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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ある変化

 ハザマ領はハザマ領の方でなにかと忙しない状況が続いているのだが、森東地域の方でも進展は続いていた。

 なんといっても森東地域は目下変化が早い状況下にある。

 洞窟衆が進出したおかげでそうなったわけで、洞窟衆側としてはその変化を妨げるような動き、つまりは必要な支援は極力する必要があった。

 一例を挙げると、洞窟衆が進出した地域内の有力者たちに声をかけていた、街道整備共同体、のようなものが、そろそろ実現可能な雰囲気になっている。

 その手の工事に協力している現地有力者たちが集まり、今後の方針や必要経費をだれがどれだけ負担をするか、などの詳細を決める機運が高まっていた。

 これまでは各地域ごとに小分けされた範囲を、冒険者ギルドが声をかけて承諾を受けた地元有力者たちと相談して、かなり狭い範囲内で施行を進めていたわけだが、こうした街道は整備された範囲が広がるほど旨味が出てくる事業でもある。

 いつまでもそうした、狭い地域性の檻に閉じこもったままでは長期的な見通しが立たないし、それに、資材や人員の割り振りについても、長期的な流れを追って手配した方が無駄が出ない。

 こうした工事は規模が大きくなるほど必要となる経費も暴騰する傾向があるから、出資をする現地の有力者たちが自分たちの負担を少しでも少なくしたかった。

 というのが、こうした機運が現地で高まってきた理由でもあるだろう。

 街道整備に協力している有力者たちは漏れなく冒険者ギルドが接触していたので、冒険者ギルドの人間が仲介するか、それとも通信などを介して有力者同士に連絡を取って貰って、徐々に、

「街道全体を造営、維持するための組織」

 というものを作ろう、という機運が高まってきている、というわけだった。

 まあ、そういうのは必要だしな。

 と、ハザマは考え、その動きを支援するよう、冒険者ギルドに命じた。

 ハザマとしては、森東地域内で有力な、大きな権限を持つ組織が出現することは、望ましいと思っている。

 将来的には、冒険者ギルドを帝国に移譲しようと考えていることからもわかるように、ハザマとしては洞窟衆関連の組織を分割してしかるべき場所に託した方がいいとさえ思っていた。

 特に森東地域については、これまでその地域を統一するような勢力が現れなかったことが大きな問題になっているわけで、ほぼ現地の人間で構成されている大きな組織が現れること自体は、いい傾向だと判断している。


 この世界にも大きな資本が必要な事業を発足させる際、小さな勢力が協力して実行する、というノウハウを持っている人間が居た。

 遠洋航海を利用した貿易などは、王侯貴族に匹敵する資本を持たないと、大型の船舶を運用することが出来ない。

 しかし、それだけの富を蓄えている商人はほとんどいないので、現実には一隻の船に大小の商人が荷を積み込んで売買する形になり、その際、船舶の運用費用はそうした商人の集団が乗せた荷の価値に応じて分担する、という形になる。

 そうした大がかりな航海は、途中で船が破損してすべての荷が海に沈むことも珍しくはなかったので、リスクヘッジの必要も出てくる。

 こうした必要性から、複数の金主から資本を集めて事業を遂行する仕組みが自然と発生し、洗練されていった。

 現地の人間は、持ち合い株制度とか呼んでいる。

 つまり、港町近辺には、こうして複数の金主を取りまとめて利益とリスクを巧く調整する仕組みが普通に存在していた。

 そうした持ち合い株制度の運用経験がある人材を冒険者ギルドはスカウトして、街道整備のための団体の職員として採用しはじめる。

 大型船舶と街道整備とでは、事業としての規模も性質もかなり異なっていたのだが、工事など実際の進捗管理については洞窟衆側が手配する人員に任せておいても問題はない。

 それよりも、ここで足りないのは大小の協力勢力をうまくまとめて利益を配分し、同時に工事がなんらかの理由で遅れたりやり直しになったりした場合、余計にかかる費用を分担して負担する。

