白銀の少年
「なぁ。どうしてあんなに幻魔が居るんだよ」
「カナちゃんがひきつけているハズじゃなかったのですぅ?」
ルーガ様とマヒ様に言われ、私は少々考える。
カナ様がハデじゃない戦いができるわけもないから当然目立つはずだ。むしろ目立って当り前。それがカナ様なのだ。だから今向こうで目を光らせて警備をしている幻魔もそろってカナ様を止めるためにその場所を離れるはずなのだが……。もしかしてこちらの動きがわかっているのだろうか?
いや、グール程度にそんな事が出来るわけもない。
「おそらく、知能が低いためにカナ様の方に行かなければいけないと言う状況を考えれていないのかと思われるのです……」
「知能が低いと困りもんだな」
知能があっても利用しようとしないカナ様も困りものなのです。常識は教えてあげなければいけないが。
「それじゃあ、突撃準備はいいのです?」
「オーケー」「り、了解ですぅ……」
若干マヒ様は腰が抜けているだろうか。まぁお嬢様で戦いなど知らないだろうから当り前かといわれれば当り前だろう。比べてルーガ様は緊張はしていないだろう。むしろ嬉々としている。これまで虐げられていた奴らに復習できると知ってからこの調子だ。少し心配どころでもある。
「では。〈世界魔法・無音斬〉」
シュッと隠していた身をさらけ出し、手刀で幻魔たちの首の部分の景色をなぞるようにする。当然、手刀自身は届いていないが魔法が幻魔たちの首を斬り落とした。
一種の時空を斬り裂く魔法で装甲などは何の関係もない無慈悲な斬撃だ。
簡単に首を落とした幻魔たちの体はその場に倒れ込む。その隙にルーガ様を先頭として先に進む。今の所誰にもばれていない。まぁ中級悪魔の幻魔相手などに気づかれるのは大体が姿を完全に目視された時だけだ。一瞬だけだと別に首を傾げる程度で気づかれないのだ。
「よしっ。後はこのまま真っ直ぐ進めばつける!」
「敵の反応はありませんね。このまま進んでも問題ありませんので直前で一度立ち止まって欲しいのです」
「了解!」
ルーガ様に指示を出してそのまま先に進む。今の所幻魔の反応が無いから大丈夫だ。
世界そのものである私には幻魔のだけでなく、人が何処にいるかも何となくであるがわかる。まだ成長段階によるために何となくなのだが。
そして、私たちは左手に大きな入口が見えると、ルーガ様が立ち止まる。覗くまでもなく、私はそのが奴隷たちの居るであろう部屋だと言う事がわかる。部屋の中から一つだけ反応がする。その奥に、大勢の反応があり、そこに奴隷が居るであろう事がわかる。私はルーガ様の前に出て中の様子を確認しようとゆっくりと覗いた。
「そこに居ないで入ってきたらどう? 飲み物でも淹れるから」
「「「!?」」」
心臓が飛び出てきそうだった。
中から一人の男性とはいえ少し音程の高い声を持つ声が呼び掛けてきた。
「どうかした? 早く入ってきなよ。飲み物が冷めてしまう」
ルーガ様やマヒ様がこちらを振り向いてくる。私はここで待っているように声をかけて、ゆっくりとだが、警戒しながら中へと入っていく。
中に居る男へと身をさらす。だが、男はこちらに向いていないソファに座っているようでこちらの姿が見えていないだろう。
私はちょっとづつ近づいていく。顔は見えないが、その髪色に私は少し驚いてしまった。
――なぜなら、その男の髪色が白銀なのだ。光に照らされると、少し緋色に光る部分がある白銀の髪色。
「スノー……ドロップの人がどうしてここにいるのです?」
「久しいな……その名前。さっ。疲れたでしょう? 廊下に居る人も呼んで来てよ。少し話をしよう」
私はソファを超えて男の顔を見る。その男の顔は童顔だと言ってもいいだろう。つまり、少年といってもいい年齢だと言う事だ。ただ、瞳は前髪が長くて見えなかった。
「!?」
そして私は驚く。その少年の足元に幻魔が死んでいた。よく部屋を見渡すと、部屋中に幻魔の血だろう物が付着していた。
他の幻魔の死体が無いと言う事はすべて消したのだろう。奴隷の目の前の部屋だ。ここにいた幻魔の量は半端ではないハズだ。
「……あなたが敵じゃないと言う証拠はあるのです?」
「幻魔を見てるのに……信用ないなぁ」
そう言って、武器を取り出した。その武器にも驚く。
その武器はどう考えても神具。カナ様が村に人に恐れられて村を旅立った理由だ。
なぜ少年がそんな物を?
