小さな足跡
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ナナセ、キサ、セレンの三人は、ムーンバレルから医療室へ、庭園の来た道を戻っていた。
素足で外に出ていたナナセの足が、濡れた草の上を踏むたびにひんやりとした。
庭園の花々が、一番花壇側を歩いていたナナセのふくらはぎや服の裾を時折撫でて、雫を移した。
「……足、濡れちゃった」
「大丈夫。部屋に戻って拭いたらいいよ」
キサとそんな話をしながら、目を閉じていた時には分からなかった、行きでのキサの足音の答え合わせをするように、庭園を抜けて医療室まで続く渡り廊下の石畳を歩く。
「ここ、綺麗だね」
「そう?気に入ってくれたなら良かった。……さぁ着いた」
周りを楽しむように見渡しているナナセに、キサが目を細めながらそう言うと、医療室の扉を開けた。
医療室の中は少し薄暗く、ふわりと薬品や薬草の香りが漂ってきている。
ガタン、と扉が閉まると、キサの魔力調整というやつなのだろう、外との魔力の流れが遮断されるのを感じた。
医療室の魔力に慣れていたナナセの身体が、ここに帰ってきた、というような安心感を覚えほっとする。
1階の廊下を進み階段の手前。
ナナセを2階へ運ぶため、再びキサが手を伸ばそうとしていた時だった。
「じゃあナナセ、持ち上げるね……って、セレン?」
ずっと隣で静かに歩いていたセレンが、キサを遮ってナナセを抱き上げた。
「わっ」
キサを見上げていたナナセの目線がふわりと高くなり、思わずセレンの腕を掴む。
そのままナナセはセレンの片腕で抱え込まれるように、腕の中にすっぽりとおさまった。
「……代わりに部屋まで運ぶ」
「ははっ!じゃあよろしく。落とすなよ」
「……落とすわけないだろ」
ついでに薬持って行くからまた後で、と言いながらまだ笑っているキサを背後に、セレンは階段を上る。
息遣いもそのままに、トン、トンと軽快な靴音が一定のリズムで響いていた。
「……セレン、重くないの?」
「軽すぎて怖い」
「ふふ、言いすぎ」
「……前は、意識がなかったから。余計に軽く感じる」
「……そっか、抱っこしてもらうの、これが2回目なんだね。……あ。さっき服も少し濡れたから、セレンも濡れちゃうかも」
「気にしない」
セレンは階段を上がりきってもナナセを下ろすことなく、部屋へと歩く。
途中、セレンが廊下にある窓際を通ると、ナナセはいつもよりも高い視線で外を眺めた。
すると、この建物の隣に整然と植えられた木々の先、少し離れた所に屋根の一部が覗いていることに気が付いた。
「あの建物は何?」
ナナセが少し身を乗り出してそう言うと、セレンは速度を緩めて窓際に寄り、ナナセの視線を追う。
「……あれは訓練所だ」
「ここから見えてたんだ。……アルカの敷地って広いんだね?」
「あぁ。いろいろ出歩いてみるといい」
「訓練所にも行っていいの?」
「……俺が居る時なら」
「うん?じゃあ……いつか案内してもらおうかな」
「調子が戻ったらな」
セレンはそう言って窓際から離れると、ナナセが元居た部屋の扉を開けた。
医療班の誰かが空気を入れ替えるために部屋の窓を開けたのか、庭園から流れてくる風がカーテンをひらひらと揺らしていた。




