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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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アルテラ公爵との対話

 アルテラ公爵はハザマの目からはどうということもない中年男性、それもどちらかというと冴えないおっさんのように見えた。

 外見だけでその人物を理解したような気になるも不公正だし、それ以前にそんな油断をしていれば足元を掬われかねないので、ハザマは「予断は持たないように」と心の中で自身を戒める。

「本日はご多忙のところ、面談をする機会を設けていただき、大変に感謝をしております」

 型通りの名乗り合いが終わったあと、アルテラ公爵はそんなことをいった。

 公爵様にしては、随分と腰が低い態度といえた。

 ただこれは、アルテラ公爵家がこの王国ではハザマ男爵家以上の新参貴族であることからくる遠慮もあるのではないか、と、ハザマは推測する。

「いえいえ。

 本来であればこちらが足を運ばねばならない筈ですのに、こうしてご足労を願い、恐縮しているところです」

 そんなことを考えつつ、ハザマの方も一応謙遜しておいた。

「飛ぶ鳥を落とす勢いのハザマ男爵がなにをおっしゃいますか」

 そういって、アルテラ公爵は破顔する。

「貴族としての序列はさておき、実態からいえばこうする方が順当でしょう」

 ここでいう実態、とは、公爵だの男爵だのいう爵位よりは、ハザマが背後に抱えている洞窟衆という組織の力を評価した上で、そういっているのだろうな。

 と、ハザマはそう想像する。

 ハザマ自身はさておき、このアルテラ公爵も生粋の貴族というわけではない。

 もとはといえばスデスラス王国南端の港町で羽振りのいい商人であったそうだが、その港町のとりまとめ役であったことを利用して、自分の一存で領地を王国に売り渡したことで爵位を得たような男なのだ。

 この男はその本質からいえば貴族というよりは商人、それも、かなり抜け目のない商人であると、ハザマは見ている。

 だから油断をするべきではないし、その真意を真剣に図るくらいの心づもりでいた方がいい、と。

 そんな人間がこの微妙な時期にわざわざハザマに会いに来たことには、必ずなんらかの意味や意図があるはずなのである。

「しかし、ここがハザマ領の公館ですか」

 アルテラ公爵はふとハザマから視線を外してざっと周囲を見渡した。

「なんといいましょうか、思ったよりも普通ですね」

「ここは単なる事務所ですよ」

 どんな光景を想像していたのだろうか、と疑問に思いながらハザマはそう答えた。

「ハザマ領は最近成立した領地ですから、この公館もようやく見つけることが出来た場所になります。

 手狭であるのはご勘弁を」

 実際、王都のハザマ領公館はかなり狭い。

 仕事とそれに処理するべき書類の量に比べて、使える場所が限られ過ぎているのである。

 そのため、あちこちの机や床に書類の山が積みあげられていた。

 一応、これでもアルテラ公爵来訪に会わせて掃除や整理をしているのであるが、それでも雑然とした印象を拭うところまでは整理が行き届かなかった。

「いえ、こうした場所というのは見た目よりもその仕事の内容にこそ、着目をするべきでしょう」

 アルテラ公爵は真顔でそんなことをいう。

「その点、ハザマ領の方々は、王国でも随一の成果を上げていらっしゃるわけですから、そうそう卑下する必要もありません」

 確かに、領地の面積あたりの生産性などを他の領地と比較すれば、王国内でハザマ領の右に出る領地はないだろうな、と、ハザマもそう思う。

 とはいえ、それもハザマ領と洞窟衆とが不可分の関係にあり、その成果についても二つの組織間で明瞭に分断できないことに由来しているわけだが。

 ハザマ領のものとして勘定されている収益は、本来であればかなりの割合で洞窟衆が稼いでいるのである。

 あるいは、純粋なハザマ領だけの収益についても、洞窟衆の活動が誘導したからこそ発生している場合が多い。

 洞窟衆という要素を完全に抜いてハザマ領の活動のみに注目をすれば、かなり貧弱な内容になるはずであった。

 そしてその程度の背景は、このアルテラ公爵も認識しているはずなのだが。

 つまりは、ハザマ男爵に、というよりは洞窟衆の首領の方に用事がある、ということなのかな。

 と、ハザマは、そう想像をする。

 その他に、この時期にアルテラ公爵が接触をしてくる理由を思いつかないのであった。

 ハザマはそんな考えを巡らせながら、アルテラ公爵を応接室へと案内する。

 いくらハザマ領の公館が手狭であったとしても、その機能として来客の対応をする場所は用意しなければならないわけで、流石にその応接室の中は公館の他の場所ほどには雑然としていなかった。

