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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第37話 帰還者へ向けられた声

 新宿外縁線へ戻るまでの道中、誰もほとんど喋らなかった。


 高層廃墟を離れ、中心部の圧迫感が少しずつ薄れても、胸の奥に残る嫌な重さは抜けない。

 あの地下深部から響いた機械音声が、耳の奥へまだ貼りついていたからだ。


 帰還個体、確認。


 ただのノイズではない。

 ただの自動警告でもない。

 明確に意味を持った発話だった。


 敵中枢は、こちらを見ている。

 しかも“異世界戦力の一人”としてではなく、“帰還した者”として。


 その事実が、一行の歩調をわずかに重くしていた。


 それでも帰らなければならない。

 生きて持ち帰ることこそが、今日の偵察の本当の意味だからだ。


 雫が先導し、木村三曹が後方確認を続け、リュミエルが何度も小さな索敵術を飛ばす。

 セレフィアは恒一のすぐ右を離れず、ただ一度も「大丈夫ですか」とは言わなかった。


 その代わり、必要な時にだけ短く声をかける。


「段差」

「ああ」

「右上、高所観測」

「見えてる」

「呼吸が浅いです」

「……分かってる」


 その言葉が、逆にありがたかった。

 気遣いの形をしていながら、甘やかしではない。

 今は沈むより、頭を回すべき時だと分かっているからこその距離感だった。


 防衛区へ戻った時、地下搬入口で待っていた真田一佐の顔を見て、恒一はようやく少しだけ現実へ戻った気がした。


「戻りました」

 木村三曹が先に言う。

「損耗軽微。だが情報は重い」

「顔を見れば分かる」

 一佐は短く返した。

「中へ」


 地下防衛区の会議区画に、また同じ面子が集まる。


 恒一。

 セレフィア。

 リュミエル。

 玲奈。

 真田一佐。

 木村三曹。

 雫。


 藤堂も今回は壁際にいた。肩はまだ本調子ではないが、偵察の帰還報告くらいは聞かせろと食い下がったらしい。


 机へ中心部の簡易地図が広げられ、回収した観測特化個体の記録ユニットと、玲奈の解析端末がその横に置かれる。

 防衛区の蛍光灯は相変わらず白く冷たく、机の上の紙だけがやけにくっきり見えた。


「報告を」

 真田一佐が言う。


 木村三曹がまず全体の流れを手短に説明した。


 中心部高層エリア外縁までのルート。

 観測特化個体の視認。

 壁面張り付き型、複眼型の確認。

 記録ユニットの回収。

 地下深部へ続く大型搬送路の発見。

 強い境界汚染。

 そして。


「地下深部から、音声反応」

 木村三曹がそこで一瞬だけ言葉を切った。

「内容は、“帰還個体、確認”」


 会議区画が静まり返る。


 藤堂が壁際で、低く「は?」と漏らした。

 玲奈は端末へ落としていた視線をゆっくり上げ、真田一佐は一度だけ目を閉じた。

 雫はもう一度思い出したように腕をさすり、セレフィアは無言のまま恒一の方へ少しだけ体を向ける。


「聞き間違いの可能性は」

 真田一佐が問う。

「低い」

 今度は恒一が答えた。

「全員が聞いてる。しかも文脈としても自然だった」

「自然、か」

 一佐が低く繰り返す。

「敵中枢が、お前を“帰還者”として認識している文脈ならな」

「はい」


 玲奈がすぐに観測ユニットへ手を伸ばす。


「そのユニット、今すぐ見る」

「見る前に言っとくけど」

 木村三曹が言う。

「今日はお前も大概寝てないぞ」

「知ってる」

 玲奈は即答した。

「でもこれは寝てから見る類のものじゃない」

「だろうな……」


 リュミエルが、その横で淡々と補足した。


「観測個体の記録層に、帰還個体ラベルがあった」

「やっぱりか」

 玲奈の目が鋭くなる。

「しかも優先度は高い」

「つまり、敵は天城恒一を“偶発的な異常戦力”ではなく、“前提に含めるべき帰還現象”として見てる可能性が高い」

 彼女は自分で言いながら、端末へ走査結果を出し始める。

「……最悪」


 藤堂が低く唸った。


「じゃあ何だ」

「敵は最初から、天城が帰ってくる可能性を考えてたってことか?」

「そこまではまだ言えない」

 恒一が首を振る。

「でも、“帰ってきた後に重要な観測対象になった”は確実に近い」

「そして、あの地下深部がその認識を持っている」

 リュミエルが言う。

「なら、敵の心臓は少なくとも“コーイチの帰還”を知らないままではいない」


 話が一段、深くなる。


 今までは、敵中枢の有無。

 東京中心部の地下深部。

 異世界由来の境界痕。

 そのあたりが主題だった。


 だがここで、“主人公自身が敵側の関心の中心に近いかもしれない”という要素が前面へ出てきた。

 それは戦略上も重大だが、同時に個人としてはかなり嫌な事実でもある。


 雫が慎重に言った。


「天城さん」

「ん?」

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないな」

