雨音
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普段なら医療室の窓から入るはずの青白い朝陽が今日は姿を隠して、外はしとしとと雨が降り出していた。
「今日は庭園に出るのやめておこうか」
キサの一言に、ナナセは静かに頷くと、窓から離れてベッドに戻った。
雨が降る日はいつもより体調が悪く、部屋を歩くだけで体力が削られた。
庭園に出たいと思う気力すらなく、気だるい感覚だけが身体に纏わりついていた。
キサによれば、妖精狩りたちにかけられた呪文が影響しているという。
本来ならば、妖精にとって雨は自然の恵みとして、力の源になるはずだった。
力が増せば、逃げ出せる隙が生まれる。狩人たちにとって不都合な道理を強制するための呪いだった。
ナナセがベッドの上へ座り、一息ついていた時だった。
「……ナナセ」
隣に座っていたセレンに突然呼ばれると同時に、鼻から生ぬるいものが伝う感覚に気付いてハッとした。
「あ……鼻血がっ……」
そう言い終える前に、セレンの手が顔の下にスッと滑り込むと、鼻の下へ流れてぽたりと落ちそうになった鼻血を反射的に受け止めた。
「大丈夫か」
「うん……ごめんね」
「謝らなくていい。……顔、上げるな」
セレンは少し眉をひそめ、顔色をじっと確かめるように、キサから受け取った布をナナセの鼻元にあてる。
後頭部に添えられた反対の手には、ナナセの少し熱っぽい温度が伝わってきていた。
「……最近よく出ちゃうね、鼻血」
キサがナナセを診ながらそう言うと、考え込むように点滴に目を向ける。
この症状が出始めたのはここ最近。問題なのはその頻度だった。
週に1回から始まって、数日に1回、1日に1回……、急かされるように血管が焼き切れていく。
ナナセの身体から残留物を取り除くための薬が、少しずつ不要になっていくと同時に、身体は相対的にボロボロになっていた。
まるで白蟻に食い尽くされたように外殻だけが保たれた身体は、彼女の魔力を受け止めるだけの密度も、強度も残してはいないのだと悟る。
流れ出た鮮血は、ナナセの中の均衡が崩壊する始まりに過ぎなかった。
ナナセはある意味順当に、新しい悪路を進みはじめていた。
その穏やかな退行を、キサとセレンは静かに見つめていた。




