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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第9話 一人では戦線を覆せない

防衛区の休養区画は、名前ほど穏やかな場所ではなかった。


 地下施設の一角を簡易パーティションで区切り、ベッド代わりの簡易寝台を並べただけの空間。

 消灯時間も何もなく、遠くでは発電機の低い唸りが絶えず響き、時折、地上の砲声がコンクリート越しに鈍く落ちてくる。人が休むための場所というより、“倒れないために横になる場所”に近い。


 天城恒一は、その一番端の寝台に腰を下ろした。


 体が重い。


 魔王と戦い、異世界から帰還し、十年後の東京でAIロボットと連戦し、防衛線で高位魔法まで叩き込んだ。さすがに疲労は隠しきれない。脇腹の古傷も、肩の浅い裂傷もじわじわと熱を持っていた。


 だが、眠気の割に心はやけに冴えていた。


「寝ろって言われてもな……」


 小さく呟き、寝台へ仰向けになる。


 視界に入るのは、むき出しのコンクリート天井と配管。

 異世界の宿屋なら木の梁が見えたし、王都の天幕なら夜空が見えた。ここには何もない。なのに妙に現実的で、逆に落ち着かない。


 家の焼け跡が脳裏を過る。


 焦げた皿。

 崩れたアルバム。

 ひしゃげた自転車。

 そして門柱の裏に残っていた、避難誘導の印。


 三人。北西方向。避難確認。


 あれが希望だと頭では分かる。

 だが希望は、持った瞬間に不安も一緒に連れてくる。生きているかもしれない。けれど、会えるとは限らない。途中で何があったのかも分からない。


 目を閉じる。


 すると今度は、異世界の仲間たちの顔が浮かぶ。


 別れの時のセレフィア。

 最後まで理屈っぽかったリュミエル。

 匂いを覚えると言って抱きついてきたカレン。

 泣きながら聖印を渡してくれたミレーネ。

 意地を張りながらも寂しさを隠せなかったノクス。


 会いたい。

 その気持ちは、帰還直後からずっと胸のどこかに刺さっている。


 そして今は、そこへ別の現実が重なっていた。


 一人では足りない。


 榊原玲奈に言われた時、否定できなかった。

 今日だけでも嫌というほど分かったのだ。自分は前線を救える。敵の中枢を焼ける。戦局をひっくり返す一手になれる。

 だが、それはあくまで“一箇所”での話だ。


 日本中の防衛区を一人で回れるか。

 家族を探しながら、同時に敵AIの拠点を叩けるか。

 この地下施設にいる全員を守りながら、別の街の戦線まで支えられるか。


 無理だ。


 どれだけ強くても、賢者一人にできることには限界がある。

 異世界でそれを乗り越えられたのは、自分の隣に最強の仲間たちがいたからだ。


「……呼べるのか、ほんとに」


 無意識に漏れた声は、小さく天井へ溶けた。


 召喚魔法。


 それ自体は珍しい術ではない。異世界でも、魔獣や精霊を一時的に呼び出す術師はいた。

 だが、世界をまたぐ召喚となると話は別だ。


 必要なのは、まず座標。

 こちらと向こうを繋ぐ“確かな目印”が要る。

 次に媒介。術を通すための共鳴素材。

 そして膨大な魔力。

 さらに重要なのが、呼ぶ相手との結びつきだ。


 幸い、最後の条件だけなら十分すぎるほどある。


 セレフィアたちとは、十年かけて命を預け合ってきた。

 魔力の相性も、癖も、呼吸も、互いに知り尽くしている。リュミエルの共鳴結晶まで手元にある。ミレーネの聖印もある。

 問題は、こっちの世界側の土台があまりにも足りないことだ。


「寝てる?」


 小声がして、恒一は目を開けた。


 寝台の脇に、雫が立っていた。

 さっきまでの汚れたジャケット姿ではなく、防衛区から借りたらしい簡素な作業服に着替えている。髪は雑にまとめ直され、目の下に薄く疲れはあるが、少しだけ顔色が戻っていた。


