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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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王都の復興事業

「まあうちへの報奨とかそういうのはぶっちゃけ後回しでもいいです」

 ハザマはガイゼリウス卿にいった。

「こういってはなんですが、現在の王国の財政を考えるとたいした物は期待できないようですから。

 それよりも王都の民の窮状をどうにかすることを優先してください」

『本当にぶっちゃけるな』

 そう返答するガイゼイリウス卿の声は、苦笑いを含んでいた。

『だが、そういって貰えると助かる。

 そちらが独立した暁には隣国同士となるからな。

 この借りはいくらでも返す機会があろう』

「この場だけでの口約束を本気にするほど、こちらも無邪気じゃないんですけどね」

 ハザマは、そう返す。

「そのお言葉だけでもありがたくいただいておきましょう。

 隣国との関係は険悪であるよりは友好的である方がいいですからね」

 そもそも、このガイゼリウス卿がこれから先、王国の体制が大きく変革した後も大きな実権を握っていられるかというと、これはかなり怪しい。

 そう、ハザマは見ている。

 公爵領の切り離し、などという大きな変革を行えば、割を食う貴族からは恨まれるわけで。

 その恨みを一身に集めるようなことをしてから、ガイゼリウス卿は政界から退場するつもりなのではないか。

 そう思わせるようなそぶりは、以前からしているのである。

『相変わらず、歯に衣を着せぬいい方をするのだな』

 ガイゼリウス卿はいった。

『だが、今回の件は、貴殿ら洞窟衆を敵に回せばどのようなことになるのか、その実例を様々と見せつける結果にもなったはずだ。

 そちらをおろそかに扱うなという教訓は、王国内にも深く刻まれたことであろう』

「なにもせずとも、しばらくは余計なちょっかいをかけてくる者はいない、と」

 ハザマは、この点に関しても半信半疑であった。

「お言葉ですが、そいつもどうでしょうかねえ。

 理性的に考えればすぐに結論がでるはずなのに、考えようともせずに現実を無視して乱行に及ぶ。

 そんな人たちを、おれはこれまでに、何人も見てきていますから」

 必ずしも人は、理性的な判断や合理的な損得勘定によって動くわけではない。

 その実例を、ハザマはこれまで何度も見てきた。

 そうした愚かな、感情だけで動く人間が巨大な権力を握る立場にあったら、悪い意味でその影響は甚大になる。

 それは、ハザマの世界でもこちらの世界でも変わらない事実だった。

 まともな判断力を持っている者は、かえって放置して置いても問題はない。

 必要が生じた時に、その都度面会して交渉をすればいいだけだから。

 ただ、今回のグラウデウス公爵のように、理性的な交渉が不可能な相手、なにをしでかすのか予測がつかない人間が権力を握っていた場合、その者から権力を奪うのは現実問題としてかなり難しい。

 ハザマの世界でもそうだったが、この世界においても貴族や王族は優秀で判断力が優れた人間がその任に就くのが前提であるとされている。

 だから、そうした者たちから権力を奪うことは不当な外圧として徹底的な抵抗を受け、結果、その過程でかなりの被害が出るような構造をしていた。

 仮に証拠が出揃っていない時点でグラウデウス公爵を当主の座から退けようと動いていたら、グラウデウス公爵領はそれを不当な干渉と見なして領地全体で抵抗をしたはずだ。

 そうなれば実質的な内乱状態になるわけで、そうなっていたとしたら、その被害は今回の件とは比較にならないほど大規模な物になっただろう。

 グラウデウス公爵は間違いなく愚かな、そういって悪ければ、権力の座につくには理性的な判断力を欠いた人物であったわけだが、ハザマにいわせればそのグラウデウス公爵も特別な例外というわけでもなく、人間とは一定の確率でそうした愚かな選択をしてしまう生物なのだと、そう割り切ってもいた。

 集団としてのヒトという生物はそこそこ温厚で扱いやすいが、同時に、一定の確率でエラーを起こしてとんでもない不祥事をしでかしてしまう生物でもある。

 ハザマの知識を点検しても、この世界に来てから直接間接に見聞してきた事例を参照しても、そういう結論にしかならない。


『貴殿は意外に悲観的なのだな』

 ガイセリウス卿は、ハザマの言葉をどう解釈したのか、そんな反応を見せた。

『しかし、王国に限らず、周辺諸国の中に今の洞窟衆に対抗が可能な勢力があるとも思えん』

「現実的な判断力を持つ人ならば、みんなそう判断をするはずなんですけどね」

 ハザマはいった。

「その判断力自体に、こちらは懐疑的でして。

 特定の誰かというわけではなく、誰もが一定の確率で狂い出す可能性を秘めている。

 少なくともおれは、それを前提にして動いています」

 悲観的なのではなく、現実的なのだ。

 ハザマとしては、そう主張したかった。

 仮にそういったとしても、一生を王国に奉職をしてきたこの老人には理解出来ないだろう。

 そう思ったので、強く訂正はしなかったが。

 ハザマにしてみれば権力者の地位など、能力やその場の成り行きで一番都合がいい人物に押しつけておけばいい、くらいの軽いものでしかないのだが、この老人やこの世界の大多数の人間は、また違った意見を持っているはずであり。

