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月桂樹の下で  作者: 飴目
第2章

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14/32

痛みの中で

 ——

 それから。

 ナナセは少しずつ目を覚ます時間が増えた。

 

 目を覚ます時間、というよりは、痛み止めが切れて起こされる時間。

 ナナセは痛み止めが切れて起きているか、薬が効いて静かに眠っているかのどちらかだった。


 キサは定期的にナナセの部屋で体調を確認していた。

 そろそろ痛み止めが切れだす時間か、と記録に目を通しながら、調薬のために部屋を出る。

 

 2階から降りていると、丁度セレンが来ていた。

 

 「あ、セレン。ちょっと薬を作ってくるから。部屋で見ててあげてよ」


 キサがすれ違いざまにセレンの背中をぽんと叩き、そう告げると、返事を待つ間もなく調薬室へ足早に消えていく。

 

 セレンはパタンと閉まった調薬室の扉から、彼女の眠る部屋に続く階段へ視線をあげる。

 

 静かに階段を上り、廊下を進んで、部屋の前。

 昨日とは打って変わり、今日は晴れて、廊下には陽ざしが差し込んでいた。

 陽ざしがナナセの扉の前に、セレンの影を落とす。

 

 セレンは扉へ手を伸ばす。

 少しのためらい。身体が硬直して、心拍数が上がるのを感じた。


 まるで、罪人が裁きを受ける時のようだった。

 この扉を開けてしまえば、自分の罪状を告げられることになるだろう。

 

 怖い、逃げ出したい、そんな感情が扉を開けようとする手を止めた。


 ——

 

 扉の前で立ち尽くしていると、わずかに彼女の声が漏れる。


 「……っ、……ぁ……はぁ……」

 痛み止めが切れたのか、少しずつ呼吸が荒くなっていく声。布の擦れる音。

 

 「……ぁ……キ、サ……うぅ……」

 キサを呼ぶ小さな声と共に、カシャン、と中で何かが動く音。

 

 その声を聞いた途端、恐怖や迷いを置いて、身体は勝手に動きだした。

 考える猶予は無いと言われた気がした。

 

 セレンは思わず扉をあけた。

 

 部屋の中は、窓から光が照らしていてほんのりと明るくなっていた。

 温かみのある家具と、いくつかの治療機材の並ぶ部屋。

 

 窓際のベッドには彼女が居た。

 

 朦朧とした意識の中、苦しそうに息をしながら、キサを探す行き場のない手がさまよっていた。

 ベッドの側へ寄り、セレンはナナセの空を切る手をそっと掴む。


 「……大丈夫か」

 

 「……ナナセ」

 

 初めて彼女の名前を声に出した。

 セレンの思い出の中の妖精に、ナナセという名前が付いて、彩度が増したような感覚に陥る。

 

 キサと勘違いしているのか、誰とも分からず痛みに耐えるためか、熱くて少し汗ばんだ手先がセレンの手を握り返す。

 数日前、最後に腕で抱いた彼女から感じたものとは違う、生気を感じる手だった。

 

 痛みの波に合わせるように、握られる手の力が強くなる。

 彼女の目が薄っすらと開き、涙の溜まった目で何かを訴えようとしていた。

 

 「……っ、手……っ……」


 「あぁ。……ここに居る」

 

 掴むように持っていた手を、そっと下から握りなおす。

 自分の手に、彼女の手の熱が伝わる。


 セレンは、生きている温度を確かめるように、ナナセの手を離さなかった。


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