「寝てない」

「やっぱり」

「お前こそ寝ろよ」

「寝たよ。少しだけ」


 雫はパイプ椅子を引っ張ってきて、無遠慮に恒一の寝台の横へ座った。


「何だよ」

「ちょっと気になって」

「何が」

「さっきの顔」


 雫は膝に肘をつき、じっと恒一を見る。


「榊原博士に“一人じゃ足りない”って言われた時。天城さん、すぐ否定しなかったでしょ」

「否定できないからな」

「それだけ?」

「……」


 誤魔化そうとして、やめた。

 この少女は思ったより人の表情を見る。たぶん十年の終末世界で、言葉より先に顔色や空気を読む癖がついたのだろう。


「異世界に仲間がいる」

 恒一はゆっくり言った。

「かなり強い」

「どのくらい」

「一人ひとりが戦場を変えられるくらい」

「……すご」


 雫は素直に感嘆した。


「さすが異世界」

「雑な納得だな」

「だって天城さん見た後だと、そういう人たちがいてもおかしくないかなって」

「それは褒めてるのか?」

「半分くらい」


 少しだけ、空気が和らぐ。


 雫はそのまま続けた。


「呼びたいんでしょ、その人たち」

「……ああ」

「会いたいから?」

「それもある」

「それも?」


 恒一は寝台の上で片腕を目に乗せた。

 こういうことを口にするのは、妙に気恥ずかしい。


「必要なんだよ」

 低く言う。

「この世界を立て直すのに。戦線を支えるのに。家族を探すのに。全部やるには、一人じゃ足りない」

「……」

「異世界では、一人で勝ったことなんてほとんどない。セレフィアが前に出て、リュミエルが後ろで場を組み、カレンが影から崩して、ミレーネが全体を繋いで、ノクスが嫌なところを全部刺してた。だから俺は賢者でいられた」

