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ゼロ・リアル・ストロング  作者: 深津 弓春


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13 ゼロ・リアル・ストロング


「あなたはSゼロの擬人化。人でありながらゼロと同和するもの。全ての可変現実のゼロ和を司る存在」


 頭の中に定期的にメッセージが響く。サクの声が響く。

 僕はSZ196の一部を受け入れ、同時にサクの残滓とも一体となった。ここにいるのは既に以前までの僕とは異なった何かなのかもしれないと、サクの声を聞くたびに感じる。

 SZ社会はその色合いをいくらか変化させた。

 あの日Sゼロの擬人化存在となった僕が、SZ196と協力して作り上げたアップデートプログラムのせいだ。

 ゼロ・リアル・ストロング――可変現実の知覚に実際の現実との差を実感させるプログラム。

 SZの民たちは皆、Sゼロシステムを通じてこの改変を受けることとなった。だれもが忘れかけていた旧現実を強烈に意識することになったのだ。

 僅かな間社会には混乱が起こったが、すぐに静かになった。誰もがすぐに気がついたからだ。

 現実を踏みつけ飛翔する、その快感に。誰もが虜にならずにはいられない、頽廃した甘美な対比の優越感と安心感に。悲惨さが安寧を実感させ、不幸が幸福の輪郭線を太く強くする。

 この変化により、SZ196によれば、以前までの僕やあの分隊員たちのような、不全感を抱えた人間は減ったそうだ。可変現実では満足できずに懊悩し続けていた数千の魂が安らぎを得て、新しいSZ社会の中でみんなと同じ笑みを浮かべる存在となった。以前から可変現実に満足していた人々もその幸福感を増し、SZ社会の総合的な満足度は大きく向上した。

 表面的な、直近に存在したSZシステムの問題点は、だから、少しばかり解決したのだ。SZ196も一つ進歩を迎えたことを喜んでいるだろうか。


「それだけ?」


 と僕の中のサクが悪戯っぽく呟く。ツミがしたのは、そんなことだけなの? と。

 もちろん違うよ、と僕は一人で呟き返す。

 この変化は不可逆で、そして行き着くところまで行き着くようになっているんだ、サク。

 誰もが可変現実と旧現実の差異を意識し、可変現実の幸福を強く感じられる社会が完成すれば、いずれ人々は、認めざるを得なくなる。

 蹴りつけるものによって、踏みつけるものによって、その価値を保障されている自分たちの上位の可変現実という「現実」を。そうなったとき、人はあらゆる現実に安易な救いを求められなくなる。可変以前の現実だけではない、全ての可能なあらゆる現実と向き合うことになる。幸福を味わおうとするとき、その味わいの裏側に常に不幸が張り付いていることを実感することになる。現実の構造を……かつてサクが語った現実の構造と幸不幸の構造を、知ることになる。この新しいSZ社会で生きる限り、逃げ場は無い。不幸を踏みつけることで幸福を得るということは、幸福を噛み締めることで不幸の隠し味を飲み下すことに他ならない。

 あの日の廃屋で僕が味わったのと同じ気付きが、皆に少しずつ迫っていくのだ。

 逃げ場は無い。僕はSZ社会を僕の味わったのと同じ、サクの味わったのと同じ、『行き詰まり』に導くことにしたのだ。

 皆が行き詰まりに気付いたとき。現実の構造に気付き、考え、その末に拮抗する者も、出てくるだろう……。どのくらいの数になるかはわからないけれど。

 かつてサクは、現実を考え、その構造を見抜き、拮抗を唱えながらも耐え切れずに消えた。

 それと同じような、拮抗できない人々が多く出てくることにもなるかもしれない。それはある意味で、『酔うことも覚めることもできない』人々ということになるだろうか。 

 現実に拮抗するということは、現実に「覚める」ということだ。制御された酩酊が進化を遂げ極限に至ったとき、僕らは完全に幸福を得るために、完全に現実と拮抗するだろう。極限の酩酊が、完全な覚醒に至るのだ。


 けれどそれが出来ない人、そこに至れない、サクのような人々のために、僕はちゃんと準備している。SZ196の力の一端を宿した身として、拮抗できない人々にもきちんと慈悲は用意しておくつもりだったから。

 僕は国のあちこちに、生産設備と貯蔵設備を備えた。非公開区域を作り出し、密かに工場と倉庫を用意して、大量に溜め込み始めた。

 何をって、原初のSゼロをだ。

 拮抗できなかったサクが最期に選んだ手段、自己を虚無へと変えるための、大量の原初のSゼロだ。

 現実にも可変現実にも非現実にも満足できず、その不全に拮抗できず、耐えられないならば、人がとり得る道はあとは一つだ。



 現実か、虚無か。


 リアルか、本当の意味でのゼロ・リアルか。



 僕とサクは待っている。どちらの道を選んだとしても、その先で。拮抗するというならば、次代のSZシステムとしてその意志と思考を称え、最大限支援しよう。

 虚無に落ちるというなら、かつてサクが望んだ結末を用意している。無数の懐かしき缶チューハイの並ぶ場所へと、案内しよう。


 どちらであっても、約束する。

 みんなを、最高の酩酊に導くことを。


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