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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ハザマの虚像

「方向性はそれでいいとして」

 ハザマは周囲を見渡してから、そう確認をする。

「それを実現すること、本当に可能なの?」

 理念などはともかく、実務的なことを考えるとかなり煩雑なことになると思う。

 これは、今、ハザマがざっと考えただけでも断言することが出来た。

「大変なのは確かですけど」

 一同を代表して、タマルがいう。

「逆に、それくらいのことをしないと、これからの洞窟衆は外部から期待される過大な要求を処理しきれずに、機能不全の状態になってしまいます」

 人員、それも末端の単純労働者ではなく、そうした末端を管理する中間管理職の絶対数が不足をしていること。

 これは、以前から指摘されていた洞窟衆という組織の宿痾ともいえる欠陥であった。

 それを根本から解決するためには、恒久的に人材育成をする機関を立ち上げて運営していくしかない。

 また、こうした役割を果たせる人材であれば、洞窟衆以外のどこか別の場所へ赴いても仕事に困ることはない。

 かなり汎用的で、つぶしが利く人材になる。

 つまり一度仕上げてしまえばどこへ行っても通用する人材になるわけで、だからどんどん、大量に生産をしてしまおう、というわけだった。

「なんの後ろ盾がない人間も、学業を修めた後に数年洞窟衆の仕事をすれば学費を免除するような制度を整えようと思います」

 メキャムリム姫がいった。

「今の時点でも似たようなことはある程度行ってるのですが、それをもっと大々的に、制度としてもよりしっかりしたものを整えて実行する形になります」

 一種の奨学金制度だな、と、ハザマは思う。

 人材育成にかかる費用については、これまでも悩みの種ではあった。

 基本、洞窟衆では「当人の負担、あるいは後払い」という形を採用することが多いのだが、一時的にせよ洞窟衆が負担をする以上、相応の財政的な負荷となっていることは否定できない。

 長期的にはその赤字も徐々に回収出来るはずなのだが、今の時点では完全に洞窟衆が一方的に持ち出している形なのだ。

 それに、そうした育成中の人数が今では相当な数に達していることから、その負担もかなり大きくなっている。

「長期的にはともかく、今の時点で発生しているその学費の負担は、どう解消するつもりなのか?」

 ハザマはそのことについて質問をした。

 そんな負担も積もり積もって大きくなりすぎれば、洞窟衆全体の財政を圧迫するようになるのではないか?

「その負担を軽減する必要もあって、学園都市構想をぶちあげたんですけどね」

 この疑問には、タマルが答える。

「使える人材を欲しているのは別に洞窟衆だけではありません。

 そうした教育機関をうまく利用したい先からも出資を募り、負担を分担していいただくという……」

「まさか、周辺の諸侯から……」

「王族やら貴族やら。

 それに、大手の商会などにも、とにかく片っ端から心当たりすべてに声をかけるつもりです」

 タマルは、澄ました表情で答えた。

「費用だけに留まらず、教員についても出来るだけ幅広い場所から集めた上に選抜をする必要があるので、どのみち、洞窟衆の内部だけですべてを収めるような形にはしないつもりです」

