宿木
——
いつの間にか辺りは暗くなって、庭園の小さな光たちと混ざり合うように、少しずつ星空が広がり始めていた。
医療室へ繋がっている庭園の入り口には、時間を告げるようにキサが立っている。
「……暗くなってきたね」
「あぁ。部屋に戻るか」
セレンは薄暗い足元を導くように、繋いだままの手を引いてゆっくりと歩き出した。
ナナセは自然と歩幅を合わせてくれるように歩くセレンの背中に、静かに視線を落とした。
ここに居る、そう告げたセレンの言葉が頭の中で木霊する。
いままでも何度か言われていたその言葉は、今になって心の奥底に沈み、じんわりと熱を広げた。
セレンの真っ直ぐな眼差しと、いまも続く手の温もりは、まるですべてを委ねて欲しいと言っているようだった。
差し出された手に自分が求められていると自覚したとき、自分もまた、存在意義を繋ぎ止めるようにセレンを求め始めていた。
ナナセは、セレンを握っている手に、自分勝手な執着心を乗せるように力を込める。
少し前を歩いていたセレンが、ナナセの様子に気付いてそっと振り返った。
「……大丈夫」
セレンのその言葉は、医療室までの道案内のつもりで言っているようだった。
それでも、呼応するように握り返されたセレンの手に、ナナセは静かに居場所を感じていた。
「……セレン、ありがとう」
「気にしなくていい」
「……そうじゃなくて、手を繋いでくれること」
「俺の意思だ」
「ふふ、うん」
返ってくる言葉は分かっていたような気がした。
この包まれた手は、自分を拒まずに受け入れてくれるだろうと、そんな確信めいた安心感がナナセの胸を満たしていた。
——
庭園を抜け、渡り廊下の前でキサと合流する。
「おかえり。……君たち、本当に仲良しだね」
繋がれたままの手を見て、キサがどこか嬉しそうにセレンを見る。
「……暗いから」
セレンが少し目を伏せながら答えると、それがまた面白いのか、適当な相槌をして笑うキサに、セレンは不服そうに視線を逸らした。
渡り廊下は小さなガラス燈が点灯し始めていて、ぼんやりと石畳を照らしていたが、手が離されることはなく、二人は医療室までの道に続いた。
「じゃ、後でね」
医療室に帰ると、もはや当たり前のように1階の調薬室へ消えるキサ。
庭園から戻る時はほとんどセレンと一緒に帰るようになっていたせいか、2階の部屋へセレンに運んでもらうまでがすっかり日常化していた。
いつものように、ふわりと持ち上げられて腕の中におさまったが、今日は少しだけ力を抜いて、セレンの胸に自分の身体を預けた。
セレンは相変わらず、微かに花の香りがしていて、それがどこか落ち着く。
「……疲れたか?」
「……うん」
ナナセは少しだけ嘘をついて、それを口実にするように、そのまま身体を預け続けた。




