花の中の彼女
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訓練所からの戻り道、渡り廊下を抜ける。
セレンは、視界の端に映る、白い人影に思わず足を止めた。
庭園に咲く花の奥で、揺れる花を優しいまなざしで見つめるナナセの姿。
胸の奥で、光が弾けるようだった。
白く細い指が、花弁の色を映しながらそっと花を包む。
陽の光が、彼女に残る歪な羽を透かし、光彩となって地面を彩っていた。
庭園に立つ彼女は、医療室で眠っている時の脆くて壊れそうな姿とは別人のようだった。
セレンは、気付くと庭園の中へ歩き出していた。
「……あ、セレン!……ふふ、外に出てみちゃった」
セレンに気付き、花から彼へ視線を移したナナセが、ぱっと顔を明るくして、嬉しそうに話しかける。
ナナセの少し遠くにはキサが立っていて、セレンの視線に軽く手をあげた。
「……体調は?」
「大丈夫。キサに連れてきてもらったの」
「そうか。……部屋より、庭園にいる方が似合ってる」
「……ほんと?嬉しい」
「あぁ。綺麗だ」
「セレン、そういうことはっきり言うんだね……」
「……事実だから」
セレンの言葉に、ナナセは少しだけ驚いて恥ずかしそうに笑うと、庭園をゆっくりと歩きだした。
ナナセの速度に合わせるように、セレンも並んで歩く。
——
キサは二人の様子を遠巻きに眺めている。
「よく持ち直したな……」
花の間を歩く彼女を見ながら、キサはぽつりと呟いた。
妖精狩りによって壊れたナナセの身体。
妖精の魔力を奪い、逃げられないようにする呪いや毒。
効率よく素材を搾取するための薬物。
それらは複雑にナナセの魔力と絡み合い、今なお彼女身体の中を蝕んでいる。
妖精の治療自体、人が関与できる範囲ではほとんど研究が進んでおらず、ほとんど手探り状態だった。
絡み合った糸を1本ずつ解くように、残留物を取り除いていくので精一杯だった。
実際、今も食べ物はおろか水さえ一切口にできていない。
試行と記録の日々。そんな中で持ち直していく彼女の生命力は目を見張るものがあった。
それに、ナナセの持つ魔力には見覚えがあった。
羽を流れる、黄金色に光る小さな粒子。
半年前、負傷して運ばれたセレンの傷口に残るかすかな光と同じ魔力だった。
キサは、彼女の魔力を見たとき、セレンを治癒したのはナナセだと確信した。
同時に、あの傷を短時間であそこまで治癒した力に、当時は相当な魔力の持ち主だったのだろうと察していた。
ナナセの眠る部屋に入らず立ち尽くしていたセレンが、今はナナセの側を歩いている。
いつもより少し柔らかい視線を彼女に向けるセレンを見て、彼の選んだ道が分かったような気がした。




