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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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王都の空気

 報告書は他にも魔法関係の、

「あの巨人はいかにして作成をされたのか?」

 的な内容も含まれていたのだが、これについては時に専門的な詳細にまで触れられていて魔法の知識に疎いハザマには半分も理解が出来なかった。

 ただ、グラウデウス公爵が膨大な予算と長大な研究期間を用意しなければそもそも成功しないはずだった計画であることは確かで、つまりグラウデウス公爵はハザマの出現以前から召喚魔法を利用してなんらかの破壊工作を行う構想を抱き、準備していたことになる。

 その辺の詳細についても、これから厳しく追及をされるのだろうな。

 と、ハザマは想像をする。

 そうする主体は無論王家であり、ハザマたち洞窟衆が感知するべきことではないのだが。

 ハザマたち洞窟衆としては、あの巨人が姿を現す前の段階で捕らえていた術者を王家側に差し出すことしかしていなかった。

 洞窟衆がそうした術者たちを尋問しても得るところが少ないと判断されたからであるし、それに、洞窟衆内部でその手の尋問技術を持った人手は現在ほとんどが森東地域をはじめとする王都以外の土地に散っているという事情もある。

 洞窟衆としては、そうした術者たちを締め上げてまでして欲している情報がなかった、というのが素直に王国側に明け渡した理由としては一番大きかった。

 ともかく洞窟衆側としては、グラウデウス公爵側の事情や召喚魔法関係の技術情報などには、ほとんど興味を抱いてない。

 移動先の座標を指定できる転移魔法とは違い、世界間を移動する召喚魔法は不確定な要素があまりにも多く、その成果もなかなか安定することができなかった。

 そんなリスクの大きい魔法に関する情報を求めても益がないと、洞窟衆側はそう判断している。

 グラウデウス公爵の思想や背後の事情についていえば、それに輪をかけて、洞窟衆にとっては価値がない情報といえた。

 グラウデウス公爵はその野望を完遂することなく、志半ばで倒れている。

 すでに死んだ人間の動機を今になって詳細に調べても意味はない、というのが、ハザマと洞窟衆の判断であった。

 今回の件で直接的な被害を多く被っている王国としては、また別の見解があるのだろうが。

 ともかく、そうした魔法関係の報告書、その内容のほとんどは専門的に過ぎてハザマには完全に理解も出来ず、同時に興味を引く物ではなかった。

 無論、少数の例外は存在しているのだが。

「ルシアナ甲紋の改良型、か」

 興味が薄そうな表情で報告書の束をぺらぺらと指でめくっていたハザマは、ある文字列に視線を止めて、呟く。

 ルシアナ甲紋。

 ルシアナの外殻に描かれていたことからそう名付けられた、書呪の一種とされている。

 広く世間に広めたのはルシアナ討伐にも参加したゼスチャラで、その機能は外部からの魔法の効果を消去すること。

 以前から知られていた、方向性の有無によって消去する魔法を選別できるという非対称性が、同様の機能を持つ結界とは違っている。

 このルシアナ甲紋を使用すると、相手の魔法は消去して自分の側が一方的に魔法で攻撃を行うことも可能になるわけだが、そうした利点がある割にはあまり広く普及しているようには見えなかった。

 なぜかといえば、そのルシアナ甲紋を機能させるためには、長大な呪紋を書くスペースが必要であり、つまり、かなり広い面積がある物質にしか適用することが出来なかったからだ。

 それは、建物などに書き込むことは十分に可能であったが、盾などの個人が携帯をする防具に書き込むことはまず不可能という半端な仕様であり、そして、建物に使用するくらいならば既存の結界に頼ればそれで足りる。

