終的にはハザマに限らず特定の個人を必要としない、属人性が極めて薄い組織にすることを目指している。

 いや、最終的には洞窟衆という組織自体が解体しても、良好な労働環境の保全など、洞窟衆のよい部分が残っていさえすればいいと、そう思っていた。

 こうしている現在も洞窟衆という組織はその規模を拡大中なわけだが、その成長志向はどちらかというとハザマの本意ではなく、周辺の環境との兼ね合いで仕方がなくそうなることを受け入れている。

 現在の森東地域などを見ると理解しやすいのだが、社会秩序が崩壊に近い状態になった地域の人々は、一時的にもこちらの内部に取り込んで身の安全を保証し職と食の保証をした方が動かしやすい、という面は厳然と存在をするのであった。

 思えば洞窟衆は、創設の頃から現在までそうして保護した人間を労働力として取り込み、場合によってはなんらかの知識なり職能なりを教えることを繰り返して成長してきた。

 その意味でも洞窟衆は周囲の戦乱を食い物にして大きくなった、という側面は否定をすることが出来ないのであった。

 組織としての規模が大きくなること自体を特に歓迎していないハザマにとっては極めて不本意ななりゆきではあったが、周囲はそう見なさないだろうな、とも思う。

 基本的に面倒がきらいなハザマとしては、洞窟衆という組織には安定して機能することしか望んでおらず、その規模については明確な希望やビジョンという物を抱いていなかった。

 ただ、面倒を嫌うがゆえに、漠然と、

「こぢんまりとした組織でも、別にいいんじゃね?」

 くらいには思っている。

 組織が巨大化、複雑化すれば、その組織を適切に管理するための手間は、どうしても肥大する傾向にあるからだった。

 だが現状は、そのハザマの漠然とした望みとは正反対の方向に進んでいるわけだが。

 こればかりは周辺地域の社会情勢を反映したものだから、ハザマがなにを願おうがあまり関係がないのであった。

 ここまで来たら、行き着くところまで動き続けるしかないのかもな。

 などと、最近のハザマは思っている。

「行き着くところ」

 とはすなわち、周辺地域の政治的な状況が安定し、なおかつ、洞窟衆的な思考法や価値観が周囲にまで伝播をして、洞窟衆自体が周囲からさほど必要がされなくなる。

 そんな状況にでもならない限り、この洞窟衆の肥大化は止まらないだろう。

 そう、達観をしはじめていたのである。

 もっとも、そうなる前に洞窟衆自体が内部的な要因により崩壊する可能性や、ハザマ自身がなんらかの理由により最高責任者の任を解かれて放逐される可能性の方が大きいような気もするのだが。

 いずれにせよ、そうした大きな変化の時が来るまで、この傾向は続くものと予想された。

 だとすればやはり、現在の洞窟衆を効率的にメンテナンスして、組織全体の稼働効率をよくする努力はするべきなのだった。

 そうしないと、領主の仕事が増えすぎて身動きが取れなくなるしな。

 結局、目の前の仕事とは、別にやりたくてしているわけではなく、未来の自分に楽をさせるため、省力化のためにする物なのだ。

 少なくとも、ハザマにとってはそうだった。


 そんなことをしている間に、いつの間にか暦が変わっていた。

 ハザマにとって、その年の瀬は、そんな感じだった。

 ハザマとハザマ領にとっては、そうした、いつも通りの仕事をしているだけの時間であったが、ほぼ同じ時期の周辺地域では、相変わらず激動ともいえる変化を潜っている。

 王国では来たるべき体制刷新に向けて貴族社会に激震が走っているところだったし、森東地域は相変わらずわちゃわちゃしているようだった。

 どちらも当事者たちが納得するまで揉め続けるしかないたぐいの混乱であり、特に前者の王国に関してはハザマはこれ以上干渉をしないように心がけていた。

 実際には単純に放置を決め込んで、こちらからはなにもしない程度のことだったのがだ、グラウデウス公爵の件でも少し手を出しすぎていたかなと、そう思わないでもなかった。

 王都を破壊してまるで省みるところがないグラウデウス公爵の姿勢に憤りを感じたのが一番の原因であったが、結果として見ればそのグラウデウス公爵と王家の諍いに際して、ハザマが王家に肩入れをしたような形になってしまっている。

