アルカの庭園
——
「扉、開けるね」
キサがそう言いながら、扉を開けると同時に、ナナセはぎゅっと目を閉じた。
キサの言う通り、外気に触れた肌が、日焼けしていくような、ピリピリとした感覚になる。
キサが歩みを進めるごとに、部屋とは違う気配、外の匂いに変わっていく。
石畳を歩く足音が一段降りて、ふわりと草を踏む音に変わった。
「ほら、ナナセ。着いた」
キサの腕の中、閉じていた目をそっと開けた。
木々、花々が揺れ、魔力が外気との均衡を図りながら一定に保たれている庭園。
中心には、大きな噴水が流れ、水飛沫をキラキラと漂わせていた。
花々の隙間から、小さな妖精たちが時折こちらの様子を伺っている。
遠くには、小さな池で微睡んでいる魔法動物たちも見えた。
「……綺麗」
「窓から見るのとじゃ、全然違うでしょ」
キサはそう言いながら、庭園を歩き出した。
「お花、いい香りする……」
「そうだね。妖精たちが手入れしてくれてるんだ。野菜とか、薬草を育ててる場所もあるよ」
庭園を説明しながら、キサは少しひらけた場所にナナセを下ろした。
ナナセの足が、柔らかな草に触れた。
陽の光を浴びて温かさを感じる地面から、自然の生き生きとした魔力が、ナナセの足を包む。
「気持ちいい。キサ、ありがとう」
「俺も嬉しい。庭園に出られるまで回復できて良かった」
ナナセはとても嬉しそうに微笑んでいた。
庭園の草花が、ナナセを歓迎するように優しく揺れた。
——
「あ。なぁ、あれって」
「例の妖精さん?セレンが足繁く通ってるっていう……」
「キサが隣に居る。絶対そう!」
「初めて見た」
「セレンはまだ訓練所?」
「あぁ。もうすぐ戻るんじゃない?」
庭園を挟んだその先にある、ダイニングバー・ムーンバレル。
そこに居た彼らから、遠巻きに見られていることに、ナナセは気付いていなかった。




