痛みの中で
——
それから。
ナナセは少しずつ目を覚ます時間が増えた。
目を覚ます時間、というよりは、痛み止めが切れて起こされる時間。
ナナセは痛み止めが切れて起きているか、薬が効いて静かに眠っているかのどちらかだった。
キサは定期的にナナセの部屋で体調を確認していた。
そろそろ痛み止めが切れだす時間か、と記録に目を通しながら、調薬のために部屋を出る。
2階から降りていると、丁度セレンが来ていた。
「あ、セレン。ちょっと薬を作ってくるから。部屋で見ててあげてよ」
キサがすれ違いざまにセレンの背中をぽんと叩き、そう告げると、返事を待つ間もなく調薬室へ足早に消えていく。
セレンはパタンと閉まった調薬室の扉から、彼女の眠る部屋に続く階段へ視線をあげる。
静かに階段を上り、廊下を進んで、部屋の前。
昨日とは打って変わり、今日は晴れて、廊下には陽ざしが差し込んでいた。
陽ざしがナナセの扉の前に、セレンの影を落とす。
セレンは扉へ手を伸ばす。
少しのためらい。身体が硬直して、心拍数が上がるのを感じた。
まるで、罪人が裁きを受ける時のようだった。
この扉を開けてしまえば、自分の罪状を告げられることになるだろう。
怖い、逃げ出したい、そんな感情が扉を開けようとする手を止めた。
——
扉の前で立ち尽くしていると、わずかに彼女の声が漏れる。
「……っ、……ぁ……はぁ……」
痛み止めが切れたのか、少しずつ呼吸が荒くなっていく声。布の擦れる音。
「……ぁ……キ、サ……うぅ……」
キサを呼ぶ小さな声と共に、カシャン、と中で何かが動く音。
その声を聞いた途端、恐怖や迷いを置いて、身体は勝手に動きだした。
考える猶予は無いと言われた気がした。
セレンは思わず扉をあけた。
部屋の中は、窓から光が照らしていてほんのりと明るくなっていた。
温かみのある家具と、いくつかの治療機材の並ぶ部屋。
窓際のベッドには彼女が居た。
朦朧とした意識の中、苦しそうに息をしながら、キサを探す行き場のない手がさまよっていた。
ベッドの側へ寄り、セレンはナナセの空を切る手をそっと掴む。
「……大丈夫か」
「……ナナセ」
初めて彼女の名前を声に出した。
セレンの思い出の中の妖精に、ナナセという名前が付いて、彩度が増したような感覚に陥る。
キサと勘違いしているのか、誰とも分からず痛みに耐えるためか、熱くて少し汗ばんだ手先がセレンの手を握り返す。
数日前、最後に腕で抱いた彼女から感じたものとは違う、生気を感じる手だった。
痛みの波に合わせるように、握られる手の力が強くなる。
彼女の目が薄っすらと開き、涙の溜まった目で何かを訴えようとしていた。
「……っ、手……っ……」
「あぁ。……ここに居る」
掴むように持っていた手を、そっと下から握りなおす。
自分の手に、彼女の手の熱が伝わる。
セレンは、生きている温度を確かめるように、ナナセの手を離さなかった。




