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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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あれこれの思索

 王都や王家はかなり騒がしいことになっているようだったが、バジルニアでは比較的平穏な日々が続いていた。

 つまりハザマは、書類や報告書と格闘をするだけの日々を送っていた、ということになる。

 ハザマ領内、あるいは洞窟衆内部の仕事は多かった。

 長らくハザマが不在にしていた間に決裁を必要とする事項が溜まっていた形であり、その整理作業と並行して、ハザマ自身ではなく、もっと下の部署の意向だけで自由に動けるような体制作りも行っている。

 そうした整理作業が進めばそれだけハザマ自身の権限が減っていくわけだが、現状ではハザマの許可を必要とする事項が多過ぎる。

 こうした権限の委譲は、組織全体の作業効率化のためには不可欠な仕事だった。

 ハザマの理想をいえば、ハザマなどが居なくてもまったく困らないくらいの自律性を持った組織になることが望ましい。

 一口に洞窟衆といっても、その活動する範囲は物理的にも分野的にも広範になりすぎたきらいがある。

 本来ならば各部門が別の組織として動いた方がよほど迅速に、小回りが利いた動きが出来るはずなのに、洞窟衆の下部組織として統轄されているために潜在的に持っている機動力が圧殺をされている形なのだ。

 これまで急速に拡大してきたこともあって、洞窟衆という組織はハザマという中央に対する求心力が思いの他、強い組織になっていた。

 洞窟衆なり冒険者ギルドなりを頼ろうとする人々というのは立場が弱いことが多く、そうした組織の庇護下に入るつもりで門を叩く。

 そうした心理が隅々まで行き渡っているせいか、なにかというと「上の了承」を求める心理を持つ者が、想定外に多いようだった。

 そうして組織の上へ上へと、了解を求めていけば、最後にはハザマのところに行き着く。

 むろん、中には、いや、かなりの割合でその途中で止められて、何者かの裁決を得てハザマのところにまで届かない案件もあったはずなのだ。

 が、実際にはこうして、ハザマの判断を求める書類がかなり大量に届いている、という現状がある。

 もっと気軽に、自分の裁量で動いてもいいんだけどな。

 と、ハザマは、そんな風に思う。

 基本的にハザマは、現場の判断を尊重し、もっといえば自分の手を必要としない範囲が広くなることを歓迎したい、という思いが強い。

 ハザマの不在中に領主代行をしていたリンザもそのことは知っており、同時に自分の負担を減らすためにも領主室にまであがってくる書類を減らそうとしてはいたようだったが、あまり効果はなかったようだ。

 いや、いくらかの効果はあったのかも知れないが、全体の量から見れば焼け石に水。

「もっと各部署、各部門での独立性を高めていかないと、すぐに身動きが取れなくなるな」

 と、ハザマは思った。

 溜まった書類を整理する人員を増やす、とかいう対症療法ではなく、洞窟衆という組織の体質を根本から変えていく必要がある。

 今のうちにそうしていかないと、洞窟衆という組織そのものの動きや反応性がどんどん鈍くなっていくはずだった。

 組織が大きくなったらなったで、面倒なことも増えるもんだな。

 と、ハザマは思った。

 この問題については、中間管理職に相当する各部門の管理者たちの意識を改革し、もっと自立的で、自分で決断をして責任を負うことも厭わない人材を地道に増やしていくしかない。

 結局これも人材育成とか教育の問題になってくるわけで、この手の問題というのは対策に手を着けはじめてから効果が出てくるまでに時間がかかる性質も持っている。

 しかも、種別としては「教育」だが、単純な知識というよりはもっと根本的な意識改革になるから、実際にはかなり難航もすることが予想された。

 本人の性格などに起因する要因が多く、つまりは適性によって選別をしていくしかないのかも知れないな、ともハザマは思った。

 いずれにせよ、抜本的な対策が必要なことは確かであり、ハザマはこの件についても自分の考えを語って領主室付きの職員に内容をまとめさせ、出来あがった物を人材育成部門のルアの方に回す。

