青年の罪業
——
最初に医療室で目を覚まして、1日経ったくらいだろうか。
痛みで何度か目を覚ましても、変わらない医療室の風景とキサの姿。
暗い冷たい部屋での生活から一転、安寧が保たれた部屋で過ごす自分に一瞬驚く。
しかし、意識が覚醒するよりも先に、身体を巡る痛みが過去と現実の境界を曖昧にしていた。
ナナセが次に目を覚ました時、ふと気づくと誰かが側に居た。
キサではない、別の誰かの声がする。
この声、どこかで聞いたことがある。
低くて、 静かで、優しい声。
身体が熱く、ジンジンと広がる痛みの中、手に感じる冷たい温度。
目を開けると、この冷たい感触が声の主の手だと気付いたが、誰かを確認する余裕は持ち合わせていなかった。
握られた手がひんやりと心地良くて、ただ離したくなかった。
手を離さないで、と声に出すには息が足りず、肺が酸素を取り込もうとする。
「……ここに居る」
その声は、言葉を言い切る前に、握る力を少し強めながらそう言った。
——
少し経って、扉の音と共に足音がする。
一緒にカラカラと薬瓶の音が近づいてきて、薬を持ったキサだと分かった。
「おまたせ。辛いね。今、痛み止めいれるよ。また眠くなるからね」
キサは記録を見ながらそう言うと、薬を点滴の管へ注入し始めた。
身体の感覚がだんだん麻痺していくのを感じる。
痛みの波が引き、少し意識を持ち直してもなお変わらない世界に、ここが現実だと安堵する。
やっと解放される。
そう思いながら眠気を待っていると、二人の話声がする。
「セレン、4日ぶりの再会じゃない?もっと早く会えたでしょ」
「……あぁ」
「お前は変なところで気にしすぎ」
「…………そうかもな」
セレンと呼ばれた人は、手を握ったまま答えている。
二人は仲が良いのだろうか、キサの言葉が少し砕けていてそんなことを思った。
「これ、何とかならないのか」
「痛みを感じてるってのは、身体が回復してる証拠だからね。痛みの具合で他の薬を調整したい。ナナセは辛いだろうけど」
「……」
「少しずつだけど、いい方向に進んではいるよ。そういえばお前……」
二人はその後も、何かを話していたが、聞いているうち薬の眠気に襲われて目を閉じた。
ひんやりしたセレンの手は、いつの間にかほんのりと熱を持っていて、それがまた心地良かった。
——
「……そろそろ手、離しても大丈夫だと思うよ?」
バイタルの記録を終えたキサがセレンに言うが、返事はない。
ナナセの荒い呼吸が静かになるまでも、寝息に変わってからも、セレンはナナセをじっと見つめていた。
話している間も、視線はずっと彼女の方だ。
熱い眼差し、というよりは彼女の変化をひとつひとつ観察して目に焼き付けているような、そんな感じだった。
「まぁ、不安定だけど危機的状況は脱したし、扉はいつでも開いてるから」
そう言い残し、キサはナナセの部屋を後にした。
セレンはしばらく部屋に残っていたが、少しして部屋から出てきた。
「また来る」
1階で作業をしていたキサにそう言うと、医療室を去っていった。




