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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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メレディラス王国の方針

「賠償金についてはしかたがない。

 払おうじゃないか」

 バイラド・ゴロジオは少しもごねることなく、減額することも求めずにあっさりとそういった。

「ただ、今すぐというわけにはいかない。

 目下のところわが国は国土が荒廃し、かなりの窮状にある。

 この窮状をどうにかして脱しない限り、支払うべきものにも事欠く」

「それはそちらに都合ですね」

 これに対して、アポリッテア姫はばっさりといい切った。

「支払いの猶予を求めるのならばそれでも結構。

 その分、金利が嵩んで支払額が大きくなるだけです」

 国土の荒廃だの窮状だのといっても、結局その原因はそもそもバイラド・ゴロジオがゴロジオ王家に対して謀反を起こしたことが原因になっている。

 今のゴロジオ王国に財政的な余裕がないのは事実なのだろうが、それはすべてこのバイラド・ゴロジオ自身が原因であるといっても過言ではない。

 そしてアッポリッテア姫にしてみれば、そうしたゴロジオ王国の事情など配慮すべき理由は一片もなく、粛々と事務的に扱うだけのことであった。

「ならばよし」

 バイラド・ゴロジオはまだ包帯だらけに痛々しい外観のままで無意味に胸を張る。

「貴国との停戦に応じるとしよう。

 ただし、解放軍への支援については別問題だ。

 説明した通り、今のわが国は余分な予算を捻出できる状態ではない。

 今後の解放軍活動資金については、わが国は供出できないものと見なしていただきたい」

 そう来るか。

 と、アポリッテア姫はむしろ深く納得した。

 つまりは、これまでの清算には同意をするが、これから将来にかけて構築される予定のスデスラス王国が主体となる国際秩序体制には、ゴロジオ王国は加担するつもりはないと、そう宣言したわけであった。

 おそらく、バイラド・ゴロジオ自身による発案ではないだろうな、と、アポリッテア姫は思う。

 バイラド・ゴロジオ自身は、そのように遠くまで見据えた構想を自力で思いつけるほどの素養を持っていないはずであった。

 そこまで知恵が回る人間ならば、これまで何度も醜態を晒していない。

 おそらくは、バイラド・ゴロジオの背後に控えている男が吹き込んだのだろう。

 現在捕縛されているステラシュスの弟だというその男は、これまでゴロジオ王国陣営の中では目立った働きを見せていなかったが、そこそこに状況を見る目を持っているらしかった。

 これまで存在感がなかったからといって侮るわけにもいかない。

 なんといってもバイラド・ゴロジオとステラシュスという派手な加護持ち二人が身近にいれば、誰だって影が薄くなってしまうだろう。

 今後のゴロジオ王国を考える上で警戒すべきは、むしろそのステラシュスの弟の方なのかも知れないな、と、アポリッテア姫はそう脳裡に刻む。

 この時点でアポリッテア姫は、その「ステラシュスの弟」の名前さえ、記憶していない。


「解放軍の維持費などを支援しないとなると、貴国が今後なんらかの災難に遭遇した際、ほとんどなんの支援も受けられないわけですが、その点は理解をしていますね?」

 アポリッテア姫は一応、そう念をおしておく。

 小国ゴロジオ王国からの支援は、仮にあったとしてもたいした金額になるとも思えない。

 それに、バイラド・ゴロジオというなにをしでかすのか読めない指導者を戴いたゴロジオ王国は、にわかに政情不安定となったベズデア連合と並んで次に解放軍が介入する可能性が大きな国でもある。

 今後の解放軍の未来を占うにあたって、ゴロジオ王国の支援がなくとも大きな障害とはならないはすであった。

 強いていえば、他国がゴロジオ王国に倣って解放軍への支援を忌避し出す、その契機になる可能性がある、というくらいのものだったが、この可能性も、現在の状況をみれば実際にはごく少ないだろう。

「わかっているとも。

 わかっているからこそ、わが国はスデスラス王国から距離をおくのだ」

 バイラド・ゴロジオはなぜか自信満々な口調でそう宣言した。

「ゴロジオ王国は、過去の清算はともかくとして、将来的にはスデスラス王国にも他の勢力にも加担せず、傘下に入らず、あくまで独自の道を歩む」

「スデスラス王国としても、ゴロジオ王国をはじめとする諸国に対して過剰に干渉をするつもりはありません」

 アポリッテア姫は冷静な声で応じた。

 冗談ではない。

 自国内のことで手一杯であるというのに、なんで他国の事情にまで好んで関わろうというのか。

 解放軍による干渉についても、あくまで周辺諸国にまで飛び火して延焼するような災いにのみ出動を認可するような規則を定めておいた方がいいのかも知れない。

 ともかくも、こうした応答の末、ゴロジオ王国は解放軍の活動に一切加担しないことが決まった。


 ムノライ王国とドラジア王国はこの会議がはじまる前の時点で停戦交渉を開始していて、条件その他細かい部分を調整するだけで済んだ。

 ビゲジア王国も、短期間にいろいろなことが起こって毒気が抜けたのか、ビゲジア国王は意外なほどすんなりとこちらの申し出を了承してくれる。

 交渉が難航すると予想された国々のうち、ベズデア連合とゴロジオ王国も拍子抜けするほどにあっさりと停戦についての合意が取れて、いよいよ残る交渉相手もメレディラス王国のみとなった。

