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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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アポリッテア姫との会話

『そんなの当たり前じゃない』

 アポリッテア・スデスラス姫がいった。

『あんたたちがいいように引っかき回してくれるようになってからこの方、前と同じ物なんてひとつもない。

 うちの方も大分領民の意識が変わってきていて、こちらもその性向を正確に把握するのに苦労しているんだけど』

 この隣国のアポリッテア姫は、隣国スデスラス王国の事実上の首長として振る舞いながらも、今に至るまで王位を正式に継いではいない。

 その理由について、年齢が若すぎるからとか配偶者をまだ得ていないからとか様々な憶測が囁かれていたが、ハザマとしてはまるで興味がなかった。

 ハザマとしてはこれ以上、面倒の種を増やさない限り、隣国やその他の国々の事情にまで首を突っ込むつもりはなかったからである。

 つまりハザマの側としてはそちらの事情にあまり関心を持っていなかったわけだが、そちらの方はどうもそうではないらしく、ハザマが帰還して以来、日を置かずにこうして通信でひとしきり会話を交わしていた。

 まだハザマが失踪をする以前に、これまで政務の経験がないアポリッテア姫の相談役みたいなことをする口約束をしていたので邪険に扱うわけにもいかず、ハザマとしては仕方がなく貴重な時間を割いてつき合っている形である。

『それよりも、わたくしとしても王とか貴族とかが居なくても成立する政治体制というものに興味があるのですけど』

「こちらにも、共和制とか合議制で政務を処理している国や地域は存在すると聞いているが」

『存在することはするけど、政体として総じて規模は小さいわね』

 アポリッテア姫は早口に説明した。

『構成員の人数からすると、せいぜい十万以下ってところかしら。

 その程度が、その合議制体制の規模的な限界みたい』

 情報伝達に関する技術が発達していないこの世界では、構成員の中から適切な代表者を選ぶのも一苦労だからな、と、ハザマは思った。

 選挙をするにしても、候補者の情報を正確に伝達をする、選挙に参加する全員に行き渡らせるのは、この世界ではそもそも至難の業なのだろう。

「そうした合議制とか共和制の場合、首長や統治に関わる決定権を持つ人間は、どうやって選出されるんだ?」

 そう思ったハザマはアポリッテア姫に質問してみた。

『だいたいは、その土地の有力者から推挙されるような感じね』

 つまり、そうした共和制、合議制の国でも領民といわれている一般市民の意向が直接反映されているわけではなく、一部の恵まれた家柄の中から代表者が選出される形であるというわけだった。

 ま、この世界ではそれがせいぜいだろうな、と、ハザマもその回答に納得をする。

「規模はともかく、長続きしないというのは?」

『うちから離反してそちらの王国に寝返った南部地方の例を見ればわかるように』

 アポリッテア姫は淡々とした口調で説明を続ける。

『選挙で選ばれたはずの代表者が国や自治体を私物化していいようにする例が多いから。

 もちろん、そんな真似を実際にしでかすのはごく一部でしかないんでしょうけど、それでも選挙によって選ばれた首長というのが何十人も連続して清廉潔白な性格である確率はそんなに多くはないから』

 なるほど。

 と、ハザマはこの回答にも納得をする。

 選挙によって選ばれた首長が暴走した場合、リカバーする機構が整っていないからそうした代表者による統治といった形式は長続きしないと断定されているわけか。

 その点、王とか貴族といった連中が所属する集団にとって不利益な行動を取った場合、周囲の人間がよってたかってその地位から引きずり下ろし、代替わりをさせる。

 世襲の統治者というのは、権力が集中している分、その頂点さえすげ替えれば組織全体としての健全さが保証されるし、構成員もそのことを普段から強く意識しているので、組織内で相互に監視をし合う体制が整っている、と。

 この世界でハザマが直に接してきた国々のほとんどが王政を採用しているのは、それなりに理由があるらしかった。


『これまでは、そうだったんだけど』

 アポリッテア姫は、そう続ける。

『これから先は、どうなるかしらね』

「と、いうと?」

『とぼけないで』

 アポリッテア姫の口調が硬い物となる。

『安価な出版物が大量に出回り、通信網が普通に普及していけば、領民は賢くなる一方だし。

 少しでも政情が不安になれば競うようにして他の、もっと政情が安定した国へと逃げ出していく。

 統治の方法もこれまでとは変えていかないと国が貧しくなるだけだし、それに、これまでは非現実的だとされていたその共和制という方法も、国を治めるための選択肢、少なくともそのひとつとして視野に入れておく必要性が出てくるかも。

 その程度のことは、あんたもすでに承知しているんでしょ?』

「選挙によって選んだ人間に国の統治を任せるのは、まだやめておいた方がいい」

 ハザマは即答した。

「いずれはそういう制度に移行するのかも知れないが、そうした体制になるためには必要な準備がまだまだ足りていない。

 選挙に参加する人間すべてに最低限の教育が行き届いていないと悲惨なことになるだけだし、それに、そうした代表者による統治も問題がまるでないわけではない」

『わかっているわよ』

 アポリッテア姫は白けた声を出した。

『ただ、騒乱を経験して以降、うちの領民たちがなにかと国政に口を出そうとしてくる傾向が強くなっているのは変えようがない事実なわけでね。

 まあ、それだけ大きな失態を王室がやらかしたのだからそれを責めるわけにはいかないわけだけど、でも現実問題としてこれまで統治についての経験がない彼らに、一足飛びに国政の実務を任せるわけにもいかず。