 恒一は正直に答えた。

「だろうね」

「でも、潰れてる場合じゃない」

「うん」


 そのやり取りに、セレフィアが小さく頷く。

 リュミエルは何も言わなかったが、否定もしなかった。


 玲奈の端末が短く鳴った。


「出た」

「何が」

 木村三曹が聞く。


 玲奈はモニターを会議卓の中央へ向ける。


「観測ユニットの外部記録層、簡易復元」

 画面には乱れた識別コードが並んでいる。

 その中に、いくつか意味のありそうな分類が浮かんでいた。


 帰還個体

 異世界干渉体

 優先観測対象

 そして、さらにその下。


「これ」

 玲奈が指差す。

「地下搬送経路への重点監視フラグ」

「やっぱり地下か」

 真田一佐が低く言う。

「ええ」

 リュミエルが頷いた。

「高層エリア地上は、あくまで外殻。中心はもっと下」

「しかもその下で、敵は帰還個体を待ってるかもしれない」

 玲奈が言う。

「そうなるわね」


 会議区画に重い沈黙が落ちる。


 恒一は、机の上のコード列を見ていた。


 帰還個体。

 その文字が、自分の名前よりも重く感じる。

 ただ“天城恒一”ではない。

 敵にとっての自分は、“帰ってきた何か”なのだ。


 異世界転移は偶然だったのか。

 帰還は偶発だったのか。

 それとも、何かもっと大きな流れの中に自分はいたのか。


 分からない。

 分からないが、中心部の地下深部がその答えに近いことだけはもう疑えなかった。


「……だったら」

 恒一が静かに言う。

「次は、あそこへ降りる準備をするしかないな」

「その前に」

 リュミエルがすぐに返す。

「今のままじゃまだ足りない」

「分かってる」

「足りないのは火力じゃない」

「回復と結界」

 セレフィアが言う。

「ええ」

 リュミエルは頷いた。

「中心部地下に入るなら、私とセレフィアだけじゃ戦場の質を支えきれない。境界汚染も強い。兵も消耗してる」

「ミレーネか」

 木村三曹が言う。

「そう」

 玲奈が言葉を継いだ。

「第四章の軸、固まったわね」

「言い方」

 雫が半眼になる。

「でも合ってるでしょ」

「合ってるのが嫌なんだよなあ……」


 真田一佐は、ここで初めてはっきり決断を口にした。


「よし」

 一佐の声が区画の空気を締める。

「偵察結果は十分だ。今後の優先事項を切り替える」

「何に」

 恒一が聞く。

「第一に、防衛区の再編」

 一佐が言う。

「中心部偵察で得たデータを前線へ反映する。観測特化個体への対処、地下搬送路警戒、観測ドローンの見方、全部だ」

「はい」

「第二に、第三召喚の準備」

 その言葉で、全員の意識が揃う。

「ミレーネ召喚を前提に、必要素材と術式の再構成へ入る」

「了解」

 玲奈が即答する。

「第三に」

 真田一佐は恒一を見る。

「中心部地下攻略の叩き台を作る」


 それはつまり、“敵の心臓を本気で取りに行く段階”へ物語が進んだということだった。


 木村三曹が息を吐く。


「休む暇ねえな」

「終末戦争だから」

 玲奈が言う。

「その言い方、ほんとに便利だなお前」

「事実だもの」

「事実だけど」


 雫が少しだけ真顔で訊いた。


「じゃあ、次は本当にミレーネさんを呼ぶ方向なんだ」

「そうなる」

 恒一が答える。

「今の戦力じゃ、あの地下を維持しながら進むのはきつい」

「ええ」

 セレフィアも頷く。

「回復、結界、浄化。彼女の力は不可欠です」

「しかも」

 リュミエルが言う。

「ミレーネが来れば、兵だけじゃなく防衛区そのものの“持ち”が変わる」

「つまり」

 雫が小さく言う。

「ここから先は、“もっと潜るための準備”になるんだね」

「そういうこと」

 玲奈が答えた。


 恒一は、机の上の地図へ視線を落とした。


 東京中心部。

 地下深部への入口。

 敵の心臓。

 そして、帰還個体という言葉。


 もう後戻りはない。

 だが焦って飛び込むのも違う。

 今必要なのは、足りないものを揃え、戦場を支える力を増やし、それから降りることだ。


 その順番が、ようやく見え始めていた。


「……分かった」

 恒一が静かに言う。

「次は、ミレーネだ」

「ええ」

 リュミエルが頷く。

「その前に、こっちも本気で準備する」

「当然です」

 セレフィアも言う。

「コーイチを、あの地下へ今のままで降ろすつもりはありません」

「誰もそこは反対しないわ」

 玲奈が言った。

「だから、次は聖女召喚と攻略準備よ」


 その一言で、区画の空気が決まる。


 偵察は終わった。

 敵は帰還者を認識していた。

 中心部地下深部は、敵の心臓に極めて近い。

 そして今の戦力では、そこへ本格突入するには足りない。


 だから次は、聖女を呼ぶ。


 回復と結界と浄化を担う、異世界最強パーティーの支柱。

 ミレーネ。


 彼女を呼ぶことが、敵中枢攻略前夜の最重要課題になる。

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