「ノクスって女の人の役割、言い方ひどくない?」

「褒めてるんだ」

「へえ……」


 雫は少しだけ口元を緩めたあと、ふっと真顔になった。


「天城さんってさ」

「何だ」

「一人で全部背負うタイプかと思ってた」

「背負う気はある」

「そういうとこがもう危ないんだって」

 雫は呆れたように言う。

「でも今の話聞いて、ちょっと安心した」

「安心?」

「ちゃんと“必要だから助けてほしい”って思えるんだなって」


 その言葉に、恒一はしばらく黙った。


 異世界でも、自分は何度も一人で背負おうとして、そのたびに仲間たちに殴られたり、怒られたり、引き戻されたりした。

 今回も、多分同じことだ。

 自分は日本へ帰りたかった。帰ってきたら、今度は日本を救わなければと思った。家族も探したい。守れるものは全部守りたい。

 だが、そう思えば思うほど、一人では無理だと痛感する。


「助けてほしいっていうより……」

 恒一はぽつりと言った。

「一緒に戦ってほしい、かな」

「それ、だいぶ違う?」

「俺の中では違う」

「ふーん」


 雫は少し考えるように唇を尖らせる。


「じゃあ、その人たち呼べたら、たぶん最強なんだ」

「まあな」

「ハーレム?」

「……」

「ハーレムなんだ」

「言い方」

「否定しないんだ」

「今そこ重要か?」

「ちょっと重要」


 何だそれは、と言いかけてやめる。

 雫は半分からかっているが、半分は本気で相関図を気にしている顔だった。


「とにかく」

 恒一は咳払いする。

「呼べるなら呼ぶ。けど成功率は高くない」

「どうして」

「世界が違う。座標が安定しない。術を通す媒介も足りない。魔力もこっちだと薄い」

「でもゼロじゃない」

「……ああ」

「じゃあやるしかないじゃん」


 あっさり言われて、恒一は少し拍子抜けした。


「そんな簡単に言うな」

「簡単には言ってないよ」


 雫は椅子の上で膝を抱えた。


「でも、この世界ってそういうとこあるから。無理そうでも、やるしかないならやるしかない。たぶん今までだって、みんなそうしてきたんだと思う」

「……」

「正直、異世界から仲間呼ぶとか頭おかしい話だと思うよ。普通なら」

「普通ならな」

「でも、普通にやって勝ててないから、今こうなってるんでしょ」


 その一言は、妙に鋭かった。


 普通に戦って、押されている。

 通常火器では止めきれない。防衛線は持ちこたえているが、余裕はない。10式戦車ですら焼かれる。

 なら、普通ではない一手を打つしかない。


「雫」

「ん」

「お前、結構容赦ないな」

「終末世界育ちだから」

「十年前までは普通の高校生だったんだろ」

「そうだけど、そのあとの十年が濃すぎるの」


 少し寂しそうに笑ってから、雫は椅子から立ち上がった。


「まあ、そういうことなら応援する」

「応援?」

「召喚」

「軽いな」

「軽くしてるの。重く考えると怖いから」


 それは、玲奈が言っていたのと似た言葉だった。

 この世界の人間はみんな、そうやってぎりぎりの現実をやり過ごしているのかもしれない。


「じゃ、私は行く」

「どこに」

「補給の手伝い。今日みたいな波の後は忙しいから」

「少しは休め」

「天城さんもね」

 雫はくるりと背を向け、二歩進んでから振り返った。

「……その人たち、呼べたら紹介してよ」

「何で」

「そりゃ気になるでしょ。異世界最強パーティー」

「観光地じゃないんだぞ」

「でも、ちょっと楽しみ」

「おい」

「冗談半分」


 そう言って彼女は出ていった。


 静かになる。


 恒一はしばらくそのまま寝台に横たわっていたが、結局じっとしていられず起き上がった。


「……三時間、だったか」


 玲奈が言っていた時間まで、まだ少しある。

 だが眠るより、頭の中を整理した方がいい気がした。


 恒一はベッド脇の小さな荷物から、異世界から持ち帰った品を取り出す。


 まず、リュミエルの共鳴結晶。

 青く透き通る欠片は、地下照明の白さの中でも微かに内部から光を宿している。


 次に、ミレーネの聖印。

 銀の小さな飾りだが、今も穏やかな温かさが残っていた。


 そして、自分の魔力痕。


 異世界では高位召喚を組む時、相手との繋がりを示す“縁”を術式へ組み込んだ。血でも、品でも、契約でもいい。強いものほど成功率は上がる。


 セレフィアたちと自分の間には、それがいくつもある。

 共鳴結晶。聖印。過去の共同戦闘で刻み込んだ魔力位相。

 問題は、“向こうへ届く扉”を開けられるかどうかだ。


