↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/1089

最初の接触

 ここ数日、メラモリの民は緊張と不安の中で過ごしている。

 なにしろ数日前に混合軍の騎馬隊によって王城が襲われたばかりだし、今現在はスデスラス王国から来た大軍勢がメラモリのすぐ脇を通過している最中だった。

 それに、これは以前から変わりのない態度もあるわけだが、ガンガジルの王族は今後の国策について下々の民に対して正式に説明を行う、ということが一切なかった。

 庶民はだいたい、王城に出入りするような身分の者が漏らすような断片的な情報をかき集めて「お上」がなにを考えているのか推量するしかない。

 政治向きの判断はあくまで王族や貴族が行うものであり、その他の庶民にそうした詳細を伝えても意味がない、というわけだった。

 そうした方針はそれなりに筋が通っているのだが、これでは城下に住まう人々の不安はいや増す一方である。

 気を揉む城下民の不安はよそに、スデスラス王国軍は少数の使者を城内に差しむけただけであり、その他の大多数の兵員は防壁の内部に入ることなくメラモリを通過していった。

 当然のことながら、略奪なども一切行われていない。

 どうやら、ガンガジルとスデスラスがなんらかの盟約を行っている、という噂は本当であったようだ。

 と、メラモリの民は安堵した。

 当面、危機がないとわかると、今度は城壁の外に出て通過していくスデスラス王国の軍勢を見物しようとする者が続出した。

 なにしろ、何十万の大軍勢をメラモリの近くで見ることができる機会はほとんどない。

 ガンガジル王国もご多分に漏れず、いくさとは無縁である断言できない国家であったが、そうした諍いはたいていの国境際のどこかで行われる。

 首都メラモリの近辺で武装した国外の勢力を、それもこんな大軍を目にする機会はこれまでになかった。


「ずいぶんと大勢なんだなあ」

「なんでも、五十万とかいうことだ」

 そんな内容のことが、防壁のそこここで囁かれていた。

 五十万、という人数も、どこからか漏れ聞こえてきただけの数字であり、どこまで正確なものなのかは囁きあっている当事者たちにも判断ができない。

 しかし、遠目に蠢いている軍勢を目の当たりにすると、そうした途方もない数字にもなにやら信憑性があるように思えてくるから不思議なものである。

「五十万もか?」

「このメラモリに居る人数よりも、ずっと多いな」

「あんな大軍に攻め込まれたら、このメラモリなんかあっとう間に占領されてしまうだろうよ」

「いや、それ以前に、メラモリなんかにこんなに大勢で攻め込む理由がないだろう」

「だったら、なんでやつらはこんなところにまで遠征してきているんだ?」

「そりゃあ、お前……」

 その野次馬は、少し考え込んだあとに、こう答えた。

「……もっと北の、山岳地の黄金が欲しいんだろうよ。

 あっちには、金やら銀やらがざくざく取れる鉱山がうんとあるってことだからな」


 ブラバニア男爵はスデスラス王国の軍勢と併走して馬を走らせていた。

 混合軍野営地までの道案内役をするように王命令を受け、それに従っている形である。

 しかし、ブラバニア男爵の顔色は優れなかった。

 このブラバニア男爵にしてみれば、どうにもこのスデスラス王国軍の軍勢が、その雰囲気やありようが気にくわなかったのだ。

 現在、スデスラス王国とガンガジル王国とは、一種の盟約を結んだ同盟関係にある。

 一介の貴族でしかない身であるブラバニア男爵としては、国策に対して異論を唱えるつもりはないのではあるが……どうにも、気にくわないものは気にくわないのであった。

 スデスラス王国の軍勢は不自然なまでに寡黙であり、しかし、統制が取れた挙動できびきびとよく動いている。

 総員に対し、日に何度か付与魔法をかけて、身体能力全般を底上げしていると説明されていた。

 つまり、数人に一人の割合で付与魔法が使用できる者が存在している、ということなのだが、これはガンガジル王国では考えられない比率であった。

 たとえ限定的なものであったとしても、魔法に関する知識は、あくまでごくごく一部の者たちのみが占有している、というのがガンガジル王国をはじめとした平地民一般の認識である。