 そうした価値観の相違は、多少会話を重ねた程度ですぐに解消が出来る性質の物ではなかったし、ハザマにしてみれば時間と労力を割いてまで相手の認識を改める必要性も特に感じてはいなかった。

『ハザマ男爵』

 ガイゼリウス卿はしみじみとした口調でいった。

『どうも貴殿は、ときおり妙に達観をした物言いをする。

 異邦人ということでなにかと不便を感じていることには同情するが、あるいは貴殿は、とてつもない孤独の中に居るのではないかね?』


 とてつもない孤独、か。

 ガイゼイリウス卿との通信を終えてから、ハザマはその言葉を反芻する。

 孤独、という表現が適切であるのかどうかはわからないが、ときおりこの世界の誰に説明しても理解して貰えない事物について口を閉ざし、そのことについて一抹の寂しさを感じることがあるのは事実であった。

 だがそうした感傷は、別にハザマのように世界をまたいで移動した人間だけに限定して感じる物でもなく、程度の差こそあれ誰もが感じることなのではないか。

 ハザマにいわせればそれこそ、

「いちいち気にかけても仕方がない」

 些事であり、これまで気にかけてきたこともなかった。

 だが、他人に、それもこれまであまり接点のなかったガイセリウス卿のような人物に指摘をされると、

「効くなあ」

 と、そう思ってしまう。

 気にしたところで、どうにか出来る問題でもないのだが。

 そんなことを考えていると、いつの間にかリンザがハザマの顔をじっと見ていることに気づいた。

「なにかあるのか?」

「いえ、別に」

 ハザマは訊ねると、リンザは即答をする。

「領内とか洞窟衆関連で、男爵の意見が欲しい問題はそれこそ山積みになっていますが、そのどれもが今すぐにどうこうという問題でもないですし」

 短期的な解決を必要とする問題については、その都度通信でハザマの意見を求めていたから、である。

 ただ、長く本拠地であるこの執務室を不在にしていたツケは大きく、ハザマの決裁待ちになっている事案はかなり溜まっている、といった意味のことをリンザはハザマに伝えた。

「わかった」

 ハザマはそういって大きく伸びをする。

「じゃあおれは、一度寝るわ。

 昨夜から寝ていないし、かなり動いて来たからそれなりに疲れている。

 溜まっている仕事は、その後で順番にな」

「それで問題はないと思います」

 リンザはそういって、執務室から出て行くハザマを見送った。


 自室に戻って気を失うようにして寝て、目が覚めたらすでに日が暮れていた。

 どうやら自覚していた以上に疲れが溜まっていたようだ。

 そう思いながら起きたハザマは、顔を洗い、着替えてから執務室へと向かった。

 そこで報告書にまとめられていた、王都のその後の様子を読み始める。

 全般に、巨人の正体やその裏に誰が居たのか、などの追及にはあまり熱心ではなく、とにかく大量に発生した被害者の救済活動に力を注いでいるようだった。

 公館街の貴族たちや宗教関係の施設が積極的に動き、炊き出しなどを行って突然住居を失った人々を助けているという。

 立派な寺院を構えている宗教関係者はともかく、貴族たちは今、経済的にも苦しい時期だとハザマは聞いていたのが、慈悲の心かそれとも見栄か、そんな理由により競うようにして被害者救済活動を行っている。

 と、報告書には書かれていた。

 この世界では恒常的な社会福祉という観念はかなり希薄なのだが、その代わりに富者は貧者に施すべき的な道徳観念はかなり根強い。

 このような時に積極的に動かないと、貴族としての体面が保てないのかも知れないな、と、ハザマはそんな風に思った。

 王家もなにもしていないわけではなく、家を失った被害者を王城の敷地内に入れることを許したのをはじめとして、定期的な食糧の供給や瓦礫の撤去、復興にかかわる費用などをかなり供出しているようだ。

 王家お膝元の王都がいつまでもぼろぼろのままでは体面に関わる、という理由もあるのだろうが、動機はともかくやるべきことをしっかりやってくれているのはハザマとしてもありがたかった。

 洞窟衆も、被害者の救済活動と王都の復興作業、その両方に対して引き続き力を入れていた。

 ハザマがそうしろと早い段階で命じていたこともあるが、かなり例外的な、かなり膨大な予算を投入して事態の収拾を図っている。

 このために必要な予算は、外部から穴埋めをしてくれるような当てこそまるでないのだが、長期的に見れば、間接的な形で帰ってくるものだとハザマは判断していた。

 王都の復興が進めば各種の経済活動も活発になるだろうし、それに、この件がきっかけとなって大勢の人間が冒険者ギルドで新たに職を得るはずでもある。

 さらにいえば、この事態に対して洞窟衆がかなりの散財をしていることが衆目を集めないわけがなく、洞窟衆のイメージも格段に向上をするはずだった。

 まだ混乱はあるものの、王都は復興へ向けて動き出しているようだ。


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