抜け殻のきらめき
——
深夜。辺りは静まり返っていた。
セレンたちは、 ギルド・アルカの居住区である、ギルドハウスへと帰還した。
ギルドハウスへ戻るころには、ナナセはぐったりと意識がなくなっていた。
ナナセの季節外れに冷えた身体が、外の湿度を寄せつけてか、しっとりとしている。
生きていると確信めいていた光が、小さくなっているのを感じる。
「セレン、お前はそのまま彼女を医療室へ運べ」
アスレイは、視察のため身に着けていた武器や装身具をセレンから外しながらそう急かした。
セレンはナナセを抱いたまま医療室へと急ぐ。
腕の中で、脱力して後ろにのけぞった彼女の首が、振動でグラグラと揺れている。
閑散としていたギルドハウス内に響き渡る騒々しい足音が、ロビーを抜けて医療室へと続いた。
彼らが通った道に残る、薄く透明な羽の欠片が風に舞っては瞬いて、消えていった。
——
「……キサ!急患だ」
少し若い風貌の男が、セレンの呼び声に少し驚いた様子で医療室から顔を覗かせた。
アルカ所属・医療班、キサ。
灰色がかった髪色に、グリーンの瞳をした若い魔導士だ。
医療班の中心人物で、ギルドハウス内では薬師服姿でカルテや本を片手に歩いている姿が散見される。
その若さでありながら、研究熱心で誠実な性格からアスレイやギルドメンバーから絶大な信頼を置かれている。
キサは、セレンの抱く、力なくうなだれているナナセを見て、目を見開き少し焦りながら診察台へと通す。
セレンに事情を聞くよりも先に、診察台で横たわる彼女を診断し始めた。
「妖精族か。……魔力が弱いな。セレン、この子をどこで見つけたんだ?」
「闇市」
「……そう。いつから意識がない?」
「帰還する少し前だ。売り場で檻から出したときは一度目を開けた」
「……そうか」
キサが少し離れたところで彼女を見つめるセレンにいくつか質問すると、少し考えた後他の医療班に指示を出し始めた。
「とりあえず、緊急処置として解毒剤と解呪剤を入れてみる。とにかく魔力を回復させて目を覚まさせないと」
医療室内が忙しなく動き出し、数本の管がナナセへと繋がれて、透明な液体や色の着いた液体たちが彼女に投与されていく。
彼らに仕えているのだろう回復妖精たちが飛び回っている。
「…………」
セレンは診察台の上で管だらけになった無機質な彼女の姿に動揺していた。
木漏れ日に反射する彼女の髪、黄金色の暖かな光の残像が、無情にも思い出に変わっていく。
じっと見つめている彼の瞳がわずかに揺れる。
不安や緊張……自分の中の感情に、少し戸惑っているようにも見えた。
「おいセレン、大丈夫?」
ナナセのバイタルを記録していたキサが気付いて声をかける。
「……。……あの妖精は……、あの妖精も、死ぬのか?」
「正直、助かるかは五分五分だね。彼女の身体中の異物を抜いて、魔力の生成機能が生きていればって所かな」
キサは優しい声色で、しかし淡々と、今ある状況をセレンに説明した。
聞いてみたところで答えはすでに彼の中あったのだろう、取り乱す様子もなく静かに言葉を受け取った。