 結局は、領民の代表者を段階的に国政の場に立たせて、討議に参加させるような方法を検討しているところなんだけど』

「もしそれをやるつもりなら」

 ハザマはいった。

「王家と領民の代表者の権限を規制し、明確にその領分を規定した憲法を制定しておいた方がいいな。

 そういう制度のことを、おれが居た国では立憲君主制と呼んでいたんですが」

『立憲君主制、か』

 アポリッテア姫はハザマが口にした単語を反芻する。

『領民の代表者たちだけではなく、君主の側の権限も規制する条文を、その憲法とやらであらかじめ制定しておくわけね?』

 やけに理解が早い。

 というよりは、アポリッテア姫自身も、似たようなことを構想していたからではないか、と、ハザマは思った。

「この大陸において、その立憲君主制による治世を初めて行うのは、スデスラス王国になるのかも知れないですね」

 ハザマは、そう答えておいた。

 もともとスデスラス王国は、過度に思えるほど、王家に権力が集中しているような体制なのである。

 そうした体制の方が、かえってその手の変革は早く進行するのかも知れなかった。

 体制を変革させるのが早いことが、その変革をした体制が実地にうまく機能することを保証するわけでもないのだが。

 実地に試した結果どうなるのかは、アポリッテア姫と新生スデスラス王国との手腕をしばらく見守るしか、確認をするすべがなかった。


『それよりも、さっきの案件なんだけど』

 アポリッテア姫が話題を変えて来た。

「ああ、治安維持軍の人員を森東地域へ派遣する件ね」

 ハザマも、意識を切り替える。

「うちとしても手が足りていないところだし、正直にいえばありがたいくらいですね。

 一応、うちの者たちの意向も確認してから正式な返答をさせていただきますが、前向きに検討させていただきます」

『この状況だと、そうなるでしょうね』

 ハザマの返答に、アポリッテア姫も満足をしたようだ。

『人員もだけど、費用も全然足りないだろうし』

 治安維持軍は、周辺諸国の中でも突出した規模の武装集団となっている。

 なにしろ数十万という単位の人員が、なにもない平時は仕事もせずに遊んでいる形なのだ。

 その成立事情からして仕方がない面も多々あるのだが、その治安維持軍の活動費用を供出している国々としては、大金を支払っている分、なにかの役には立って貰いたい。

 そう思うのは、自然な流れといえた。

 それに、そうした治安維持軍の理事国にしてみれば、とも、ハザマは思う。

 これ以上、洞窟衆の力が強まるのも、あまり歓迎できないだろうしな。

 目下のところ混迷の最中にある森東地域にしても、将来その混乱が収まったとき、すっかり洞窟衆の属国も同然の存在になっていた、となったら、そうした国々にしてみても、あまり好ましい結果とはいえない。

 パワーバランス的に、これ以上、洞窟衆の力が強まることは避けたいはずで、だとすれば、多少は無理をしてでも森東地域の情勢に介入をしておき、あとで利権を主張する根拠を作っておきたいところなのだろうな。

 と、ハザマは推測をする。

 つまりは、そうした国々にしてみれば、ということだが。

 そうするための道具として、今の時点では手が空いていて、なおかつ金食い虫でもある治安維持軍を活用しない手はなかった。

 そもそも治安維持軍の創設には冒険者ギルドが大きく関わっており、現在はその組織的な分離を進め、治安維持軍の中から冒険者ギルドの影響を払拭しようと務めている最中になる。

 独自の命令系統を再構築させた治安維持軍が、森東地域で、つまりは実戦の場でどこまで使えるのか試してみたいという思惑も、あるのだろう。

 そして洞窟衆としては、そうした背後の思惑もすべてひっくるめて承知した上で、治安維持軍が森東地域へと派遣されることを、反対するべき根拠を持たなかった。

 もともと、洞窟衆が単独で対処するのには大きすぎる問題ではあったし、あとで問題になるような種が蒔かれるにせよ、直近の、より差し迫った問題を改善する方を選んだ形となる。

 そうして大規模な軍隊が動くとなれば、結果として彼の地の治安を回復できたとして、そのあとに森東地域の領有権とか自治権とか、そういった政治的な問題は禍根として残るのだろうが。

 そういった政治的な問題は、あとでまたゆっくりと関係者間で検討をして、合意を形成していけばいい。


 ともあれ、スデスラス王国や治安維持軍、それに、その背後に存在する周辺諸国は、洞窟衆の動向や影響を受け、それを反映する形で独自の動きを見せ始めていた。

 このまま推移すると、下手をすると王国だけが周辺諸国から取り残されかねないな、と、ハザマはそんな風にも思う。



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