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月桂樹の下で  作者: 飴目
第1章

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遊離

 ——

 

 しばらくして。

 

 セレンの先ほどまで浅かった呼吸が、だんだん眠っているように深く上下し始めた。

 ゆっくりと小さくなる傷口は黄金色に淡く光を放っている。

 

 セレンは微睡《まどろみ》の淵で、温かい光を感じながら、うっすらと目をあけた。

 

 (隣に誰かいる気がする……)

 (治療されている……?)


 自分の身体の異変を感じるも、意識が覚醒しきれずはっきりと確認できない。


 ふと影が落ちる。花の香りがする。

 太陽の陽ざしに透ける羽。ふわりと流れる髪。少女は少し尖った耳に、細く白い指が髪をかける。


 「あ……あの、……えっと、もう少しで、終わりますから」


 息を含んだような、可憐な響きの小さな声。彼女の口から発されているらしい。

 

 返事するべきかと思ったが、声は出ないままだ。

 妖精か。生き残りがまだいたのか。と、そんなことをぼんやりと考える。

 

 傷口の痛みはなく、じわじわと温かい。この妖精が自分を治療しているようだ。

 彼女の指先から伝わるぬくもりは、どこか懐かしく触れたくなるような不思議な魔力を感じる。


 逃げなくて良いのだろうか。そもそもなぜ助けているんだろうか。

 彼女へ問いかける余裕もなく、じっと彼女の羽から放たれている光を見ているだけだった。

 

 ——


 ナナセは、うっすらと目を開けている青年を見る。

 出血量が多かったこともあってか、焦点がはっきりと定まっていない様子だ。


 自分への反応を見る限り、いま森にいる妖精狩りの一味ではないようだ。


 半分ほど開くまぶたから見えるグレーの瞳が、時折こちらを捉えている。

 何か言いたげなのは感じるが、まだ話せないのだろうと思いながら意識を傷口に戻す。

 ナナセは、相当な魔力を流してやっと塞がりだした傷口をみて、ここまでの傷を負っていながら生きていたことに少し驚いていた。

 

 傷に流す魔力が少しずつ軽くなるのを感じる。

 

 改めて青年の様子を観察していると、黒い外套《がいとう》の下に銃がみえている。

 彼の装いから推察するに、どこかの保護部隊なのだろうか。


 ここで何をしているのか、他に妖精は見たか、そう問いかけようとしていると。

 

 「……おい……に、…ろ……」


 青年が何か話そうとしている。その時だった。


 ナナセは突然身体何者かの魔法に引っ張られ、目の前から青年が消えた。

 先ほどまでの光の粒子が残像に変わる。

 

 「「もう1匹見つけたぞ!これで引き上げる!とっととずらかるぞ!」」


 狩人たちの声だった。ナナセは拘束魔法で抵抗する間もなく抑えつけられる。


 狩人たちが何かを唱えていて、ナナセの身体がはジンジンと火傷しているように熱くなる。


 「いやっ……!離して!やめ……て……」


 そんな声も虚しく、意識が遠のいていく。


 視界が暗くなる直前、青年が身体を必死に起こし、自分を見ながら何か叫んでいるような気がした。


 ——


 「まて……行くな……!」

 

 セレンが妖精を見たのはそれが最後だった。

 遠くで狩人たちが来た道を戻り、森を去っていくのが見える。


 力が入らず、銃を構えることができない。

 急な動きに身体が耐えられなかったのだろう、思わず地面へ倒れこむ。


 「……おい、セレン!!」

 

 合流したらしい仲間の声が聞こえてきた。

 自分に駆け寄るのが見える。


 あの妖精を助けてくれ、言葉にしようと何度も声にしようとするが音が出ない。


 仲間たちがセレンを抱え、何か話しているが、だんだん声が遠くなっていく。


 黄金色の光がわずかに瞬く傷口の熱を感じながら、セレンは意識を落とした。


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