「資金その他、外部にも、相応に協力をして貰うということになると」

 ハザマは、思案顔でそういった。

「洞窟衆が主催をする私学、という性格はかなり薄れるわけだな?」

「洞窟衆が主催をする、いいかえれば、一番の責任を負うことは間違いないのですが」

 マヌダルク姫がいった。

「その上で、広く協力者を募った方が、より公共性、共有性が強い性格のものになると、そう思うのです。

 そして教育機関としては、どちらかというと、そうした性格が強い方が都合がいい」

「どっかの勢力にとって都合のいい情報ばかりを学生に刷り込みをしても仕方がないしな」

 ハザマは頷いた。

「協力者を募るのはいいが、その上で独立性を保つ、外部からの圧力をはね返すくらいの強さも欲しいところだな」

「そういう役割は、洞窟衆が担うのが適切なのではありませんか?」

 メキャムリム姫は、そう指摘をした。

「今の洞窟衆とことを構えて、それでも平然としていられる勢力は、少なくともこの周辺には存在をしないと思いますが」

「それもそうか」

 ハザマはその言葉にあっさりと頷いた。

「独立性とか公共性は、あくまで洞窟衆が担保する。

 その上で、協力を呼びかける形か」

 そういった後、しばらく間をおいて、ハザマは呟いた。

「こういっちゃあなんだが、うち、そこまで信用があるのか?」

 ハザマのこの言葉を聞いたタマル、マヌダルク姫、メキャムリム姫、リンザは複雑な表情で顔を見合わせる。

「ええと」

 しばらくして、リンザが神妙な表情で口を開いた。

「まず事実として、男爵はルシアナ討伐の英傑であらせられます」

「まあ、事実だ」

 ハザマはあっさりと頷いた。

「ってか、お前もその場に居ただろう」

「次に洞窟衆と冒険者ギルドとは、先のスデスラス王国での騒動にて、ケイシスタル公女の要請に従う形で力を貸し、現地の混乱を収めました。

 しかる後に、治安維持軍の発足にも大きく寄与しています」

「あくまで仕事として受けただけなんだが」

 ハザマは、これについても頷いた。

「まあ、事実ではある」

「さらにいえば」

 リンザは続ける。

「つい先ほどのことになりますが、王都での、いえ、王城内のあの騒ぎにおいて、男爵は見事にグラウデウス公爵を討ち果たし、結果として王子様と王女様を救い出しております」

「これも事実だが」

 ハザマは、ため息混じりにリンザに訊ねた。

「なあ、なにがいいたい?

 そんなわかりきったことばかりを並べ立てて……」

「そのわかりきったことをまるでわかっていらっしゃないのは、どうやら男爵だけのようですね」

 リンザはそういって首を左右に振った。

「洞窟衆なり冒険者ギルドなりは、欲得ずくで動く団体です。

 内外でもそのように認識されていますし、その認識は間違いではありません。

 しかしその中心に居るハザマ男爵は、必ずしも損得だけを見越して動く人間ではなく、場合によっては義によって動く無私の人であると、広くそう認識されています。

 ルシアナを討伐しようとした時、ケイシスタル姫を支援しようとした時、そして、王城でグラウデウス公爵を倒そうとした時。

 それぞれあの時点で、そうすることによって男爵がどのような利益を得るのか。

 それを説明できますか?」

「……あー……」

 ハザマは、しばらくそんな不明瞭な声を出すことしか出来なかった。

「つまりこのおれは、世間ではそう見られているわけか?」

「私利私欲ではなく、もっと広い視野で見て公正な判断をして動く人間だと、そう思われています」

 リンザは断言をした。

「さらにいえば、不可能を可能とする英雄でもありますね。

 実物の男爵と面識がない人たちは、勝手にそんな妄想を抱いているわけです。

 生きる伝説ですよ、あなたは。

 おまけに、一度動き出すとその妄想を裏付けするような事例ばかりを作って来る。

 その英雄であるあなたが背後に存在をする洞窟衆という組織がこうした公共性の強い学園都市を構想している形になるのですから、そうそう拙いことにはなりはしない。

 そう認識する人が、ほとんどでしょう。

 洞窟衆という組織よりは、あなたという存在そのものが、学園都市構想の公共性を保証している形です。

 さらにいえば、現在の洞窟衆なり冒険者ギルドなりの勢力を持っていれば、普通ならばとっくの昔に周辺諸国の侵略に乗り出しています。

 しかし男爵は、まるっきりそんなそぶりを見せていない。

 こうしたことからも、周辺諸国は男爵の無欲ぶりは公然のことと認識されているわけです」

「別におれは、完全無欠なスーパーマンってわけではないぞ」

 ハザマは、不機嫌そうな表情でそういった。

「よく知っています」

 リンザはその言葉に、あっさりと頷く。

「だけどこの場合、実際の男爵がどういう人間であるのかはあまり関係がありません。

 男爵と面識がない人々が、男爵についてどう思っているのか、という点だけが問題となります」

 実像ではなく、イメージの問題なのだ。

 と、そう断言をされた形である。

 そしておそらく、リンザのこの視点は、正しい。

 ハザマにしてみれば極めて不本意なことだったが、ハザマのパブリックイメージはすでに一人歩きしている状態であったし、そしてその虚像に十分な利用価値があるのも事実だった。

 というか、逆に、そんなハザマが主催をしている洞窟衆にしか、この学園都市構想は実現できないような気がして来た。

 いや、帝国あたりには実現可能なのかも知れないが、その帝国にはわざわざ莫大な資金を投じて急いで人材を育成するべき動機を欠いている。

 広大な版図を持っている帝国にしてみれば、優秀な人材なぞわざわざ育成をするまでもなく、待っているだけでいくらでも勝手に売り込みに来るはずだった。

 比較的ローカルな範囲で密度の濃い活動をしている洞窟衆のような組織でなければ、そもそもこんな人材難の問題は深刻にはならない。


「まいったなあ」

 しばらく間を置いて、ハザマは万感の思いを込めて呟いた。

「おれ、これからどうなるんだろう?」

 今の時点で、これである。

 これからハザマの行動がどんな結果を生みどのような波紋を生じるものか、まるで想像が出来なかった。

 それでも、

「今後はもっと、自身の行動を慎もう」

 などという殊勝なことは、まるで考えていないのだったが。


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