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月桂樹の下で  作者: 飴目
第2章

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11/32

夜明け前の庭

 ——

 

 「……後は任せて、セレンも今日は休め。何かあったらまた連絡する」

 キサにそう言われると、ちらりと診察台の上の彼女に目線を戻したあと、セレンは医療室を後にした。

 自分に出来ることはもう何もない、そう判断したようだった。

 

 医療室を出ると、外でアスレイがセレンを待っていた。

 

 「お前がそんな顔をするのは珍しいな」

 

 セレンの顔をみて、優しく笑っていた。

 渡り廊下を二人で歩く。

 

 廊下からはギルドハウスの中心にある庭園が見えていて、もうすぐ夜が終わろうとしていた。

 

 「……軽くて。……小さかった」


 歩きながら、セレンが言葉を探すようにぽつりとつぶやいた。

 アスレイは、じっと考え込む彼の顔から白んで見える庭園の花々に目を移した。

 

 「なるようにしかならない、というのはお前が一番よく知っていることだろうが、彼女に救われ、彼女を救いあげた」

 「この世界での、お前の一粒の変化だ。それをどう捉えて生きるかはお前次第さ」


 「……あぁ」


 そう返事をすると、セレンも庭園へ目を向けた。

 庭園の中心にある噴水の音が静かに流れていた。


 ——


 セレンは自室へ戻ろうと思ったが、眠れる気もしなかったため、アスレイとは別れ、ダイニングバーへ行くことにした。


 庭園を囲むように続く渡り廊下を少し引き返し、間を抜けて庭園を横切るように歩く。

 手に持っている彼女に被せていた上着が、花の上をかすめて花びらを散らした。


 

 【ムーンバレル】と書かれた小さな看板を抜け、店に入る。

 

 この時間の店内にはバーカウンターに一人、マスターが作業をしているだけだった。

 セレンはカウンターの一番端の席へいつものように腰かけた。


 「おや、今帰ってきたの?あいつに連れ回されて大変だねぇ」


 「しばらく前に戻っていた。……ルナ、酒を頼む」


 カウンターの奥からセレンに話しかけている男、ルナ。

 ルナはアスレイと同い年くらいの魔法使いだ。

 

 ギルドハウスに併設されているダイニングバー・ムーンバレルの経営を任されている。

 彼の魔法により彩られた店内は、落ち着いた雰囲気の空間になっている。

 アスレイとはアルカが結成される前からの知り合いらしく、ギルド内で彼のことを唯一「あいつ」と呼ぶ存在だ。

 気さくで打ち解けやすい彼のいる店は、アルカの憩いの場として親しまれている。

 

 「なんだか浮かない顔だね。ハードな任務だったの?」

 そう言いながらルナは果実酒を差し出した。


 「いや……」


 続く言葉はない。店の大きな窓から見える庭園を静かに見つめていた。

 

 ルナはその様子を静かに見守るだけだった。

 特に何かを話しかけるわけではない。そこに居るだけ。

 

 しかし、セレンは不思議と落ち着いた。

 いつものムーンバレル。やっと帰ってきた、という感じがした。

 

 静寂の中。店内にはルナの作業する音だけが聞こえている。

 セレンは、果実酒を口にする。

 

 半年程かかってようやく彼女を見つけることが出来た安堵。

 今にも消えそうな彼女の姿をみて落ち着かない心。


 セレンの2つの感情を包み込むように、甘酸っぱい味が口の中に広がっていた。


 窓の外は徐々に明るくなっていて、花たちが朝を迎える準備をしていた。

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