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月桂樹の下で  作者: 飴目
第2章

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夕暮れの祈り

 ——


 「ナナセ」


 セレンの呼び声に、ナナセは花と花の間から顔を覗かせた。

 周りにきらきらと精霊の光を漂わせているナナセは、あの森で見たときの面影を呼び覚ましているようだった。

 

 「あ、セレン!」


 名前を呼ばれるたび、自分が受け容れられているということを悟り、言葉のない許しを得たような気持ちになる。

 目が合い、ふわりと笑いかける彼女の様子で、今日という一日が何事もなく過ぎたのだと安堵した。

 

 「……もう大丈夫なのか?」


 「うん?」


 「朝は眠っていたから」


 「朝、来てたの?寝坊したの、見られちゃったんだ」


 「……好きなだけ寝たらいい」


 「ふふ。でも、夜に来る庭園も好き」


 ナナセはそう言うと、再び花へ視線を戻した。

 淡く光る花をそっと撫で、小さな光を瞬(またた)かせる。

 

 昼間見た姿とは違う、幻想的でどこか儚い姿に視線を奪われると、セレンは小さく息をのんだ。

 

 「……セレン?」

 

 そして気が付けば、セレンは手を伸ばし、花の上を添っていたナナセの手を握っていた。

 どうしたの?と不思議そうにする彼女の手はひんやりとしていて、手の中で解(ほど)け落ちてしまいそうだった。

 

 「……手、冷えてる」


 衝動的に手を握ったことの理由となる言葉が見当たらず、目前の所感で取り繕うように返事をする。


 「……そうかな?セレンの手は温かいね」


 ナナセが、手の温度を確かめるように小さく握り返した。

 いまだに不思議そうにしながらセレンを見上げるナナセと、静かに視線が重なった。

 

 セレンは、花の優しい光をまとったナナセの瞳に、自分という存在を焼き付かせるように、じっとナナセを見つめていた。

 彼女が暗い記憶の中にのまれそうなとき、記憶の片隅に残っていればいいと、何かに突き動かされるような気持ちだった。


 「ナナセ、俺はここに居る」


 ぽつりとセレンの口から零れ出た言葉に、ナナセは少し驚いたように瞳を揺らした。

 ナナセは握られた手をそっと引き寄せて、両手で包むと優しく微笑んだ。

 

 「……うん」


 セレンは、ナナセの両手から伝わる温度とは別の、確かなぬくもりを感じて胸が洗われるようだった。


 小さく瞬く光たちと共に消えそうなひとつの星を、そっと掴めたような気がした。

 

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