計画の真意
ハザマはカタパルトによる攻撃で文字通り粉砕された、巨人を構成していた破片群を足元に見下ろしていた。
バジルは素早くあちこちに移動しながら地面上に散らばった巨人の肉片を漁っている。
その様子を見てハザマは、
「あれ?」
と疑問に思った。
どうもバジルの動きを見ていると、そのまま食べる肉片と無視する肉片、同じ巨人の残骸であっても二種類があるようなのだ。
この差はなんなのか。
ハザマは少し考えて、すぐにそれらしい仮説を思いつく。
この巨人は、魔法使いたちが推測するところによると、どうも魔法によってこちらに呼び出された生物の集合体ではないのか、という。
そうして召喚された生物の中には、バジルが食べるのを好まない、あるいは食べることが出来ない種類も含まれているのではないか。
外見上、同じような生物に見えても、成分的に見てバジルが消化できない組成を持つ生物種が含めまれていても、おかしくはなかった。
基本的にバジルは、食べる物を選り好みすることはない。
そのバジルがあえて無視をするということは、それはおそらく食べてもバジルの糧とはならない生物である可能性が高かった。
めまぐるしい速度であちこちに移動しながら肉片を片付けているバジルを見守りつつ、ハザマはそんなことを考えている。
「ん?」
しばらくそうしているちに、ハザマはある異常に気がつく。
「肉片が、移動しているのか?」
バラバラになった肉片が、一カ所に集まろうとしている。
ここまで細切れになった巨人の体、その一体どこに移動をする能力が残っているというのか。
「完全に叩きのめされ、ほとんど粉々になっているな」
そんなことを思いながらハザマは、この場で起こっている出来事を通信で魔法使いたちに伝えた。
「だけど、破片同士が断片から肉片を出して動き、寄り集まっている。
再生能力も健在ってわけだ。
焼くのなら、今のうちだぞ」
よく目を凝らしてみると、その肉片のひとつひとつが透明なゼリー状の物体に包まれ、そのゼリー状の物体がアメーバーの偽足のように蠢いて地面を這っているらしかった。
これもあの、死体の部位を集めてくっつけ、動かしていた不定形生物の仕業か。
ハザマはそう推測をする。
他の生物を寄せ集め、接合し、動かす生物。
その不定形生物自体は、おそらくは原始的な生物なのではないか。
仮にそうした習性を持つ生物が存在したとしても、そうした生物が高度な知性を、それまでに存在すら知らなかった生物の構造などを即座に理解して意図した通りに動かせるようになるとは、ハザマにはどうも信じることが出来なかった。
なぜならば、普通に考えればそれだけ汎用的な機能を持つ肉体を持っていれば、ただそれだけで生態系の中でかなり優位な地位を占めることが出来るはずだ。
それに。
と、ハザマは考える。
そもそも、他の生物の体をわざわざ操作するメリットというものが、ハザマにはどうにも思いつくことができなかった。
それだけ柔軟な、ばらばらに分割しても自律的に動けるような生物であるならば、他の生物をそのまま自分の体で包み込んで消化をしてしまう方が、よほど合理的なのではないか。
消化、すなわち他の生物の体を分解した上で自身の体を構成する素材やエネルギーにするという営為は、ハザマの知る限りは、生物としてはかなり汎用的な機序である。
この不定形生物が元居た世界では、そうした食べることによって他者の生物を自分の中に取り込むということは、なんらかの原因があって、あまり一般的ではなかったのだろうか?
