星を散らして
——
「どこか痛い?」
「ううん、今は痛くない、かな」
「……うん、今日は結構落ち着いてるね。薬を変えるから少し待ってて」
キサが診断した後、そう言い残すと、部屋を出ていった。
二人の間に訪れる静寂。
気まずいとか、緊張するとか、そういうことは不思議と思わなかった。
セレンは、窓際に立ち、外を眺めていた。
沈黙を最初に破ったのはナナセだった。
「……あの、セレンさん、ですよね」
「……セレンでいい」
「セレン……、あの、ここに運んでくれたのはあなただって、キサから聞きました。本当に、ありがとうございます」
「……必要だっただけだ」
「ここ数日も部屋に来てくれていたって……。ごめんなさい、寝ていて……」
「謝る必要はない。勝手にしたことだ」
ナナセはセレンと話すことで、ずっと彼に感じている違和感が解消すると思っていた。
しかし、恩人だという事実はあっても、ナナセの胸の内にはどこか腑に落ちない思いが残ったままだった。
「……どこか痛むのか?」
少し考え込むように黙っていると、セレンがそう言いながらそっと手を握った。
それがあまりにも自然で、少し驚く。
そういえば、この前部屋に居た時も手を握られていたっけ、そんなことを思った。
「あっ、いえ……」
大丈夫、そう続けようとした時だった。
ふと、自分に触れるセレンの手から、小さな星屑のような光たちが、静電気のようにピリッとナナセの手へ駆け巡った。
思わず、セレンの顔を見つめた。セレンはその光に気付いていない様子だ。
グレーの瞳が、視線に気付いて静かに見つめていた。
——遠く昔の、蘇る記憶。
森の中。赤い髪、黒い外套の青年。
指先から青年へ流れ込む、自分の魔力。
セレンの身体の中に残っていた、わずかな自分の魔力が見せているのだろうか。
暗い日々が始まる前の、最後の記憶だった。
「……あの時……、森で……」
ぽつりと放ったその言葉に、セレンは目を見開いた。
「……覚えていたのか」
「いえ……今なぜか……。」
セレンの反応で、自分の中の点の点が繋がる。
あの時助けたのは、セレンだった。
傷は最後まで塞がっていなかったし、狩人たちが居る中、動けない青年がどうなっていたのか分からず仕舞いだったことを思い出す。
今、こうして生きた彼に会えるとは思ってもみなかった。
「助かって、良かった……」




