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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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森東地域の計画

 ハザマはこの世界に着いてから年の移ろいなどを気にしたことはなかったが、王都のような都会にしばらく在住するとどうしてもそうした気配は届いてくる。

 ハザマ自身が屋内で仕事三昧になっていたとしても、そのハザマの接する人々の挙動が、そうした行事などの影響を受けているので、いやでも気がつくのであった。

 そういや、去年の今頃はなにをしていたんだっけかな、と、ハザマは振り返ってみた。

 去年の年末は、確かガンガジル動乱をどうにか決着させたばかりで、その後始末とそれに整備をはじめたばかりのハザマ領のあれこれで忙殺されていたはずだ。

 また、人の出入りが激しくそうした行事に関心を払う者があまり居ない新興のハザマ領と、人の数が多く歴史のあるここ王都とでは、自然、年末を取り巻く空気も異なってくる。

 とはいえ、そうして浮き足立つ周囲とは無関係に、ハザマの仕事が減るということはなかったのだが。


 もちろん、ハザマとしてもずっとこのまま、多忙なままでよいとは思っておらず、省力化のための布石は次々と打っている。

 もともと、手を抜くための努力は惜しまない性格でもあった。

 その手抜きのためにハザマがまずやったことは、森東地域において多少なりとも地元の情勢について詳しく、なおかつ相応の判断能力を持っている者を選抜して、現地での裁量権をある程度与えることだった。

 こうした権限の部分的な委譲は、毎日のように届く報告書類を読み込み、その署名を確認すれば、その書類を書いた者がどれほど見識を持っているのかはかなり推測がつき、そうして目星をつけた者について、周辺の人間に聞き込みを行って人格などについても確認したあと、「こいつなら大丈夫だろう」と判断をした人間に下駄を預ける、という形で行われた。

 場合によっては現在森東地域に居るトエスやマヌダルク・ニョルトト姫に面接をして貰うこともあったが、そうした人選についてハザマ自身が最終的な判断を下すことはなかった。

 ひとつは洞窟衆全体がハザマの判断を待ってでしか動けない、ロボットのような組織にならないため、一種の自律性を確保するためであり、もうひとつはハザマ好みの人材で固めることによって派閥化や組織としての硬直化が起こることを警戒して、こうした方法を選択している。

 ハザマは洞窟衆に対して、将来的にはハザマ抜きでも特に不自由することなく動けるような組織となることを期待していた。

 特定個人の資質に寄りかからなければ存続できない組織など、ハザマにいわせれば組織である意味がなく、極めて半端な存在であると、そう思っている。

 洞窟衆だろうが冒険者ギルドだろうが、所詮は特定の仕事を円滑に遂行するための便宜上の存在でしかなく、その便宜上の存在が特定個人にかしずき、その個人が存在しなければ存続出来ないようでは、ハザマにいわせれば本末転倒なのであった。

「おれたちは手を抜き、楽をするために集まっているわけでな」

 というのが、ハザマのいい分である。

「省力化のための装置でしかない組織が自己保全のために個人を搾取するとか、絶対にあってはならない」

 洞窟衆も冒険者ギルドも、自分が立ち上げた組織はすべて仕事を遂行するための装置であるとしか見なしていないハザマは、だからこそそうした装置に対して必要以上に執着をすることはない。

 その装置が提供するべき機能さえ保全できれば、その装置の持ち主は誰でもよく、つまりは自分がその頂点に居るべき必要性も乏しく、自分よりももっと巧くこの仕事をこなせる人材が存在すればすぐにその席を明け渡すくらいに思っていた。

 もちろん、ハザマ自身がそう考えていることはほとんど口に出す機会はなく、リンザなどごく少数の腹心ともいえる人間しか知らないのであるが。

 基本、ハザマという人間は権力への指向が極めて薄く、そのことを本当に理解している人間は極めて少ない。

 だからこそ、特に外部の人間と交渉する際に、奇妙な齟齬が起こりがちなのではあるが。


『遅遅として進まないねえ』

 トエスが、そう報告してきた。

『ええと、ネレンドっていったっけ?

 公爵様と結んで召喚獣を使役しようとした連中。

 とにかく、そいつらの本拠地に迫るまで、このペースだとまだまだ時間がかかりそう』

「まあ、そっちは別に急ぐ必要ないさ」

 ハザマはいった。

「確かにあの陰謀についても、否定しようがない証拠を掴んでおくのに越したことはないんだが、今となってはな」

 王国中央が公爵たちの召し放ちを考えている現在、その公爵の首を押さえるためのこの仕事も、自然とその価値が下がってしまっている。

 交渉カードとして、以前よりも重要ではなくなってしまっているのだ。

 それに、と、ハザマは思う。

 以前に聞いたガイゼリウス卿の口ぶりでは、そもそもこの手の陰謀も、この王国ではさして珍しい物でもないようだった。

 ハザマのような人種には理解不能なことであるが、より多くの権力を握るためには手を汚し、他人の生命を殺め財産を掠めることも厭わない人間は、それなりに多いらしい。

 特にこの王国では権力の中枢とされている王家は、それこそ継続的になにがしかの陰謀に脅かされているのではないか。

 ご苦労なことだなあ、と、ハザマは思う。

 権力を死守しようとする者、その権力を狙い追い落とそうとする者、その両方に対して、である。

 多少、他人への影響力が増したところで、せいぜい多少の満足を得るくらいしか出来ないだろうに。

 そうした権力を巡って争う人間の心理を、ハザマはうまく理解することが出来なかった。

 こっちに火の粉が飛んでこない限りは、勝手にやらせておくんだがな。

 とも、思う。

 例の召喚獣騒ぎの件では、対応を間違えればハザマたち洞窟衆側も多大な被害を被っていた可能性もあり、ハザマとしてもこのままうやむやにするつもりはなかった。

 さらにいえば、その他にも洞窟衆は一部の公爵たちから嫌がらせも受けている。

 ハザマ領が王国の支配から外れれば、そうした嫌がらせも自然と減るか消滅するかするはずであった。

 が、だからといってこれまでに受けてきた被害がそれで帳消しになるわけでもなく、それに今後のことを考えると、「洞窟衆は多少雑に扱ってもその事実を寛容に忘れてくれる」と受け止められても困るわけで、どこかの時点でそれなりの報いは受けて貰う必要はある。