 そうした際に、どこからも文句が出ないように公正な仕組みを構築することであり、それには持ち合い株制度が適していた、というわけである。

 それに、

「可能な限り現地の人間に主導権を与える」

 という、洞窟衆側の方針にも適っていた。

 湾岸沿いに居住する人間と、そうした街道整備事業が進捗している地域とではかなり距離があり、現地の人間からすればそうした海沿いから来た人間は洞窟衆側の人間と同じくらいによそ者と感じるのかも知れないが、ハザマたち洞窟衆側から見れば同じ森東地域に居住する地元住民になる。

 かなり強引な割り切り方であったが、そもそも洞窟衆の事業では大勢の、それこそ地元住民の何倍もの人間を送りつけて強引に各事業を展開しているわけであり、その辺の細かい区分については誰も拘ることがなかった。

 というより、森東地域関連のみならず、洞窟衆が全般に出身地や出自に関して無頓着な傾向があり、森東地域においてもその傾向をそのまま貫いているだけ、でもある。

 洞窟衆や冒険者ギルド側としては、必要な仕事が出来る人間を適切な職場に、機械的に割り振っているだけであり、それ以外になんの思惑も持っていなかった。

 現地住民の印象はともかく、「街道を整備することを目的とした団体」がこうして組織化され、これ以降、本格的に活動を開始する。


 一方、洞窟衆側としてはまだ進出を果たしていない地域への情報収集も熱心に進めていた。

 現地住民と接触しての聞き取り調査や交渉などと並行して、ハンググライダー偵察隊を大規模に運用して、かなり遠い地域の分まで地形図を作成し、複製し、公開、共有している。

 そうした未進出の地域だけではなく、進出した地域に関しても洞窟衆はかなり詳細な地形図を作成していた。

 街道整備などの事業に正確な地図が必要だった。

 そういう実際的な理由もあったが、それに加えて、そうした地形図を公開することによって、地元住民に自分たちが居る場所の姿を見せ、明確にイメージしやすくなるような効果も狙っている。

 森東地域の地元住民はほとんど、自分が生まれ育った土地の周辺しか知らなかった。

 そうした人に対して、その外にも多くの土地が広がっていて大勢の人間が住んでいる、生計を立てて生活している。

 そういう事実を認識させておくのは、長い目で見ると必要な工程といえた。

 洞窟衆の関係者自体が、そうした、

「外からやって来た者」

 であるわけだし、現在問題になっている政治的な混乱を作るきっかけとなったのも、山地からやって来た部族民たちである。

 そして今、洞窟衆が呼び込んだよそ者たちは大手を振って身近な地域を闊歩するようになっていた。

 これまではそれでよかったとしても、今後は、この地元だけで完結した社会は成立しない。

 今ではそう認識している者が、ほとんどだった。

 実際、山地からやって来た連中に押し出されるようにして、それまで居住して来た土地を追われ、ここまで逃げてきた者たちも大勢居た。

 これからのことを考えると、外部の動向を気にせずにはいられない。

 そうした意識が、森東地域の住民たちに速やかに浸透しつつあった。

 この場に留まって、これまでと同じような生活を営み続ける。

 あるいは、洞窟衆なり冒険者ギルドなりが提案してくる事業に乗って、小金を稼ぐのもよし。

 それ以外に、生まれ育った場所を離れ、これまでとはまるで違う生活を営むことさえ、出来る。

 今、冒険者ギルドが大勢の人間を、必要に応じてこちらに呼び込んでいるように。

 自分たちがそうしてはいけいない理由は、どこにもない。

 森東地域の地元住人たちは、そう思いはじめていた。

 もっとも、今すぐに住み慣れた場所を離れるような、そんな差し迫った問題を抱えている者は、ほとんどいなかったが。

 それでも、可能性として、

「ここで行き詰まった時、逃げる場所がある」

 と提示されたことは、大きかった。

 自分たちが居る場所は、別に閉じているわけではない。

 閉じ込められているわけではない。

 冒険者ギルドを頼れば、かなり長い距離を、仕事をしながら、比較的安全に移動することも可能だった。

 街道が整備されていけば、遠い土地への移動はこれまでよりも格段に容易になるだろう。

 そうした心理を一行で表せば、

「可能性が広がった」

 ということになる。

 洞窟衆が進出した地域では、住民の間にそんな変化が静かに広がっていた。




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