↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月桂樹の下で  作者: 飴目
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/32

手を握る理由

 ——

 あれから時間が経ち、夜になったあたりからナナセの調子は落ちだして、数時間に1回、目を覚ますようになっていた。

 

 「う……、……っ……」

 

 「……夜はやっぱり、不安定になるね。熱が高い」

 

 「……う、ん……」

 

 夜中の3時を過ぎた頃。ナナセにとって何度目かの目覚め。

 投薬を終えたキサが記録に目を通しながら、部屋の窓を開けてくれた。

 

 ひんやりとした夜の風が、火照った身体を冷やしてくれて心地が良い。

 

 キサは時折こうして窓を開けてくれる。

 ナナセの居る部屋は、キサの魔法の影響でしばらく閉め切られていたが、魔力が回復してきて少し緩めてくれたらしい。

 窓が開くと、すぐそばの庭園の草木の揺れる音が聞こえてきて、とても好きだった。


 「効きだすまで少し時間がかかる薬だけど、ナナセの魔力も治癒する力はあるみたいだから、消さないようにしてる」

 「しばらくしたら窓閉めに来るね」

 

 キサはそう続けて、治療道具を片付けに部屋を去っていた。


 部屋に静けさだけが残った。

 シンとした部屋の中、体温が上がった身体の血管がドクドクとしているのを感じる。

 世界に一人、取り残されたような感覚だった。


 窓から部屋を抜ける風が、ふわりとナナセの髪を揺らして、ナナセは目を閉じる。

 風に乗って、木の葉がさわさわと揺れている。


 ——

 

 カチャ、と扉の開く音がして、目を開けた。

 

 窓を閉めに来たキサかと思ったが、月明かりに照らされていたのは、セレンだった。

 

 昼間見た時は訓練服のようなラフな姿だったが、今は記憶で見た黒い制服に身を包んでいる。

 少しだけ着崩した様子から、任務帰りなのだろうか。

 こんな時間まで起きているセレンに少し驚く。


 セレンはベッドの側に来ると、起きていることをキサから聞いたのか、ナナセに話しかけた。

 

 「……具合は?」


 「……熱が、あって……」


 「……」


 セレンは、黙ってナナセの手をとった。

 

 「……熱いな」


 自分の熱のせいか、少し冷たく感じるセレンの手。

 体温を確かめるように、そっと握りしめられる。

 

 その仕草があまりにも優しくて、熱に絆(ほだ)された心が、寂しさや心細さにふっと襲われた。

 身体のどこよりも、目元がじわりと熱くなって、視界がぼやける。

 

 「……泣くほど辛いのか」


 ナナセの目から、静かに涙がこぼれ出していた。

 

 「ううん……違う……。……大丈夫……」


 セレンがナナセに目線を合わせようとして屈(かが)もうとした時。

 ナナセの手がきゅっと強まる。

 

 「……いかないで……」


 思わず、口から漏れ出た引き留める言葉。

 昼間の彼を思い出し、酷なことを言っているという自覚はあった。

 

 セレンは体勢を変え、ベッドの縁にそっと腰掛ける。

 

 「……ごめんなさい」

 

 「なぜ謝る?」


 「……帰るのかと……」


 「……昼間のことを気にしているんだろう」


 「……」

 

 「ナナセ、俺は望んでここに居る。ナナセが辛いなら、側に居たいだけだ。……だから、何かあったら言っていい」

 

 セレンは、ナナセの目を捉えながら、静かに言った。

 少しだけ明るくなった外から風が入り込んで、ナナセの濡れた頬を冷やす。

 

 「……しばらく居る。少し眠ったほうがいい」

 

 ナナセの返事を待たずにセレンはそう言うと、少し手を伸ばし、窓を閉める。

 外の音が遮断され、聞こえるのは自分の呼吸と、セレンの服が擦れる音。

 

 「暑くなったら言って」

 

 ナナセは、セレンの言葉に小さく頷くと、ベッドに身体を預けた。

 

 セレンの手は、ナナセの寂しさを紛らわすように、少しだけ強く握られていた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。