「天城」


 声がして顔を上げると、木村三曹が入口に立っていた。


「……休憩じゃなかったんですか」

「真田一佐が呼んでる。あと榊原博士も」

「まだ三時間経ってない」

「あの人に時間感覚を期待するな」


 やっぱりか、と思いながら恒一は立ち上がる。


「何か進展でも?」

「進展というか、あんたに見てほしいもんがあるらしい」


 木村三曹は歩きながら続けた。


「さっきの戦闘で回収した大型機の残骸から、新しい反応が出たそうだ。あと、あんたの魔法使用後のデータを見て、一佐も考えがまとまったっぽい」

「嫌な予感しかしない」

「安心しろ。こっちもだ」


 技術分析区画へ戻ると、玲奈はすでに新しい残骸を解体台へ乗せていた。

 さっきよりさらに目が冴えている。寝ていない人間特有の危うい集中力だ。


 真田一佐も腕を組んで待っていた。


「来たか、天城」

「呼ばれました」

「結論から言う」

 一佐は回りくどさなく言った。

「貴様を“単独戦略兵器”のように運用する案は却下だ」

「……随分物騒な言い方ですね」

「物騒な状況だからだ」


 真田一佐の声は静かだった。


「今日の戦闘で分かった。貴様は確かに強い。だが高位魔法の後は明らかに消耗していた。複数戦線の連続投入は現実的ではない」

「同感です」

「加えて、敵はすでに魔法への模倣学習を始めている可能性がある。ならば、今の優位を最大限活かすには“数”が要る」

「……」

「つまり」

 一佐はまっすぐ恒一を見た。

「異世界の仲間を呼べるなら、それが最優先だ」


 はっきり言葉にされると、重みが増す。


 これはもう、感傷ではない。

 自分が寂しいから会いたいとか、絆を確かめたいとか、そういう話ではなくなった。


 軍事的な必要。

 戦略的な要請。

 この世界が生き残るための、現実的な判断。


 玲奈が待ってましたとばかりに口を挟む。


「で、問題は方法」

「ですよね」

「あなたがさっき話した召喚術式、ざっくりでいいから構造を教えて」

「ざっくりでいいなら……座標固定、縁の媒介、魔力供給、呼び出し先の明確化、拒絶反応の抑制」

「長い」

「ざっくりですよ」

「分かった。つまり必要なのは“向こうを指し示す針”と“その針を通す穴”と“回すエネルギー”ね」

「乱暴ですけど大体合ってます」

「じゃあ穴はこっちで開ける」


 玲奈は敵コア由来の未知結晶をケースごと持ち上げた。


「これを使う」

「……大丈夫なんですか、それ」

「大丈夫じゃない。でも使える可能性がある」

「最悪ですね」

「最高でしょ。こういうのは」


 価値観がだいぶ危険だ。


 玲奈は机の上へ、共鳴結晶と未知結晶を並べた。

 青い異世界結晶と、赤黒い敵コア断片。

 並べるだけで空気がざわつく。相性が悪いのか、良すぎるのか、どちらにせよ穏やかではない。


「見て」

 玲奈が顎で示す。


 恒一がそっと手を近づけると、青い結晶が微かに光り、赤黒い断片も鈍く明滅した。

 完全な共鳴ではない。だが、互いを無視できない程度には繋がりがある。


「敵AIのコアに混ざってる未知要素」

 玲奈が言う。

「あなたの異世界魔力に反応する共鳴結晶」

「……この二つを媒介にして、座標を探る?」

「そう」

「危険すぎません?」

「危険だから面白い」

「今、面白さでやってる場合じゃないでしょう」

「分かってるわよ。でも可能性がある以上、検討しない理由はない」


 真田一佐が低く言う。


「成功率は」

「現時点では計算不能」

 玲奈は平然と答える。

「でも、ゼロじゃない。むしろこの材料が揃った今が一番近い」

「失敗した場合の最悪は」

「座標がズレて、異世界じゃなく別位相に繋がる可能性」

「別位相?」

 木村三曹が顔をしかめる。

「分かりやすく言え」

「敵側の深層ネットワークとか、向こうともこっちとも違う“途中の裂け目”とか」

「分かりやすくなってねえよ!」

「要するに危ないってこと」


 玲奈はさらっとまとめた。


 恒一は額を押さえた。


 やはり大召喚だ。

 簡単に成功するはずがない。むしろ、これでも条件が足りていないくらいだ。


「一人目だけに絞るか」

 恒一が呟く。

「複数同時は無理だ」

「誰を呼ぶ?」

 真田一佐が問う。


 その質問に、恒一は少しだけ考えた。


 セレフィアなら前線維持に強い。

 リュミエルなら理論面でも戦場制圧でも頼れる。

 カレンは潜入と索敵。

 ミレーネは回復と結界。

 ノクスは敵指揮系統への呪術干渉に向く。