 と、一般には、そう判断された形である。

 そのルシアナ甲紋の一番の短所を、グラウデウス公爵配下の魔法使いたちはどうやら克服してくれたらしい。

「布などの柔らかい物に書き込んで、折りたたむ、か」

 ハザマは、報告書の内容を短く要約をした。

 わかってしまえば、実にシンプルな答えだった。

 書呪とも呼ばれる、物質に刻み込むタイプの魔法は、つまりは魔力の通り道を確保しておきさえすれば機能はする。

 その呪紋自体が間違っていないのならば、コンパクトな形に折りたたんでいても十分に機能する。

 この性質は、ことによるとルシアナ甲紋以外にも応用が利くはずであり、その可能性はかなり大きいと、その報告書には記されていた。

 複雑で長大な、これまで使用が出来る術者が限られる高度な魔法でさえも、印刷によって大量生産して利用できる可能性すら、あるという。

 これは結構、凄いことなのではないか。

 報告書を読みながら、ハザマは半ば呆れていた。

 グラウデウス公爵は、こんなに大きな発見をたかだかルシアナ甲紋を持ち歩くことにだけ使用していたのか。

 なんて、勿体ない。

 いや、術者でもなければハザマのようにすぐに産業化、量産化の方に発想を転換する癖がないこちらの世界の人間では、そういう発想をすること自体が難しいのか。

 すでに実用化されている、魔力を蓄積する技術と連携させると、どれくらいのことが出来るようになるのだろうか。

 とにかく、これについては一刻も早く洞窟衆内部の魔法使いたちに、研究を進めさせる必要があるな。

 と、ハザマは結論をする。

 今回の件で、これまで洞窟衆側は損をする一方だったわけだが、ここへ来てその持ち出し分を挽回しておつりが来る金脈を発見できたのかも知れなかった。

「これもまた、これからの課題だな」

 ハザマは、小さく呟く。

 ここまで魔法が汎用的な技術になる以上、その開発要員、魔法研究者の絶対数を増やすことも考えなければならないだろう。

 多分、今存在している魔法使いたちだけでは、絶対的に労働力が足りなくなる。

 そんな時代が、もうすぐ来るはずだった。

 ルシアニアの学園都市構想の中に、魔法学科の創設もしっかりと盛り込んでおく必要が出てきたようだった。


 そうした身内の報告以外にも、ぼちぼちと王都の動きがハザマの元に届いてくる。

 まず、グラウデウス公爵の今回の所業について、王国上級貴族である公爵家ゆかりの者たちは重く受け止めているようだった。

 王家がグラウデウス公爵の犯行について、かばうことなく万民に伝えたことも大きく影響しているのだろう。

 この事実は王家が、

「もはや身分や家格によって、不祥事をうちうちのうちに隠す」

 ような時代ではないと、そう宣言したのも同然だったからだ。

 特に王都で直接的な被害を受けた領民たちは、グラウデウス公爵家のみならず貴族という存在全般に対して不信感を抱くようになっているようだった。

 貴族といえば、有事の際には領民を守る存在である。

 これまで、そういう建前に則って少なくはない納税を行って来たわけで、今回はその貴族の筆頭である公爵様がこのような事件を起こしたわけだから、領民たちが貴族全体へ懐疑的な視線を向けるようになるのは当然だった。

 王都の貴族たちはかなり居心地の悪い思いをしながら、それでもそれ以外にしようもなく、そうした被害を受けた領民たちを支援している。

 王都は、緊張に包まれているとまではいわないものの、かなりの雰囲気が悪くなっているということだった。

 こうした空気であるから、近く公開される予定の、王家による公爵家の切り離し宣言は、おそらく、歓迎されるのではないか。

 ハザマは、そんな風に思った。

 貴族たちの中には、

「このようなことをしでかしたグラウデウス公爵家を討ち滅ぼすべし」

 という過激な主張をする者も少なからず居るようだった、これはまるで現実的ではないし、実現は不可能だろうとハザマは思う。

 公爵家の領地を丸ごと潰そうとすれば、それこそグラウデウス公爵領の側も必死になって抗戦をする。

 事実上、内乱になるわけで、今の王家にそんな真似をするような余力があるはずもなかった。

 そんな余力があるようだったら、洞窟衆の扱いももう少しマシになっていだだろうし、そもそも公爵領の切り離し構想などが出てこない。

 なにより、今は治安維持軍の人員が多数、王都周辺に駐留をしている。

 そんな中で正面から、

「公爵領と戦争します」

 と宣言をするほど、今の王国首脳部はアホではないはずだった。

 実行犯であるグラウデウス公爵はすでに死亡をしているし、それ以外にこの件に関わった人物を探り出して召し捕るくらいが、つまり、現在王家が示している対策くらいが現実的な落としどころだろう。

 それに、グラウデウス公爵家はこれから、

「現役の当主が王家への反逆を試みて、そして失敗をした」

 という汚名を背負いながら知行の半分くらいを召しあげられ、その上で他の公爵家と同様に王国の庇護を失うことになる。

 そうした前歴があるグラウデウス公爵家が周辺諸国とどのような信頼関係を築けるものか。

 それに、いきなり税収が半減するような環境で、公爵領のみの力でどれほどの経営を継続できるものか。

 特に武力に訴えた制裁を加えずとも、十分に茨の道だとは思うがなあ。

 と、ハザマは思う。

 グラウデウス公爵家は、すでに貴族としての威光やら権威やらが丸潰れになっている状態であり、貴族にとってこれらの要素は、場合によっては死活問題に直結する。

「これから」のグラウデウス公爵領の人々が、この危地をどのように乗り越えてくつもりなのか。

 ハザマとしてはあくまで他人事として見守ろうと思っていた。


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