寝て起きて
——
ナナセは夢を見ていた。
毎日のように注射器で薬を打たれ、変色した腕。
配られた食べ物を食べれば気持ちが悪くなり、吐き出したいのにえずく力が出ない。
食べたくないのに、身体が勝手に食べ物を胃の中へ入れる。
袋の先端を破くように羽の先が破られて、その先の瓶の中に黄金色の液体が流れていく。
量が減れば、殴られ、暴言を吐かれ、薬を打たれた。
「……もうやめて、離して!」
引きずられながら叫ぶ声。
「従います。背きません。何でも仰ってください。従います……」
憑りつかれたように繰り返す声。
同じ空間にいた他の妖精たちのそんな声が聞こえていたはずだが、いつの間にか一人になっていた。
自分だけの部屋に、足音。瓶同士がカラカラとぶつかる音。
また、1日が始まる。
針に刺されるようなチクチクとした小さな痛みで目が覚めた。
——
目を開けると、そこはあの暗い空間ではなく、窓のある静かな部屋だった。
温かい、清潔なベッドの上。
キサという人が、自分の身体から延びる管に触れながら、話しかけてくる。
今までの人とは違う、穏やかな声。
どうやら、自分は今、この人に助けられているらしい。
そういえば、最後の記憶は檻の中だったような。
あの時も、誰かが檻から出してくれたっけ、この人だったんだろうか。
そう考えているうちに、ナナセはどんどん眠くなる。
キサの言うように、だんだん意識が遠のいていく。
羽の痛みや身体中の痛みが引いていくのを感じ、残ったのは温かくて柔らかいベッドの感触。
こんなに静かな中眠るのはいつぶりだろう。
久しぶりに声を出したな。名前を久しぶりに呼ばれたな。
そんなことを考えながら、眠りについた。
——
キサが部屋から出ると、廊下にセレンが立っていた。
ここ3日間、1日に何回か、こうして部屋の前まで来ては、キサに容体を聞いていた。
セレンが部屋に入ることはなかった。
自分の目で見るまでは、自分の罪も確定していないとでもいうような。
現状の保留、そんな様子だった。
「目、覚めたのか」
「うん。気付いてたんだ。今は薬でまた寝てる。中に入ったら良かったのに」
「……」
セレンはしばらく考えていたが、結局部屋に入ることはなく、また来る、と言って去っていった。
渡り廊下を抜ける彼の衣服を、強くなった雨が風に乗り、濡らし始める。
「ナナセ、っていうらしいよ。彼女」
「……そうか」
キサがセレンの背中に向けてそう言うと、セレンは足を止めて少し振り返り、短く返事をしたあと再び歩き出した。