 それだけではなく、スデスラス王国軍は「通信術式」なるものも正式に採用し、全軍で使用している……そうだ。

 これは、遠く離れた場所に居る者同士が意志の疎通を図ることができる魔法だそうで、ある種の魔道具を使用すれば魔法の心得がまるでない者でも簡単に使えるということだった。

 そうした魔法なり魔道具なりがあれば、確かに便利ではあろう。特に、戦場においては。

 不自然なまでに統制が取れているスデスラス王国軍の動きもそれで説明がつくわけだが……しかしブラバニア男爵は、そうした諸々を考慮してもなお、今目前に広がっているスデスラス王国軍の様子が気にくわなかった。

 スデスラス王国軍はあまりにも整然と動きすぎていて、その分、軍勢を構成する一人一人の様子が伺いきれない。

 こうして間近に見ていると、人間の軍隊というよりも、蟻などの群れを見ているような気分になってくるのだった。

 ブラバニア男爵は、先ほど会見したエデチエル伯爵に、そのことも訊ねてみた。

「彼らは、ですね」

 エデチエル伯爵は平坦な口調で答えてくれた。

「半数近くが奴隷で、もう半数がわが王国の奴隷に近い下級民です。

 このいくさに勝てれば、奴隷には奴隷身分からの解放を、農奴たちには占領した土地を開拓する権利を与えることになっています。

 そういう条件で、このいくさが終結するまでは司令部の命令に絶対服従するという契約を魔法で結んでおります」

 どんなに恐れを抱こうとも、足が竦むことさえ許されない。

 軍を率いる者にしてみれば、理想的な兵士なのだろうが……。

 さて、そんな存在がするものを、果たしていくさと称することができるのだろうか。

 基本的に単純な性格のブラバニア男爵としては、そんな風に思ってしまうのだった。

 ときに恐れおののき、それでもなんとか自らを鼓舞して敵に立ち向かう。

 だからこそ、いくさとは武人にって価値があるものなのではないのか。

 異質、だな。

 と、ブラバニア男爵は、スデスラス王国軍に対する違和感を一語でまとめた。

 確かにこのような細工を行えば、勝率はかなり跳ねあがるのだろう。

 しかしこうしたスデスラス王国軍の有り様に、ブラバニア男爵は嫌悪感しか感じなかった。


「それで、司令部はなんと?」

「しばらくは、様子見だな」

 スセリセスに問われたネレンティアス皇女は、ファンタルから届いた書状から顔をあげて答えた。

「こちらに被害が及ばない範囲内でなら、手を出してもよいと書いてきている。

 しかし、決して深入りはするなとも断り書きがあるがな」

「まあ、常識的なところですね」

 スセリセスは頷いた。

「騎馬隊の人数では、全員差し違え覚悟で突貫しても有為な打撃を与えられないわけですし」

「それでは早速、襲撃を行う人員を選びたいのだが……」

「ちょっと待ってくださいっ!」

 スセリセスが悲鳴にも似た叫び声をあげる。

「しばらくは様子見にするって命令だったんでしょっ!」

「だから、これも様子見の一部だよ。

 いわゆる、威力偵察というやつだ」

 ネレンティアス皇女は平然とそういってのけた。

「敵のやり口を実地に見ておきたいところであるし……それに、血の気の多いうちの馬鹿者どもが、そのまま指をくわえてみているだけで満足できると思うか?」

 スセリセスは慌てて周囲を見渡す。

 ここは荒野の真ん中に設けられた騎馬隊の集合場所であった。

 遠くで馬の世話をしていたヴァンクレスが、

「なんだ、次の方針が決まったのかっ!」

 とかいいながらこちらにむかって小走りに近づいてきた。

 こちらの会話が聞こえたわけではないのだろうが、ヴァンクレスは妙なところで勘が鋭い。

「一度でもやり合ってみせれば、うちの者たちも容易に出だしできない相手だと納得してくれる」

 スセリセスが視線を戻したのにあわせて、ネレンティアス皇女はもっともらしい口調でそう続けた。

 実際のところ、なんのかんのと理由をつけて一刻もはやく敵とやり合いたいのは、この皇女様なのではないか。

 スセリセスは、ぼんやりとそんなことを思った。


「今回の目的は、あくまで威力偵察だ」

 騎馬隊の主だった者たちを集めて、ネレンティアス皇女は説明を開始した。

