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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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リンザの混乱

「まあ、そういう人選になるだろうな」

 ハザマは平然とした態度を崩さなかった。

「消去法でいけば、そういう結論になる」

「なに真面目な顔をして論評しているんですか!」

 そんなハザマに、話題の主であるリンザが食ってかかる。

「結婚ですよ結婚!

 その意味がわかっているんですか!」

「と、いわれても。

 おれの方はあんまり変わらんしなあ」

 ハザマはいった。

「何人嫁さんが居ても居なくても。

 そもそも洞窟衆の首領だってハザマ領の領主だって自分でなりたくてやっているわけではないし。

 今さらもういくつか不本意な肩書きが増えたところで、大勢に影響はないというか」

「大勢って」

 リンザはそういって、しばらく絶句をする。

 それから気を取り直した様子で、

「こちらで誰かと親密になりすぎることを、これまで男爵は避けて来たのではないですか?」

 と、神妙な表情で訊ねた。

「おそらくは、故郷に帰る日のためにこちらに入れ込みすぎないようにするためだと思うのですが。

 家庭を持つとなると、男爵も本当にこっちの人間になっちゃいますよ」

「妙なところで鋭いね、お前」

 ハザマは少し、困った表情を作る。

「男爵とのつき合いはそれなりに長いので」

 リンザは、そう応じる。

「なにを考えているのか、ある程度は想像出来ます」

「そういう気持ちがあったことは認めるし、今だってあることはあるんだが」

 ハザマはいった。

「そもそも、現実問題として、元の世界へ帰る方法、その糸口すら掴めない現状では、こちらに定住することを前提として生活していかなけりゃならんわけでな。

 そういう前提がなければ、別におれも今のように洞窟衆の首領なんかに収まってはいないんだよ」

 案外、ハザマの本音に近い言葉だった。

 気持ちは気持ちとして、それとは別に現実的な判断としては、こちらの世界で快適な生活を営むために必要なことをしなければならないと、ハザマはそう思っている。

 洞窟衆の責任者として動いているのも、結局はそのためであるといえた。

「男爵が暮らしていた場所に帰る手立てを探さないんですか!」

「探そうにも、探しようがないんだ」

 ハザマは、リンザを説得するような口調で諭す。

「この世界には転移魔法が存在する。

 だけどあれは、明確に転移先を指定していないと失敗する魔法だそうだ。

 この世のどこにもないおれの故郷を、転移先に指定することは不可能。

 そもそも、そこが具体的にどこにあるのか、方角や距離もはっきりしない。

 まるっきり、手掛かりがないんだ」

 ハザマとて、これまでに帰る方法をまるで探さなかったわけではない。

 エルフたちや魔法使いなど、頼りになりそうな者に片っ端から相談してみたこともあるのだが、そもそも「別の世界」がどういう性質の場所であり、どこにあるのか。

 そういった具体的な詳細を知る手掛かりはまったくといっていいほどに得ることが出来なかった。

 召喚魔法については知られていたので、「召喚獣が元いた場所」としてここではないどこかが存在することは魔法使いも認識していたのだが、いくつか存在するらしいそうした別天地についての知識は極めて乏しく、ましてや、ハザマが暮らしていた世界を特定出来るような手掛かりもまったく掴めなかった。

 ハザマとて、元の世界に帰りたいという気持ちは今も抱いている。

 だが、それはそれとして、もっと逼迫した問題として現在の生活が存在している。

 そしてどちらを優先するべきかといったら、断然後者の、今目前に存在する現実になるのだった。

「今ではこの場が、おれの現実なんだよ」

 ハザマはリンザに向かって、微笑みながらそういった。

「そして現実からは、逃げることが出来ない。

 逃げても碌なことにはならない」

「そんなに寂しそうな顔で笑わないでください!」

 リンザが叫んだ。

「あなたはルシアナ討伐の英傑なんですよ!

 ガダナクル連邦と治安維持軍を影から作った立役者で、ついさっきも王都の危機を救ってきたばかりです!

 なのになんで自分自身のことはすぐに諦めてしまうんですか!」

「別に、お前が怒ることでもない」

 ハザマは、なんともいえない微妙な表情になる。

「だがまあ、おれは多少運に恵まれただけのただの男で、それ以上の存在ではないから。

 そりゃ、出来ることと出来ないこと。

 その差は、歴然として存在するよ」

 ハザマは別に神様でも万能の人間でもない。

 バジルのおかげで通常より出来ることが多いだけの、ただの人間に過ぎなかった。

 少なくとも、ハザマ自身の自認の上では。

 さらにいえば、存在するのかどうかも定かではない、元の世界へ帰る方法ばかりを探求するだけでは、生活が成り立たないのである。

 現在、ハザマの身分が保障されているのは、洞窟衆の首領として、ハザマ領の領主として相応の仕事をしているからなのである。

 その仕事を放り出して、まともな結果が出るのかどうかもわからない元の世界へ帰還する方法を探すのは、どう考えても現実的な選択とはいえなかった。

 解決の糸口が存在して、相応の研究を行えばどうにかなりそうだという見通しがあるのならばともかく、そうした糸口さえない現状では、ハザマとしてもそちらの優先順位を下げるしかない。