 だが、最初の一人となれば話は別だ。

 今のこの防衛区に必要なのは、まず“分かりやすく戦線を支えられる強さ”と、“異世界側の事情を冷静に把握できる頭”と、“自分との信頼が揺るがない相手”。


「……セレフィアか」

 自然に名前が出た。


「その人?」

 玲奈が食いつく。

「聖剣姫。前衛。正面戦闘なら俺たちの中でも一、二を争う」

「正面戦闘、いいわね」

「それだけじゃない。判断も早い。どんな状況でもまず味方を立て直そうとする」

「じゃあ最初の召喚候補はその聖剣姫さんで決まり?」

「多分な」


 雫がいつの間にか扉のところに立っていて、小さく手を挙げた。


「その人、正妻感すごそう」

「いつからいた」

「途中から」

「盗み聞きかよ」

「防衛区、壁薄いから」


 それはそれで困る。


 だが雫は真面目な顔に戻る。


「でも、天城さんが一番信頼してるなら、その人なんじゃない」

「……」

「最初の一人って大事でしょ。呼べても、状況説明だけで揉めたら意味ないし」


 確かにその通りだった。


 異世界の仲間を、焼けた東京とAI戦争の真っ只中へ呼ぶ。

 それだけでも頭がおかしい。

 だからこそ、最初の一人は絶対に“揺れない相手”でなければならない。


「よし」

 玲奈が手を叩いた。

「方針は決まった。最初の召喚対象は聖剣姫セレフィア。必要なのは座標固定、媒介強化、魔力供給、術式設計」

「そんな簡単に区切るなあ……」

 木村三曹がぼやく。

「こっちは毎回、お前の“簡単”で胃が痛くなる」

「胃痛は生きてる証拠」


 玲奈は本気でそう思っていそうだった。


 真田一佐が言う。


「場所は?」

「大規模術式を回せるだけの空間が必要」

 恒一が答える。

「できれば地上と地下の中間。完全閉鎖だと魔力が重いし、外だと妨害を受けやすい」

「旧搬入口区画なら使える」

 木村三曹が即答する。

「今は半分死んでるが、広さだけはある」

「そこに結界と防衛班を置く」

 真田一佐が続ける。

「召喚中に敵が来ても、術者を守れるようにする」

「そんな大事になるのか」

 雫が少し引き気味に言う。

「大事よ」

 玲奈は真顔だった。

「もし成功したら、今日までの前提が全部ひっくり返るんだから」


 その言葉に、室内が一瞬だけ静まる。


 そうだ。

 これは単なる再会ではない。

 異世界最強パーティーの一角が、この終末日本へ降り立つかもしれないのだ。


 戦況も、人の希望も、敵AIの学習速度すら、全部変わる可能性がある。


 恒一は机の上の青い共鳴結晶を見つめた。


 リュミエルの結晶。

 最後に渡された、世界が違っても繋がるかもしれないと言っていた欠片。


 それをそっと握る。


「やるなら早い方がいい」

 恒一が言った。

「敵が魔法への対策を進める前に」

「同意見」

 玲奈が頷く。

「準備に最低でも半日は欲しい。でも今日中に骨格までは作る」

「そんなに急ぐの?」

 雫が聞く。

「急ぐ」

 真田一佐が答えた。

「今日の波で、敵は天城恒一を“高脅威個体”として認識したはずだ。次はもっと対策した形で来る」

「だから、その前にこちらが戦力を増やす」

 木村三曹がまとめる。

「そういうことだな」


 恒一はゆっくり頷いた。


 一人では戦線を覆せない。

 それは痛いほど分かった。


 だから呼ぶ。

 必要だから。会いたいから。隣にいてほしいから。

 その全部を認めた上で、次の一手を打つ。


「……セレフィア」

 小さく名前を口にすると、不思議と胸が落ち着いた。


 彼女なら来る。

 来られるなら、きっと来る。

 そう思えるだけの時間を、確かに共に生きてきた。


「じゃあ」

 玲奈が端末を抱え直す。

「まずは召喚陣の設計から始めましょうか、異世界帰りの賢者様」

「休ませる気、本当にないんですね」

「あるわよ。作業しながら座ってていいから」

「それ休みじゃない」

「大丈夫、慣れる」

「慣れたくないな……」


 ぼやきながらも、恒一は机へ歩み寄った。


 青い結晶。

 赤黒い断片。

 白い紙代わりの投影ボード。

 そこへ、異世界と現代日本を繋ぐための術式が描かれていく。


 十年遅れで帰ってきた日本。

 滅びかけた人類。

 学習するAIロボット。

 そして、まだ手の届かない異世界の仲間たち。


 すべてを繋ぐ第一歩が、今まさに形を取り始めていた。

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