 少なくとも、書類や紙の束は室内には見られない。

 それなりに金をかけて調度を揃えたばずなのだが、一番気にかかるのがそんなところだってのもな、と、ハザマは心の中で嘆息する。

 ハザマ自身は最近王都に居座るまで、この公館自体に数えるほどしか足を踏み入れていなかったわけだが。

 なんにせよ、こうしてアルテラ公爵との対話は開始された。


「お互い暇を持て余している身でもないと思いますので、すぐに本題に入らせていただきます」

 アルテラ公爵は応接室の椅子に腰掛け、その次の瞬間には本題を切り出してきた。

「ハザマ男爵とわたしとは、この王国貴族の中では新参者であるという共通点がございます。

 そのよしみといってはなんですが、共通の利益のために今のうちから手を組んでおきませんか?」

「いきなりそうおっしゃられましても」

 ハザマはのんびりとした口調でその提案をいなした。

「手を組むとおっしゃいましても、具体的にはどのようなことをお考えなのでしょうか?」

 そもそも、この時点でハザマたち洞窟衆がこのアルテラ男爵と組むべき理由というものを、ハザマは思いつくことが出来なかった。

 それ以外に、ハザマはもうすぐ王国の貴族から籍を抜く可能性もあり、ここでアルテラ公爵の思いつきに迂闊に賛同するわけにはいかないのであった。

「共闘ですよ、共闘」

 アルテラ公爵はそういって身を乗り出した。

「そちらが古参の貴族たちから様々な攻撃を受けていることは、こちらでも把握しております」

「攻撃、ですか?」

 ハザマは首を捻った。

「あの程度の妨害はせいぜい嫌がらせ止まりであり、攻撃と呼ぶほどの苛烈さは感じませんでしたが」

 今さらそんなことをいわれてもな、と、ハザマは内心でそうぼやいた。

 そちらの案件については、ハザマが帰還した直後に手をつけていまではほとんど自己解決している。

 背後にある、実行犯を使嗾した大貴族たちについては今の時点では手をつけていないが、これも別にハザマが相手に遠慮とか配慮しているからではなく、単に帝国と王国との例の交渉がどのような決着を見るのかこの時点ではわからなかったからだ。

 王国の貴族としてそうした大貴族たちと対峙するのと、そうではない国外の勢力として対峙するのとでは、その対処法も違ってくるわけで、今はその結果が出るまでとりあえず手を止めているだけに過ぎない。

 第一、ハザマの留守中、公館の者たちが本当に難儀しているときに駆けつけて加勢していたのならばともかく、ハザマが帰還してこうして状況が落ち着いてきてからそんなことをいわれても、こちらとしてはどこまで本気でいっているのだろうかと、その真意を疑いたくなるだけなのである。

 このアルテラ公爵という人物は、素でそうした状況判断が出来ない人物なのか。

 それとも、そういう人物であると見せかけて、なにか別の真意を隠しているのか。

 ハザマとしては立場上、そんな疑念を抱くしかなかった。

 とにかく、そちらの問題について、今の洞窟衆は外部の助力を当てにするほど、現実問題として困ってはいないのである。

「わたしは貴族としては新参者ですが」

 ハザマの困惑をよそに、アルテラ公爵は自信に満ちた態度で言葉を続けていた。

「こう見えても商人として方々に手を伸ばし、内外の情報を集めております。

 そうしていますと、国内にいただけでは聞こえて来ないような噂も、いろいろと入ってくる。

 必ずや、ハザマ男爵のお役にも立てるかと思います」

「そうですか」

 ハザマはこの話題にまるで関心を持てなかった。

 その手の情報ということでいえば、洞窟衆だってそれなりの情報網を構築している。

 内部の者ばかりではなく、直接間接に洞窟衆と関係している者は多く、そうした多種多様な者たちから自然とそれなりに価値のある内容が集まってくるような、かなり以前からそんな体制が整備されているのである。

 そうして集まってきた情報の真偽を見極め、重要度を評価したりする仕事もすでにはじまっていた。

 これについても、今さらその手腕が定かではないアルテラ公爵の手を借りる必要性はまるでなかった。

「ですが、うちの方にもそれなりに出入りする人たちが耳に入れてくれますので。

 そちらからの情報を頼りにする必要は、ほとんどないかと思います」

 このときのハザマは、自分が退屈しはじめていることをアルテラ公爵に悟られないようにするため、真顔を保つのに苦労している。

「待ってください、ハザマ男爵」

 アルテラ公爵はハザマの反応が薄いことを危惧したのか、ハザマに平手を向けて切り出してきた。

「あなたがさる公爵様を追い落とす、そうすることが出来るだけの切り札をこのわたしが提供できるといったら、どうですか?」

「なんでご自分でおやりにならないのですか?」

 ハザマは即答した。

「男爵でしかないおれがやるより、公爵様がご自身でやる方がより有用でしょうに」

 どうやらこのアルテラ公爵は、貴族同士の諍いにハザマを巻き込もうとしているらしかった。

 そんなものにはまるで興味がないハザマとしては、態度を硬化させるしかない。



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