 ハザマからすれば王家の進退などグラウデウス公爵の命運並にどうでもいいと思っていることなのだが、これも、外部はそう見なさないだろう。

 なんらかの計算なり目論見なりがあって、今回はハザマが王家を助けた。

 あの件のなりゆきを素直な目で見れば、そう解釈する者が大半のはずであった。

 ハザマ個人としては自分の行動を見知らぬ他人がどのように評価をしようがどうでもいいのだが、それが洞窟衆の総意や今後の方針と結びついていると見なされるのは、少しばかり都合が悪いような気もしていた。

 あれではまるで、特撮番組のヒーローショーではないか。

 あの場面ばかりが喧伝されたら、今後もなにかあればハザマが出向いてくるものと、そう誤解をされるのではないか。

 そのヒーローショーにおいて、ヒーローの役割を演じたハザマは、今になってそんなことを危惧するのだった。

 別におれは正義の味方ではないし、洞窟衆だって社会正義を実現するための組織というわけではない。

 そういう役割を外部から期待をされても、こちらとしては別にその期待に応じなければならない義理はないのだが。

 いずれにせよあの件は、王都の真ん中にある王城の出来事であり、目撃者も大量に存在していた。

 だからハザマの虚像がこれまで以上に肥大する材料には、なるんだろうな。

 ハザマとしてはそう想像し、人知れずそっとため息をつくのだった。


「あなたは自分のことを考えていなさすぎます!」

 年明けの挨拶も早々に終わらせ、リンザが唐突にそんなことをいい出した。

「なにをするのも周囲の都合をまず考えてから!

 自分自身の意見や意向は二の次三の次にして!」

「まあ、そうだな」

 ハザマはあっさりと頷いた。

「そういう側面は、否定できない」

 今さらな指摘である。

 ハザマが自分の都合しか考えない人間だったら、洞窟衆だってかなり初期の段階で放り出して、どこかに姿をくらましているはずであった。

 それをしていないのは、ハザマが自分自身の都合や意向よりも、洞窟衆の存在の方に価値があると、そう判断していたからに過ぎない。

 ハザマとしては公正な判断だと思っていたが、どの時点でももっと利己的に動くことは出来たはずだった。

 だが同時に、

「それを今になって指摘をすることに、なんの意味があるのか?」

 とも、疑問に思ったが。

「わざわざそんなことをいいに来たのか?」

 だからハザマは、その疑問をすぐにリンザにぶつけてみた。

 ハザマにしてみれば、自明の事実をここで確認をする必要性が理解できなかったのだ。

「そんなにあっさりと認めないでください!」

 なぜか、リンザはさらに憤りを強めた。

「そんなんだから、自分の結婚についてもあんなにあっさりと結論するんですよ!」

「ああ、その件か」

 ハザマはあっさりと頷いた。

「深く考えたり時間をかけても、結論自体は変わらんだろう。

 そうすることが最上であり、なおかつ、そうすることに抵抗を感じなかったら、それでよし」

 そうした恬然とした態度はハザマが結婚や恋愛、男女関係というもの全般について、あまり大きな意味を見いだしていないからこそ、成立をするものだった。

 結婚についても、自分と周囲に大きな問題が生じない相手であればそれでよしと、ハザマはそんな風に割り切っている面がある。

 相手の性格などに難を認めれば断固拒否をするのだろうが、今回の場合はその限りではない。

「だから、その自分さえ犠牲になればという発想は止めてください!」

 リンザは、そう叫んだ。

「おい」

 ハザマは、首を捻る。

「別におれは、自分を犠牲にして悦に入る、そんな気持ちの悪い癖はないぞ」



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