 面倒ではあるが、放置しておくと事態は悪化する一方、といった性質を持つ案件でもあったので、早々に実効性のある対応をしなければいけなかった。

 おそらくはルシアニアの学園都市構想と絡めて、こちらの方にもなんらかの手を考え実行してくれるはずだった。


 その他、後宮はバジルニアではなく離宮としてルシアニアに建設をしたいのだが、とかいったハザマの個人的な要件的性質も多く含んでいる提案などもあがって来る。

 バジルニアは領都としての機能は十分に果たすように設計をされているわけだが、これから新たにハザマの家族となる人々が住む後宮を建設するにはいさかさ手狭すぎた。

 その点、ルシアニアならば土地も余っているし、それに山の中にあるバジルニアよりは人の行き来に不自由もしない。

 後宮とはいっても、つまりはハザマの奥さんやら子どもやらが普段暮らすための空間であり、それなりに豪華なしつらえにしておかないと格好がつかない、という事情もあったし、それに防衛面での不安もあった。

 バジルニアは比較的不便な場所にあえて作ったことによって、軍事面での脅威をかなり軽減しているわけになるのだが、ルシアニアはその逆に今では山地と平地を結び周辺地域を結ぶ交易地としての性格を強くしている最中になる。

 洞窟衆なり冒険者ギルドなりの関係者が市井に紛れ、率先して治安の維持に努めているので今のところ大きな問題は起きていないのだが、基本的に人の出入りも激しいし、不穏な思惑を抱いた人物の出入りだけを制限する方法はない。

 これもまた学園都市構想と絡めて、防御面で万全の備えをした区画をルシアニアの中に作り、後宮もその中に配置する……というより、その区画の中心にハザマの後宮を据えたらどうか。

 ルシアニアの都市計画を担当していた建築家の集団から、そのように提案をされたのだった。

 具体的には、現在造営中の一角を高い塀で囲み、丸ごと魔法効果を消去する結界で包み、その周辺に腕の立つ護衛を交代で常時貼りつける。

 そんな、提案であった。

 なんだかなあ。

 と、その案を目にしたハザマは思う。

 物理的にも予算的にも、そうした区画を作ることは可能であった。

 でも、どこか差別的な匂いがするそうした区画をあえて作ることに対して、ハザマとしては内心で面白く思っていない。

 この構想の元になっているのはつまり、予算と手間をかけて守るべき人間とそうでない人間が存在するという意識であり、発案者がその発想を公理として疑いもしていない事実に、ハザマは軽い苛立ちをおぼえる。

 もう慣れたはずなんだがなあ。

 と、ハザマは深呼吸をして自分の心を落ち着かせた。

 この世界においては、人間の命の価値は必ずしも等しくない。

 身分という物が公然と認められ、高い教養を持った人物とそうではない人物とが、平行して存在しているからだった。

「核となる人間自体に差はない」

 ハザマは呟く。

「多少の個人差、能力差があったとしても、全体からすれば誤差のようなもんだ。

 違いがあるとすれば、それは」

 生まれ育った環境の差、でしかない。

 大勢の人間にかしずかれて育った人間と、食うや食わずの状態で身過ぎ世過ぎの仕事ばかりをしてきた人間とでは、身につけることが可能な素養、その質と量とが自然と違ってくる。

 世の中が全般的に豊かになって行けば、その差は自然と解消されるはずだ。

 とはいえ。

 とも、ハザマは思う。

 そこまで行くのに、実際にはどれくらいの時間が必要になるものか。

 おそらくは、「人間が平等である」という意識が行き渡るようになるだけでも、数世代はかかるのではないか。

 それに、意識だけが先行しても、ただそれだけでは貧富の差が解消をされるわけではない。

 ハザマとしては別に貴族とそれ以外の身分の者とが平等の資産を持つことを目指すつもりはないのだが。

 そう。

 貧しい人間でも、相応の教育と、それに仕事を選べるだけの余裕を作れれば、それだけでもかなり変わってくるはずなのだが。

「実際には、難しいよなあ」

 誰にともなく、ハザマは呟く。

 富の偏在の是正とか、実質的な機会の平等性を保つとか、理想としてはともかく、ハザマの世界であっても完全に実現してはいない。

 それに、ハザマ自身も、理想に殉じて全生涯を捧げるような性格でもない。

 出来ることを可能な範囲内で。

 あくまで、手の届く範囲で、実現可能なことを実行していく程度のことしか出来ないし、してこなかった。

 自主性。

 自分のことは自分で決めるとする心性など、本当の意味で他人に教えることが出来るのだろうか?

 ハザマは、そうも考える。

 この世界に住む大半の人間は、そんなことをした経験をほとんど持っていないのだ。



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