 このメレディラス王国の扱いが、スデスラス王国とアポリッテア姫にとってかなりの難物になるわけだが。

 なんといってもワデルスラス公爵軍はスデスラス王国国内において焦土作戦を敢行し、他国の軍勢とは比較にならないほどの被害を与えている。

 当然、賠償金の金額もその被害に応じてかなり多額に見積もられていた。

 スデスラス王国としては、国境を接しながらまだまだ財政的にも軍事的にも余力を残しているメレディラス王国に対して、この機会にできるだけ消耗を強いておきたい、という思惑もある。

 そうした事情が複雑に絡み合って、メレディラス王国に対する賠償金の請求金額は、アポリッテア姫の目から見てもかなり過大な金額になっていた。

 もっともこの手の金額は交渉次第でぐっと目減りをすることが前提として盛られているものだし、メレディラス王国側もしつこいくらいに食いさがって来るものだろうと、アポリッテア姫などは事前にそう思っていたのだが。


「いいでしょう」

 メレディラス王国の全権大使であるバグラニウス・グラウデウス公子は係の者が差し出した書面にざっと目を通しただけでスデスラス王国側が請求をした賠償金額を了承した。

「お支払いしましょう」

「交渉もなしで、このままですか?」

 むしろアポリッテア姫の方が驚いて、バグラニウス公子の顔をまじまじと見返してしまう。

「いつもならばじっくりと交渉に望むところですが、今はもっと急を要する案件があります」

 バグラニウス公子はどこか思いつめた表情をして、そういった。

「それを切り出す前に、貴国との関係を正常なものとしておく必要があるのです」

「快諾していただけるのでしたら、こちらとしてもありがたいのですが」

 戸惑いつつ、アポリッテア姫は必死になって思い返す。

 メレディラス王国を、ここまで深刻に悩ませる案件が、最近存在しただろうか?

 メレディラス王国が、スデスラス王国との停戦交渉を急がなければならない理由とは?

「お恥ずかしいはなしですが、わがメレディラス王国から大貴族の公爵家が二家、脱退を宣言しております」

「そのことは、聞いております」

 バグラニウス公子はこの会議に臨んでいる誰もが知っている事実を口にして、アポリッテア姫もそれに頷く。

「今、問題なのは、その分離独立を宣言した公爵家が、解放軍に参画するための工作をすでに開始しているということです。

 このまま放置をすれば、最悪、そうした公爵家に加担した解放軍によってメレディラス王国内を攻撃される恐れがあります。

 メレディラス王国としては、どうあってもこの事態だけは避けたい」

「そう、なのでしょうね」

 そうした事態というのを頭の中で考えつつ、アポリッテア姫は頷く。

 将来はともかく、今この時点では、解放軍はほぼスデスラス王国のためだけに働いている。

 その解放軍がメレディラス王国内で暴れはじめたら、メレディラス王国としてもたまったものではないだろう。

 実際の被害も大きくなるだろうが、それ以上に国際的な風評、メレディラス王国の国家としての威信に大きく傷がつくはずである。

 今の時期にそんな事態になれば、スデスラス王国がこれまでの意趣返しとしてメレディラス王国に攻め込んだと、そう見なす者も決して少なくはないはずだ。

 国家間の信用とかの観点から見れば、メレディラス王国としてみればそうした事態が実現することは、できるだけ避けたい。

 そうした論理は、アポリッテア姫にしても容易に察することができた。

 だが、そうした予想と、なぜメレディラス王国がスデスラス王国との停戦を急がねばならないのか、という点が、今ひとつアポリッテア姫の頭の中で結びつかない。

「わかりませんか?」

 バグラニウス公子は薄く笑みを浮かべる。

「貴国との関係を正常化し、その上で、メレディラス王国は解放軍に対して本格的に関与しておきたいのですよ。

 そうすれば、少なくと解放軍がニョルトト、ブラズニア両公爵家のみに加担してメレディラス王国に出兵をする事態だけは防げます」

 あ。

 と、アポリッテア姫は声をあげそうになった。

 今の時点で、今後の解放軍を縛る規則や行動指針、組織形態など、細かい部分はほとんど決まっていないといっていい。

 この時点で解放軍に助力をしておけば、将来的は解放軍に対してそれだけ発言権が大きくなる。

 この場合の助力とは、ほぼ金銭、今後の解放軍の活動費をどれほど負担するのかということと同義なのだが。

 ともかく、メレディラス王国としては、スデスラス王国への賠償金と解放軍への援助を負担してでも、解放軍という国外勢力がメレディラス王国内の問題に介入してくることを事前に防ぎたいわけだった。

 さてこれは。

 と、アポリッテア姫は考える。

 メレディラス王国が二公爵領の脱退問題をそれだけ重く受け止めているということか。

 それとも、ことを荒立てず、つまりは軍事的な方法でこの問題を解決したくはないと思っているのか。

 あるいは、その両方なのか。





 

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