「…………わかりましたのです」
そう言って廊下に居る二人に合図を送り、こちらへと来させる。二人は少年に警戒しているようだが、彼とは反対側のソファへと誘導されて座った。私はまだ警戒が解けずに立ったままだ。
「さて、自己紹介はいらないね。君たち、どうしてこんなところに居るんだ?」
「率直に訊いてくるな……。奴隷解放のためと、この城の王をブッ殺すためだよ」
ルーガ様が答えてくれるが、止める前に答えてしまった。なるべく言いたくなかった答えだった。
ルーガ様の答えを聞くと少年は肩をすくめてため息をつく。
「どうやら僕と同じ目的みたいだね……」
「え?」
同じ目的? という事は彼はここに居る幻魔と悪魔を倒しに来たと言う事?
「なるほど。さっきから大広間で暴れているのが陽動兼悪魔倒す組だって事かな? まったく。君たちが騒ぐから僕がここで幻魔を皆殺しにせざるを得なかったよ。ただの市民が革命でも起こしたのかなって思ってさ」
「それより、あなたは何者なのです? 神と契約している人がそうそう居るはず……」
そう言うと、少年は口元で人差し指を立てた。どうやら答えてはくれないらしい。マヒ様は先ほどからおどおどしているし、ルーガ様は先ほどまであった警戒心をいつの間にか解いている。
私がしっかりしなければ。
「そういえば、大広間で暴れているのは誰だい?」
「答える必要はないのです」
今度こそはルーガ様よりも先に答える。さすがにペラペラとこちらの事ばかり教えるのはよくない。
いつまでもこちらに質問されるだけなのでこちらも質問する。
「あなたは他の市民から奴隷を解放してくれと頼まれたという事なのですね?」
「あぁ。異論はない」
どこか人を突き放すような言い方に少し疑問を残す。
「なら、もうここには用が無いのです。私たちが後を引き継ぐのです」
「…………君たちが?」
少年がそう言うと、私たちを見渡す。ルーガ様を見て、そしてマヒ様を見る。マヒ様は見られた時にビクッと肩を震わせる。
そして、何を決めたのか、ため息をついた。
「ごめん。貴女は大丈夫かもしれないけどそこに居る二人はどう考えても足手まといだよ。悪いけど、僕は降りるつもりはないよ」
やはりそう来たか。
「なら、どうしたら降りてくれるのです?」
「別に僕がついていけばいいだろ?」
「信用ならないと正直に言えばいいなのです?」
「あはは。僕は相変わらず信用が無いな。この性格の所為かな。昔からなんだ。許してほしい」
許してほしいなどといわれて許せるような人がどれだけいるだろうか。私は世界だが。
「あっと、どうするんだ? ティマ」
「…………。どうしても降りないつもりですか?」
「もちろん。奴隷をこの城から出さない限りね」
ルーガ様とマヒ様を置いてけぼりにして、目の前の少年と睨みあう。火花を散らしながら睨むが少年の決意が変わりそうになかった。
どうしたものかと考えていたら不意に廊下の向こう側から声がした。
「ティマちゃーん♪ どこ~?」
「カナ様!? どうしてこちらに!?」
「この声……」
私が廊下の方を見ると同時に、その少年はソファを立った。そして、廊下ではなく奥の方へと歩き始めて行った。
「ちょ、何処に行くのです!?」
「君たちに任せてもよさそうだ。他に仕事があるんでね。お先に失礼させてもらうよ」
「待つなのです!」
そう少年が言ったと同時に、その場を発つ。
静止の言葉をかけてもすでにその場に居ないので意味のないものとなってしまった。
「……あれ? 私来ちゃいけなかった?」
残ったのは、おいてけぼりにされた私たちと今来たばかりのカナ様だけだった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。




