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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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首領稼業の再開

 基本的にハザマは王国内部で権力闘争がどうなろうと特段興味はなく、ただそれが大勢の、それこそ数万とか数十万という単位の領民にまで害が及ぶような事態は避けたいと思って動いていた。

 そうした被害は可能な限り少なくした方がいいに決まっている。

 ただそのこととは別に、それ以外の誰に味方をしただの敵に回しただのといった些事には限りなくどうでもよく、さらにいえば王国が今後どうなろうがあまり興味もない。

 あまりにも放漫な経営をしてハザマ領にまで害が及ぶ事態はやはり困るのだが、そこまで酷い事態にでもならなければ出来るだけ静観しておきたいところだった。

 一応、ハザマは王国から男爵号を送られていて、形の上では臣下である、ということにはなっているのだが、それが形式以上の意味を持っているとは、爵位を与えた側も与えられた側も思っていない。

 ただ、

「なにも意思表示をしておかないよりはマシ」

 程度の、ごくごく表面的な首輪にすぎず、しかもその首輪を受けた側は首輪の有無など意に介する様子もなく、自由気ままに動き回っている。

 ハザマの側から見れば、それ以外の制約もそれなりに多く、言動が制限されていると思うこともないではないのだが、ともかく周囲の目を気にせずに動いていることだけは確かだった。

 この時期、近隣の王族や貴族のうち、ハザマほど自由に動いている人物は皆無であっただろう。

 そうした身分にあることによって、自然とやれることとやれないことが峻別されるのは、立場であり身分というものだからだ。

 そしてハザマは、そうしたこの世界の規範をまるっと無視して動いていた。


「そのおかげで、たっぷりと仕事が溜まっていますからね」

 ハザマの事務机の上に積まれた書類、その、文字通り山をなした間からかろうじて顔を覗かせたリンザがそういい切った。

 山をなしている、というか、机の上に書類の塔がいくつも出来ているような状態だった。

「……これ、全部?」

 手近にあった書類の端を、指先でめくりながらハザマが確認をする。

「これでも、かなり減らした方なんですよ」

 リンザは、そう断言した。

「火急の、急ぎ判断をくだす必要があった案件とか、ときには多少の越権行為をしてまで処理できる物は処理しておきましたし」

 不在の期間が長すぎたか。

 と、ハザマは思った。

「まだまだ権限が集中しすぎているなあ」

 ハザマは小さくそう呟いてから、

「これだけの数が溜まっているんだ。

 せめて、優先順位をつけて整理する人員を何名かつけてくれ」

 と、リンザに要求をする。

 これだけの数の案件を、自分一人だけでコツコツ処理していっても、効率が悪いのであった。

「そういうと思いまして」

 リンザが片手をあげて合図をすると、執務室の中に十名ほどの男女が入ってくる。

「少し前から領主室に配属された人たちです。

 存分にお使いください」

「至れりつくせり、だねえ」

 ハザマは、呆れたような感心したような、ともかく気の抜けた声を出す。

「ともかく、今はここで領内と洞窟衆の仕事に専念してください」

 リンザが、凄みのある笑顔を浮かべてそういった。

「なんだかんだで、大変な時期なんですから。

 外の厄介事に首を突っ込んでいられるような余裕は、しばらくはありません」

 また勝手にふらりと居なくなるな、と、そう釘を刺された形だった。

 ……別におれの意思で、長いこと留守にしていたわけでもないんだけどな。

 ハザマは内心でそう思っていたが、その内容を直接口に出さないだけの分別も持っていた。

 口に出していえば、確実にリンザは怒るだろう。

 このリンザは、長引いたハザマの不在によって一番割を食った人間でもある。

「それから」

 ハザマが職員たちに声をかけるよりも早く、リンザが言葉を続けた。

「もうすぐこちらにメキャムリム様とマヌダルク様、タマルさんとルアさんがいらっしゃるそうです。

 皆様それぞれ、いろいろと確認したいことがあるとか」

 とにかく、ハザマの領主生活も本格的に再開したようだった。


 新たに配属された職員たちには、とりあえず溜まっていた案件の仕分けを頼んでおいた。

 各案件の重要度については、その場ですぐに判断は出来ないだろう。

 だが、何件も内容を読み込ませればどの案件から先に片付けるべきなのか、次第に判断がついてくるだろうし、さらにいえばハザマ自身が判断をくだすまでもなく、もっと下の役職の者が決裁をすればいいだけの案件も含まれているかも知れない。

