窓の外へ
——
あれから数週間。
ナナセは次第に起きている時間の方が長くなっていた。
セレンは相変わらず、定期的に医療室に来ていて、顔を合わせるタイミングが増えた。
「今日は訓練?」
「あぁ。……今日は部下とナイフ戦」
「そうなんだ、どっちが勝ったか、今度教えてね」
そんな何気ない会話を重ねる日々。
制服姿や訓練服姿で日毎に訪れるセレンから、任務の話や訓練所の話を聞くことはナナセの楽しみになっていた。
ナナセの体調も、少しずつ快方に向かっていて、身体に繋がれた点滴たちが1本、また1本と外れ始める。
「魔力補助はもう必要なさそうだね」
今日、新たに外れた管を片付けながら、キサは嬉しそうに目を細めた。
残っているのは、まだ食事が摂れないナナセへの栄養補給用の点滴と、定期的に解毒剤を流している点滴だけ。
久しぶりに身動きが取りやすくなった腕を見て、ナナセの気力も戻っている様子だった。
何より嬉しかったのは、魔力が回復しだして身体が楽になると、窓辺まで歩いて外を眺められるようになったことだった。
——
「庭園に出てみる?」
ある日、じっと外を眺めていたナナセにキサが言った一言に、ナナセは目を輝かせた。
「……いいの?」
「うん、今日の体調なら大丈夫じゃないかな。庭園の魔力もナナセの回復に役立つだろうし」
「……行ってみたい」
その声で、キサはナナセから一時的に全部の点滴を外していく。
ナナセはベッドから出て、そっと足を下ろした。
キサに手を引かれながら、ゆっくりと歩き、部屋の扉を開けた。
穏やかな昼下がり。陽の光が廊下を照らしていた。
ナナセの後ろに広がるこの部屋の中だけがすべてだったナナセの世界が、ゆっくりと広がっていく。
自分の部屋の隣にもいくつか扉があること。
廊下に置かれている絵画や植物、長椅子、その先に続く階段。
「あ、階段はまだ早いかも」
持ち上げるね、とキサが優しく言いながら、ナナセに手を添えるとそっと抱き上げた。
キサが歩みを進めて、階段を下る。
規則的に揺られながら、遠ざかる部屋が見えて少しだけ不安になり、キサを掴む手に力がこもる。
キサは、大丈夫、と伝えるようにナナセをそっと支え直しながら、階段をゆっくりと降りた。
「こっち、ナナセが最初に運ばれた、診察台のある部屋だよ」
階段を下り、1階の廊下を進んだ先で、最初に見えた部屋。
中では、他の医療班の人や、回復妖精たちが作業をしていた。
ナナセに気付き、優しく笑いかける。
「……覚えてないや」
「あの時はすごい状態で運ばれてきてたからさすがにね。無理もない」
キサは少し笑いながら部屋を通り抜け、外へと繋がる医療室の扉の前で足を止める。
「この先が外だけど、俺の魔力調整がここまでだから、外に出たら少しピリピリするかも」
そう言いながらゆっくりと扉を開けた。




