月桂樹の下で
——
後ろの方で、騒音が木々の間を鳴らし続けている。
音が反射し、どこから聞こえているのかは最早分からなくなっていた。
ナナセが、息を切らし飛び抜けた森の奥。少しひらけた場所。
大きな月桂樹の木が、中心で佇んでいる。
いつもなら、いままでなら、精霊や動物、妖精たちに囲まれていた場所がシンと静まり返っている。
ふと木のそばに視線が向く。
(だれ……?)
人間が、気を失って倒れている。
逃げてきたようにも見えないが、敵にも見えない。
ナナセがゆっくりと近づく。
赤い髪の制服姿の青年。怪我をしているようだ。
浅く小さな呼吸を繰り返している。
呼吸に連動するように、破れた服の下の腹部から血がこんこんと流れているのが見える。
——
木の葉の揺れる音。青年をのぞき込むナナセの髪も、なぞるように揺れる。
月桂樹の花が舞っている。木漏れ日が時折ふたりを照らす。
ナナセはなぜか、”治さなければならない”と思った。
理由はわからない。直感的に、本能的に。
今なら助けられる、という焦燥感もあったのかもしれない。
助ける必要があるだろうか?という疑念は不思議と抱かなかった。
ナナセが青年にふれてそっと目を閉じる。
羽が光を帯び、花弁のようにめいっぱい広がる。
黄金色の光の粒が、羽先から指先のほうへ、脈を伝い流れていく。
命を導くように、ナナセは魔力を込める。
青年にふれる指先から、彼の体温が少しずつ上がるのを感じる。
(もう、少し)
ナナセは祈り続けた。
彼女の羽から光の粒子がふわふわと漂う。
風がふたりの間を抜け、月桂樹の花と彼女の光が混ざり合っていた。