 一言でいえば、ハザマはこちらの世界で生活をすることで忙しく、元の世界のことにかまけていられるほどに暇な身分ではないのであった。

「悟ったようなことをいわないでください!」

 リンザは激昂した。

「いつでもふらりと、どこかに姿を消してしまう癖に!」

「あー……それは」

 ハザマは困惑をした様子で、左右を見渡す。

 タマルが軽く肩を竦めて見せただけで、誰も助け船を出そうとはしてくれなかった。

「すまん。

 というか、ちゃんとここに帰る努力はしていたし、実際に今、ここに帰ってきているだろう?」

「いつだって勝手なんですよ、あなたは!」

 リンザは続ける。

「取り残される人のことをまるで考えていないで!

 したり顔で、一人で、後も見ずにどんどん先に進んでいってしまう!」

「えー、と」

 ここでハザマは、戸惑った様子を見せた。

「つまりおれは、なにを責められているんだ?」

「自分だけ勝手にわからないでください!」

 リンザは叫んだ。

「結婚ですよ、結婚!

 なんでそんなに、平然と受け止められるんですか!

 一生の大事だっていうに、あっさりと決めてしまって!」

「つまりリンザ様は」

 埒があかない。

 そう判断をしたのか、ようやくルアが口を挟む。

「この縁談には反対なさっているのですか?」

「わかりませんよ、そんなの!」

 リンザはいった。

「そんなこと、まるで考えたことがなかったのに!

 だって、男爵ですよ!

 いい年をして世話が焼けてだらしのない、あの男爵!」

「えらいいわれようだな」

 ぽつり、と、ハザマが小さく呟く。

「そのくせ、なんかここぞってところでは誰にも出来ない活躍をして結果を出してしまうし!

 なんだってこんな人を、こんな人が……」

 リンザの声は徐々に小さくなって、勢いをなくしていく。

「つまり、リンザさんは、これまで相当鬱憤を溜めて来ていた、ということですね」

 タマルが、したり顔でそんなことをいった。

「男爵不在中の苦労を考えれば、これくらい取り乱すことも十分に納得は出来ます。

 ただそういうことは、出来れば男爵と二人きりの時にでもしていただいた方がご自身のためになるとは思いますが。

 そうする方が、甘えるきっかけになると思いますよ」

 リンザは顔を慌てて伏せた。

 耳まで真っ赤になっている。

「リンザ様は、なんだかんだで一番男爵の身近な人ですからね」 

 マヌダルク姫はそういった。

「身近な存在である分、不満も多いのでしょう」

「実務関係から見ても、リンザ様が男爵の正妃になられるのは理に適っているように思います」

 メキャムリム姫がいう。

「なんといっても、これまで領主代行として立派に職務を務めてきた実績がおありですから。

 領主代行とはいっても、実質的にはハザマ領の領主と洞窟衆の責任者、その両方の職務を兼任しているような物で。

 そんな激務をそれなりにこなせる人物は、そうそういないと思います。

 なにしろどちらの仕事も、組織の内情を正確に把握していないことには勤まりませんし。

 そしてハザマ領と洞窟衆は、組織の形態としても複雑で変化が激しい。

 公正にいってリンザ様は、実務家としてかなり優秀な人材であると保証出来ます」

「実務家というのならば、メキャムリム姫様の方がよほど……」

「そのわたくしが保証をするのです」

 顔をあげたリンザが反論をしようとすると、メキャムリム姫はそれを遮った。

「単純に仕事をこなすだけならば、わたくしでも可能なのですが。

 それに加えて、政治的な判断力や決断力までも求められるとなると、わたくしだけでは対処出来ないこともあります。

 ですが、リンザ様はご自身で決断をなされた実績がある。

 前例処理をするだけの留守番役に留まらなかったという、実績が存在します。

 洞窟衆内部の意見としても、リンザ様の業績は知られているでしょうし、リンザ様が男爵の正妃となられることに表だって反対出来る人はほとんどいないと思いますけど」

「さらにいうと、ですね」

 今度はルアが、いった。

「男爵がどんな女性を選ぶのかということは、外部の勢力においても注目されています。

 そこで、王族でも貴族でもない、平民の女性が選ばれたと公表すると、今後、洞窟衆がどのような方向を目指しているのかという、指針を公示するのと同じような効果が得られます。

 洞窟衆とは身分や出身によらず、能力さえあれば取り立てられ、相応の仕事を与えられる組織であると、外部に向かってそう伝えるために、これ以上に明快な、わかりやすい例はありません」



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