手を握る理由
——
あれから時間が経ち、夜になったあたりからナナセの調子は落ちだして、数時間に1回、目を覚ますようになっていた。
「う……、……っ……」
「……夜はやっぱり、不安定になるね。熱が高い」
「……う、ん……」
夜中の3時を過ぎた頃。ナナセにとって何度目かの目覚め。
投薬を終えたキサが記録に目を通しながら、部屋の窓を開けてくれた。
ひんやりとした夜の風が、火照った身体を冷やしてくれて心地が良い。
キサは時折こうして窓を開けてくれる。
ナナセの居る部屋は、キサの魔法の影響でしばらく閉め切られていたが、魔力が回復してきて少し緩めてくれたらしい。
窓が開くと、すぐそばの庭園の草木の揺れる音が聞こえてきて、とても好きだった。
「効きだすまで少し時間がかかる薬だけど、ナナセの魔力も治癒する力はあるみたいだから、消さないようにしてる」
「しばらくしたら窓閉めに来るね」
キサはそう続けて、治療道具を片付けに部屋を去っていた。
部屋に静けさだけが残った。
シンとした部屋の中、体温が上がった身体の血管がドクドクとしているのを感じる。
世界に一人、取り残されたような感覚だった。
窓から部屋を抜ける風が、ふわりとナナセの髪を揺らして、ナナセは目を閉じる。
風に乗って、木の葉がさわさわと揺れている。
——
カチャ、と扉の開く音がして、目を開けた。
窓を閉めに来たキサかと思ったが、月明かりに照らされていたのは、セレンだった。
昼間見た時は訓練服のようなラフな姿だったが、今は記憶で見た黒い制服に身を包んでいる。
少しだけ着崩した様子から、任務帰りなのだろうか。
こんな時間まで起きているセレンに少し驚く。
セレンはベッドの側に来ると、起きていることをキサから聞いたのか、ナナセに話しかけた。
「……具合は?」
「……熱が、あって……」
「……」
セレンは、黙ってナナセの手をとった。
「……熱いな」
自分の熱のせいか、少し冷たく感じるセレンの手。
体温を確かめるように、そっと握りしめられる。
その仕草があまりにも優しくて、熱に絆された心が、寂しさや心細さにふっと襲われた。
身体のどこよりも、目元がじわりと熱くなって、視界がぼやける。
「……泣くほど辛いのか」
ナナセの目から、静かに涙がこぼれ出していた。
「ううん……違う……。……大丈夫……」
セレンがナナセに目線を合わせようとして屈もうとした時。
ナナセの手がきゅっと強まる。
「……いかないで……」
思わず、口から漏れ出た引き留める言葉。
昼間の彼を思い出し、酷なことを言っているという自覚はあった。
セレンは体勢を変え、ベッドの縁にそっと腰掛ける。
「……ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「……帰るのかと……」
「……昼間のことを気にしているんだろう」
「……」
「ナナセ、俺は望んでここに居る。ナナセが辛いなら、側に居たいだけだ。……だから、何かあったら言っていい」
セレンは、ナナセの目を捉えながら、静かに言った。
少しだけ明るくなった外から風が入り込んで、ナナセの濡れた頬を冷やす。
「……しばらく居る。少し眠ったほうがいい」
ナナセの返事を待たずにセレンはそう言うと、少し手を伸ばし、窓を閉める。
外の音が遮断され、聞こえるのは自分の呼吸と、セレンの服が擦れる音。
「暑くなったら言って」
ナナセは、セレンの言葉に小さく頷くと、ベッドに身体を預けた。
セレンの手は、ナナセの寂しさを紛らわすように、少しだけ強く握られていた。