そんなことを考えながら、バジルが肉片を選り好みしながら食べ続ける様子をしばらく見守った。
そうするうちに、少し距離を置いたところで待機していた魔法使いたちがハザマの居る場所まで駆けつけて、残っている肉片の様子を観察し始めた。
「これ、巨人の胸部を覆っていた金属板ですか?」
見事にひしゃげ、原形を留めていない金属片を指さして、アズラウストがハザマに訊ねた。
「これからも、魔力が残っているのを感じます。
おそらくは、今回のために特別にあつらえた、なにかの仕掛けを施された物でしょう」
「ルシアナの甲殻に残されていた、魔力抵抗を高めるための呪紋と同じ物だよ」
ざっと見ただけで、ゼスチャラがその正体を指摘した。
「このおれが書き写して広めた術式だから、たとえ断片になっても見間違うことはない」
「魔力抵抗を高めた上、この巨体と再生能力ですか」
アズラウストはそういってゆっくりと首を振った。
「早めに思い切った対処をしていなかったら、この王都にとってかなりの脅威になったことでしょうね」
「いや、まだ片付いたわけではないから」
ハザマは鋭い声で指摘をした。
「残った肉片、バジルが食べる物と見向きもしない物とがある。
バジルが食べようとしないやつは、おそらくは召喚された物じゃないかと思うんだが」
「あり得るな」
そのハザマの言葉に、ハメラダス師が最初に反応した。
「別天地の生物、少なくともその破片か。
詳しく調べたくもある」
「まずは処分するのが先」
エルフのトスラタトテが、即座にそういう。
「詳しい調査は、相手が完全に無害になったと確認できたその後、余裕があればすればいい」
「正論だな」
ゼスチャラが、トスラタトテの言葉に頷く。
それからハザマに顔を向けて、
「残っているのを焼き払えばいいのか?」
と確認した。
「出来るだけ手早く済ませてくれ」
ハザマはそういって頷いた。
「見ればわかると思うが、こいつらはまだ生きて動いている。
放置していたらどんなことになるのか想像がつかん」
「ま、焼くのが一番確実か」
ゼスチャラはそういって呪紋を唱え始める。
他の魔法使いたちも、すぐにそれに倣った。
「すぐにうちの魔法兵たちがこの場に駆けつけます」
しばらく黙っていたアズラウストが、ハザマに向かってそういった。
「今、通信で呼びました。
それで、この件は終息するでしょう」
本当にそうだといいけどな、と、ハザマは、言葉には出さずにそう思う。
相手はかなり入念に用意をしていたように見えた。
たかがこの程度の攻撃で倒せるような巨人だけで、一国の王城を攻略できる。
この件を準備していた連中がそう考えていたのだとすれば、呆れるほどに楽観的なのではないか。
「仮にこの巨人が健在だったとして」
ハザマは、自分の中でくすぶっていた疑念を口に出すことにした。
「あの巨人ならば、王城の内部にまで侵入して中の人たちを害することが出来ますか?」
「ある程度までならば、成功するでしょうね」
ハザマの問いを受けたアズラウストは、一瞬眉根を寄せてからそう答えた。
「内部に侵入するところまでは、十分に可能だと思います。
ただ、王族に手を伸ばす前に、どうにかして討ち果たされる可能性が高いと思いますが」
つまりは、あの王城にもそれなりの備えがあるというわけだった。
だとすれば。
ハザマは、考える。
襲撃を企画する側にすれば、一種の賭けとなる。
そんな分の悪い賭けを、すでに確固たる地位を持つ大貴族たちが企図するだろうか?
危ない橋を渡りたがるのは、大抵はなにも持たない連中であるのだが、王国の大貴族はこの条件に該当しない。
なんらかの成算がなければ、そもそもことを起こしたりはしないだろう。
「公爵がことを起こすとしたら」
ハザマは、同じ公爵号を持つアズラウストに問いかけた。
「この程度の準備で、満足をしますか?」
「これだけでは済まないと、そういうことですか」
アズラウストは大きく頷いた。
「そうですね。
おそらくは、まだなにか仕掛けが用意されているのでしょうね」
「お前らがくだらないことをいってるから!」
ゼスチャラが、ひしゃげた金属板の方に顔を向けて、大きな声をあげた。
「あの屑鉄から魔力が!
膨大な魔力がいきなり発生しているぞ!」
「これは」
そちらの方に顔を向けたトスラタトテが、静かな声で指摘をした。
「反応から見て、おそらくは、うちの魔力貯蔵術式。
さっそく、利用されている」
「冷静に分析している場合か!」
ハメラダス師が、大きな声をあげた。
「全員、あれから距離を取れ!
なにか大きな物が、転移を……いや、召喚されてくるぞ!」
その声を耳にしたハザマは、弾かれるように駆けだした。
他の魔法使いたちも、少し遅れてその場から逃げ出す。
バジルも、その途中でハザマの体をよじ登り、肩に乗った。
バジルも避けようとする相手か、と、ハザマは少し驚いた。
単に、バジルが移動の手間を省きたいだけなのかも知れなかったが。
そしてなんの物音もせず、ひしゃげた装甲板があった場所に巨大な物体が出現する。
それもまた、巨大な、人型の物体だった。
ただ、先ほどカタパルトで粉砕した巨人よりは、一回り以上大きい。
目測で、全長八メートルくらいか。
ざっと観察したハザマは、大きさについてそうあたりをつける。
王都の建物は総じて立派であり、十階建て以上の高層建築も決して珍しくはないのだが、郊外であるこの周辺では木造の、背の低い建物が多かった。
そうした周囲の建物群よりも遙かに大きな人型の物体が、その場に起立をしている。
「先に倒したのは、実験用の試作品だったんじゃないか?」
逃げながら、ハザマはそう口にしていた。
「攪乱にでも使うつもりで持ち込んで、そこにおれたちがガサ入れをした、と」
「そして万が一、その試作品が破壊された時には本命用の巨人が転送されてくるわけですか」
ハザマの横を併走しながら、アズラウストがいった。
「それであれを、どうやって倒しますか?」




