交わる視線
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キサの言う通り、ナナセは少しずつだが回復に向かっていた。
最近では、ナナセは痛みで起きる時間が少しずつ減り、1日のほとんどを眠るようになった。
痛み無しで、目が覚めることも増えた。
目を開けるたびに窓から差し込む陽の光や、夜の暗さが変化していて、時間の経過を感じた。
キサとは起きている間の短い時間だが、よく話すようになった。
ここには庭園があるからいつか外に出ようとか、今日のダイニングのメニューがおいしかっただとか。
熱心に治療をしながら、ちょっとした周囲の様子を教えてくれる、安心できる存在になった。
ナナセにとって、当たり前の日常として受け入れていく時間を与えられているようだった。
キサにセレンと呼ばれていたあの人のことは、あれ以降見ていなかった。
「……ねえ、キサ。この間居たあの人は……?」
痛み止めが効きだして、少しの話せる時間。ナナセはキサに問いかけた。
「ん?あぁ、セレン?一応、来てるんだけどね。タイミング合わないね」
「え、部屋に来てるの……?」
「うん、来てるよ。ナナセは寝ちゃってるけど」
「そうだったんだ……」
どうやら、知らない間に部屋へ来ているらしい。
そして、キサはセレンのことを教えてくれた。
キサの少し古い友人であること、戦闘部隊にいて普段は訓練所や任務に出ていること。
医療室へ来て、ナナセをしばらく見ては、容体を聞いて帰っていくこと。
「ナナセを此処まで運んだのもあいつだよ」
そして最後にそう付け足した。
知らなかった、あの時聞いた声の正体。
あの時感じた既視感は、その時の記憶によるものだったんだろうか?
ナナセは、違和感の答えが分からずにいた。
正直、ここへ運ばれる直前の記憶や昔の記憶は思い出せない。
時々夢に見る、暗い日々の記憶だけがナナセの中で鮮明に残っていて、他の記憶はかき消されてしまう。
無理に思い出す必要はないとキサは言ってくれたが、おそらく自分が連れてきた手前様子を見に来てくれているのであろう彼に、少し申し訳なく思った。
——
次にナナセが目を覚ました時。
ナナセが起こされたのは痛みではなく、扉の音とキサの笑い声だった。
「え、また来たの?今日何回目?」
「……4回目。ナナセの体調は?」
「ははっ、真顔で答えるな」
そう笑いながらいうキサの声と、静かに歩く足音。
「……お。丁度起きた。具合は?」
笑うキサを見ていると、視線を戻したキサがナナセに気付いて話しかけられる。
「うん……だいじょうぶ」
キサの隣で、歩いてきた赤い髪が揺れた。
「……」
「……」
何度か来てくれているらしい彼と、初めてまともに顔を合わせた。
少しの沈黙。
ナナセとセレンは、お互いを見つめ合っていた。