 いや、逆に、ハザマが直接判断をする必要がある領域はどんどん狭くしていくべきであり、場合によっては新たな役職を作ってでもそうした案件を処理して貰う。

 積極的にそうしていかないと、この手のハザマの仕事などはどんどん膨れていく一方なのだ。

 そうした意図を職員たちに説明しているところに、四人が到着した。

 リンザがいっていた、メキャムリム・ブラズニア姫、マヌダルク・ニョルトト姫、タマルとルアである。

 事実上、現在の洞窟衆を動かしているといっても過言ではない組み合わせだ。


「まずは無事に帰還されたことをお祝い申しあげます」

 最初に口火を切ったのは、ニョルトト姫だった。

「私事についても相談したいことがいくつかありますが、まずは公務について片付けてしまいましょう」

「そうして貰えると、助かる」

 ハザマは真顔で頷いた。

「ニョルトト姫様は、森東地域でご活躍なさっているとか」

「活躍というほど、華々しい成果は出せておりません」

 ニョルトト姫はまっすぐにハザマの顔を見返してそういった。

「なんと申しましょうか、あちらはとても特殊で複雑な地域ですので。

 各勢力の折衝をしておりますが、せいぜい一進一退というところで思うような進捗にはほど遠いのが現状です」

「報告書でざっと読んではいるのですが」

 ハザマは訊ね返した。

「そこまで難しい場所なのですか?」

「道を一本通すのにも、誰に断りをいれればいいのか、それを探るのにかなりの労力を使います」

 マヌダルク姫は答える。

「なんというか、小勢力がひしめき合い、しのぎを削り合っている場所というのは、何事でも複雑になるものですね」

 はなしを通すべき人間がはっきりしていないか、それとも複数存在していてそのすべてに了解を取らないといけないので、そうした有力者の見極めをするところから手を着けないとどうにもならない。

 そんな複雑な土地柄であるらしい。

 外交関係を担当するニョルトト姫としては、神経を削られる思いだろうなあ。

 と、ハザマは漠然と想像をする。

「現地の有力者の中から、誰かを適当に選んでそいつに周辺を平定させるというのは駄目なんでしょうか?」

「こちらの手先となるような傀儡政権を作る、ということですね」

 マヌダルク姫は、そういって頷く。

「その手も真っ先に検討しましたが、どこかに肩入れをすればさらに泥沼の、味方と敵とがめまぐるしく入れ替わるような泥沼の戦場が発生してしまうような状況です。

 あそこに居る有力者たちは、誰かが抜けがけをしそうだとなると集まって一斉に足を引っ張ろうとする習性があるようですから」

 それはまた面倒な。

 と、ハザマは思った。

 どうも、森東地域の指導者たちは、嫉妬心が強くて他人の足を引っ張るのが好きであるらしい。

 そうした心性が支配的な文化だと、なかなか進歩的な考えは根づかないだろう。

 珍しく、洞窟衆の進出が難航しているのは、そういう文化も一因になっているのではないか。

「森東地域については、また後で詳しく相談しましょう」

 この場でこれ以上詳しく検討しても、時間がかかりすぎる。

 そう判断をしたハザマは、話題を変えることにした。

「洞窟衆なりハザマ領なりの運営について、なにか問題になるようなことはありませんか?」

「関わる人員の増大に、人員教育が追いつきません」

 誰よりも早く、ルアが口を開いた。

「どこもかしこも、使える人間を寄越せという。

 こっちだって教材の生産を急がせ教員を増員して、教育期間の短縮に力を入れているというに」

「そんなにか?」

「毎日何百人、場合によっては千人を超える、使える事務員を各地、各部署に送り出しているというのにですよ。

 それでも、それ以上に人を寄越せという要請が絶えないんです!」

「そっち方面への、予算の追加とかは?」

 ハザマは、タマルに確認をする。

「もう何度もやっているし、教員も教室の確保にも心を砕いてきているんですけどね」

 タマルは、そういって肩を竦める。

「いかんせん、供給出来る人数よりも必要とされる人数の方が圧倒的に多い」

 事務員として使える、というのは、つまりは読み書きと四則演算がこなせる、程度の水準しか期待をされていない。

 ハザマからすれば、まったく問題にもならないようにも思えるのだが、まともな公的教育機関が整備されていないこの世界では、その程度の知識でさえ特殊技能扱いだった。

 また、「人間の教育」などという事業は、基本的に時間がかかることになっている。

 どんなに効率化を図ったとしても、そんなに短時間で能力を開発することは出来ないのだった。

「……長期的な展望を持って、地道に教育の場を増やしていくしかないよなあ」

 少し考えて、ハザマは呟いた。

「出来るだけ、そちら方面に予算を割いてくれ。

 ハザマ領内だけではなく、洞窟衆の各地支店でも教える人数を増やすように働きかけてくれ」

 そうした洞窟衆関連の教室で学んだ者たちがすべて、洞窟衆の元で働くとは限らない。

 だが、仮にそうした場所で学んだ者が、自分に馴染のある場所で働くなり事業を興すなりしても、それはそれでいいとハザマは割り切っていた。

「これまでだって、かなり破格の予算を投入していますが」

 タマルは、確認をしてくる。

「それ以上の投資をせよと?」

「今の洞窟衆が持っている資産、そのほとんどをそちらに投入してもいいくらいだ」

 ハザマはいった。

「現実には、他にも金がかかる事業をいくつも抱えているから、実際に流せる資金は限定されてくるのだろうが。

 とにかく、うちが破産をしたり他の事業に影響を与えないギリギリまで、教育関連に資金を充ててくれ」

「予備の資金をほとんどそちらに投入する、と」

 タマルはハザマの言葉に頷いた。

「今までの方針から大きくズレているってわけでもありませんしね。

 そういう意向ならば、早速そのように手配をします」


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