「簡単にいうと、敵軍に一発くれてやって、その後すみやかに離脱する。

 そして敵の出方を見る。

 本格的に殴り合うことが目的ではないから、敵が挑発に乗ろうが乗るまいが、そのままさっさと離脱する」

「やつらが深追いをしてきたときは?」

 騎馬隊の誰かが、質問を発した。

「追ってきたやつらの総数で判断、だな。

 少数で突出してくるようであれば、こちらの全軍で取り囲んで潰す」

「全軍で追いかけてきたら?」

「決まっているだろう」

 ネレンティアス皇女は即答した。

「全力で、逃げる。

 実際に逃げきれるものかどうか、やってみなければわからないが」


 行軍の途上、スデスラス王国軍に矢を射かけて来た者があった。

「捨て置きなさい」

 その報告を受けたとき、スデスラス王国軍総司令のエデチエル伯爵は即座にこう命じた。

「わが軍に有意な打撃を与えることができるほどの勢力は、この周辺には存在しないはずです」

「放置、ですか?」

 幕僚が、すぐに問い返す。

「今すぐに迫撃を行えば、襲撃者を殲滅できることと思われますが……」 

「それも可能でしょう」

 エデチエル伯爵はそういってゆっくり首を振った。

「しかし今は、そんな些末事より、一刻も早く敵軍との接触することを優先します。

 ただでさえ、予定よりも遅れが出ているのですから」


 射程範囲ぎりぎりの場所から、十名以上で一斉に強弓を射かけてみた。

 が、スデスラス王国軍は小揺るぎもしない。

 騎馬隊の者たちが放った矢はむなしく歩兵の装甲に弾かれ、スデスラス王国軍に対して少しの損害も与えることもなく、また、スデスラス王国軍自体も、その攻撃にまるで反応することなく行軍を続ける。

「不発、でしたね」

 その反応に対して内心で安堵しながら、スセリセスがいった。

「なんだ。

 あれだけ大勢居るのに、腰抜けばかりか」

 詰まらなそうな口調で、ヴァンクレスがそう感想を漏らす。

「本気で深追いをされたら、こちらの方が全滅しかねないのだがな」

 ネレンティアス皇女は苦笑いを浮かべながら応じる。

「観察班。

 なにか気づいたことはないか?」

「あの甲冑、やはり間接部が弱いみたいですね」

 使い魔を駆使して状況を観察していた者が報告をした。

「胴体部に当たった矢が股関節の隙間に流れて、その直後から足が遅くなった兵が居ました。

 すぐに後退して姿が見えなくなりましたけど……」

「下腹部をねらった何十発も矢を射れば、そのうちに一本か二本くらいは隙間に刺さって動きを阻害するわけか」

 ネレンティアス皇女はそういって首を横に振った。

「駄目だ。

 効率が悪すぎるし、それ以上に確実性がない」

「取りあえず、あの甲冑は弓矢程度なら軽く防げることが実証された形ですね」

 スセリセスがいった。

「もっと大きな力で攻撃を加えないと、どうにもならない、と」

「やっぱり近接戦闘か!」

 ヴァンクレスが嬉しそうな声をあげた。

「それは、他に手が残されていない場合の最終手段だな」

 ネレンティアス皇女はいった。

「ここで吶喊を行っても、こちらの方が深刻な打撃をうけるだけで終わる」


「……まあ、そんなところであろうな」

 ネレンティアス皇女から送られてきた報告書に目を通しながら、ファンタルは呟いた。

「全力を出せば馬よりも速く走り、多少の攻撃なら簡単に跳ね返す歩兵、か。

 また、無駄なものを作ったものだ」

「本当に、大丈夫なのですか」

 司令部に集まった者たちが心配そうな顔つきで、何事か囁きあい、ファンタルに確認してくる。

「大事ない」

 ファンタルは即答した。

「やつらを歓迎する準備はすでに整えてある。

 なにしろ、ここの到着してからこの方、時間と人手は有り余るほどあったからな」

 個々の兵員の能力差は、この際、あまり重要ではない。

 相手の性能を知り、それに対応して有効な攻撃方法を繰り出すが、有能な指揮官というものなのである。

 そして、ファンタルが準備させていたのは、敵兵が多少強くともあまり関係がない性質の策であった。

 むしろ、相手側が周到に準備を重ね、慢心していればいるほど効果を発揮することだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。