 そう、ハザマは考えていた。

 おそらくは、ハザマが王国の臣下から外れて、そうした貴族たちに対して遠慮する理由がなくなった以降が、報復するタイミングとしては適しているのではないか。

 これまでに洞窟衆が受けてきた仕打ちを周囲にも広報した上で、堂々と、公然としかるべき処置をする形である。

 ハザマが王国中央からの調停などを受ける立場ではなくなってからの方が、なにかと動きやすいのであった。

 仮にそのネレンドとかいう禁忌の術を伝える一族だかの身柄を押さえることができなかったとしても、そうした報復措置をこれから洞窟衆が実行するための根拠は、現状でも事欠かないような状態だった。

 だからその件は、ハザマの中では優先順位が、比較的低い。


「そんな理由で先を急ぐよりは、むしろ足元を堅実に固めることを心がけてくれ」

 ハザマはトエスに向かって、そう注文をつける。

「こちらのお偉いさんの道楽につき合うよりも、そちらの政情を少しでも安定させる方がよっぽど重要だし人のためになる」

 ハザマにいわせれば、権力者同士の暗躍や権力抗争も、所詮は「道楽」でしかない、という意識がある。

 誰かの生存や生活に直接寄与するわけではなく、せいぜい、そうせよと命じた者たちの自己満足を目的としているのだから、ハザマの部類によればそれは「道楽」なのである。

 そしてハザマとしては、そうしたお偉いさんたちの道楽に、こちらが真面目につき合わなければならない道理はないと、そう思っていた。

 再発を防止するために打てる手は打つつもりだが、これは相手に合わせるというよりはこれ以上邪魔をされないために必要だからであった。

 だから、「やりたくはないが、やらねばならない仕事」だから、最小限の労力で最大の効果を期待できるような方法を選択しなければならない。

 そのための準備を焦る必要はないし、そんな道楽の相手よりは、やはり大勢の生命とその後の人生が左右される、森東地域の政情を安定させる方がよほど重要なのだった。

『もちろん、そうしているつもりだし、少しも手を抜いているつもりはないんだけど』

 トエスは、不服そうな口ぶりで、そう返してくる。

『そのおかげで、そりゃあもうのろのろとしか進めなくて』

 行く先々で念入りな交渉をし、人を雇い、場合によっては現地での建築や土木事業を立ち上げ、そのために必要な費用や人手を現地の人間に負担させることを承知させる。

 そんなことをしながら膨大な物資を搬入して売りさばき、時には武装集団で包囲をして現地の人間を恫喝して交渉の場に引き出し、場合によっては敵対する勢力の人間に同じ事業を手伝わせたり。

 トエスやマヌダルク姫が森東地域で行っているのは、そういう煩雑で、複雑な判断が要求される仕事であった。

 いくら冒険者ギルドが手配した連中が精強であり、洞窟衆の運び込む物資が潤沢であったといっても、ただそれだけで現地の人間を納得させることはできない。

 金や物資の豊富さで屈服させれば、一時的にはおとなしくなるだろうが、それでは洞窟衆が手を引いた後に元通りになる公算が高かった。

 どうにかして、森東地域に在住する連中に、同じ場所に住む人間同士の連帯感を植えつけ、公然と敵対することに抵抗を感じるように仕向ける必要がある。

 そのための方策として洞窟衆が打ち出したのは、河川や街道、農地の整備など、森東地域全体の利益となるような事業を、現地の、場合によっては敵対している勢力同士の共働で行わせることだった。

 この方法は、当然のことながら抵抗が多く、関係者に承諾させることが難しかったが、その代わり、一度はじまると敵対する勢力が競うようにして計画を推進していったので、極めて効率がよかった。

 その代わり、そこまで持っていくのにかなりの手間と時間を食うわけだが。

「一見遠回りのようだが、現地の問題は現地の人間で解決させた方がいい」

 ハザマはトエスにそう説明をした。

「こちらが物資なり金なりを一時的に提供して、それで誤魔化してもあっという間に元の状態に戻るだけだ。

 自分たちだけでもどうにか出来るって、そういう体験をさせるしかない」

 そうした際に、洞窟衆側が提案する事業は総じて現地の、つまりは森東地域の生産性を上げることを目的としている。

 そうした事業が成就すれば、その地域にとってもかなり継続的な利益になるよう、設計されていた。

 たとえ善意から来る計画であっても、あくまで洞窟衆がごり押しして現地の人間に承諾、実行させる形であるのだが、そもそもハザマたちは彼らから感謝されることを目的としていないので、それでも別に支障はなかった。

 長い目で見て、森東地域の生産性が増大し、より多くの人口を養えるような土地になれば、騒乱の原因もある程度は解消されるはずなのである。

 迂遠なようだったが、それが、洞窟衆が採用した方法であった。


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