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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第36話 地下深部へ続く道

 高層廃墟の裏手にある地下入口は、半ば街そのものに呑まれていた。


 もともとは大型施設の搬送用シャッターだったのだろう。

 地上側の看板は落ち、周囲の外壁はひび割れ、車止めのポールは根元から曲がっている。

 だが、そこだけ妙に“使われている”感じが残っていた。


 瓦礫が不自然に片側へ寄っている。

 床面の埃が一部だけ薄い。

 そして、何より。


「……痕が新しい」

 木村三曹がしゃがみ込み、コンクリート床へ指先を近づける。

「大型搬送の擦過痕。しかも一度や二度じゃない」

「こっちも」

 雫が少し離れた位置を指した。

「人が通った跡じゃないけど、何か細いのが何本も行き来してる」

「観測個体か補助搬送機」

 リュミエルが即答する。

「どっちにしても、ここは死んでないわね」


 恒一は、半開きになったシャッターの奥を見た。


 下り坂になっている。

 しかも、ただの地下駐車場や搬送路ではない。

 もっと深い。もっと長い。そういう“沈み方”をしている。


 向こうから吹いてくる空気はひどく冷たかった。

 温度だけじゃない。

 それは、中心部高層エリアに入ってから感じていた“気持ち悪さ”の濃い版だった。


 耳鳴り。

 薄い圧迫感。

 空気そのものが、ほんの少しだけ現実からずれている感じ。


「……地下深部」

 恒一が小さく呟く。


 セレフィアがその横に立つ。


「はい」

 彼女の金の瞳も、シャッターの奥を見ていた。

「ここから先、気配が濃いです」

「敵?」

 雫が聞く。

「敵だけではありません」

 セレフィアは慎重に言葉を選ぶ。

「もっと……場そのものです」

「分かる」

 リュミエルが頷く。

「機械の気配より、境界のゆがみの方が目立つ。嫌な意味でね」


 木村三曹は、迷彩手袋をはめたまま入口周辺をひと通り確認したあと、真田一佐がここにいないことを本気で残念そうな顔で言った。


「見せてやりたいな、この嫌な雰囲気」

「見せたら多分“今日はここまでだ、戻れ”って言うと思う」

 恒一が言う。

「それは間違いない」

「でも正しい」

 雫が言った。

「今の私たち、覗きに来てるだけだし」

「ええ」

 リュミエルも頷く。

「だから“覗いた証拠”だけ持って帰る」


 彼女はシャッターの縁に手をかざし、青紫の細い術式線を伸ばした。


 魔力糸は空気の流れをなぞるように地下へ沈んでいく。

 十メートル。

 二十メートル。

 三十メートル。


 そこで、急に糸がぶれた。


「っ」

 リュミエルの眉が寄る。

「どうした」

 恒一が聞く。

「層がある」

「層?」

「ええ。途中から空間の手触りが変わる」

 彼女は目を閉じたまま言う。

「こっちの地下設備の構造じゃない。もっと深いところに、別の“膜”みたいなものがある」

「膜……」

 雫が顔をしかめる。

「なんかもう嫌な予感しかしない」

「私も同意見」

 木村三曹が言う。

「分かりやすく言うと?」

「地下深部で、空間の理屈が一段変わってる」

 リュミエルは短く答えた。

「つまり、敵中枢があるとしたら、ただの地下施設じゃ済まない可能性が高い」

「境界干渉域ですか」

 セレフィアが静かに言う。

「そうね」

 リュミエルは頷いた。

「しかも薄くじゃない。“施設規模で安定してる”感じがある」

「それ、かなりまずくないか」

 恒一が言う。

「かなりまずい」

 彼女は即答した。

「でも、当たりでもある」


 その言葉に、一行はしばし黙った。


 つまりここは、ただの怪しい地下入口じゃない。

 敵が高位個体を出し入れし、異世界由来の境界痕が濃く残り、下へ行くほど“普通の世界から外れていく”場所。

 敵中枢候補としては、十分すぎるほど当たりだ。


「……見つけたな」

 恒一が低く言う。

「ええ」

 リュミエルが術式を切りながら答えた。

「少なくとも“敵の心臓へ続く血管”ではある」


 木村三曹が周囲を警戒しつつ、短く息を吐いた。


「ここまで来たなら、あと一歩だけ中を見たい気持ちはある」

「やめて」

 雫が即座に言う。

「その台詞、今一番聞きたくない」

「気持ちは分かる」

 恒一が言った。

「でも今日はここまでだ」

「珍しく理性あるな」

「嫌な言い方だな」

「事実だろ」

「まあな」


 その時だった。


 地下入口の奥、見えない暗がりのさらに深いところから、何かが響いた。


 音、というより振動。

 巨大な何かが、ずっと下でゆっくり動いているような。

 その余波だけが、シャッターの縁や床のコンクリートへ伝わってくる。


「……今の何」

 雫の声が少し震える。

「搬送」

 木村三曹が即座に答えた。

「しかもかなりでかい」

「ええ」

 リュミエルの声も少し低くなる。

「高位個体か、もっと別の何か」


 セレフィアは聖剣の柄へ手をかけたが、抜かなかった。


「コーイチ」

「分かってる」

「行きません」

「ああ」

「今日は見ただけで十分です」


 彼女のその確認には、少し強めの意思があった。


 もしここで何か起きれば、恒一が飛び込む可能性を本気で警戒しているのだろう。

 それは正しい。

 正しすぎるくらいに。


 だが次の瞬間、その場にいた全員の注意を奪う出来事が起きた。


 地下深部から、声がしたのだ。


 いや、正確には“声に似た機械音声”だった。


 ノイズ混じり。

 金属の擦れるような硬さ。

 だが、ただの警告音でも識別コードでもない。


 人間の言葉に、近い。


《――帰還個体、確認》


 短い一文だった。


 それだけで十分だった。


 空気が凍る。


 雫が息を呑む。

 木村三曹が反射的に銃を構える。

 セレフィアはついに剣を半ばまで抜き、リュミエルの指先には青紫の光が走る。


 恒一だけが、その場で完全に動けなくなった。


 今のは聞き間違いじゃない。

 ログ断片で見た“帰還個体”という分類。

 それを、地下深部の何かが、はっきり口にした。


「……っ」

 喉が詰まる。


 敵は、自分の帰還を知っている。

 いや、知っているどころじゃない。

 ここまで来ることすら、どこかで前提に置いていた可能性がある。


「退く!」

 木村三曹が怒鳴る。

「今すぐ戻るぞ!」

「同意」

 リュミエルが即答する。

「この段階で“声”まで返ってくるなら、ここは入口の時点で深すぎる」

「コーイチ!」

 セレフィアが呼ぶ。

「動いてください!」

「……ああ!」


 恒一はようやく我に返った。


 全員が即座に後退を始める。

 走るのではない。まずは音を立てず距離を取り、地下入口から完全に視線を切る。

 そのうえで、リュミエルが簡易遮蔽術を張り、木村三曹が後方へセンサーを投げる。


 雫が先導し、来た道を最短で戻る。

 高層廃墟の“眼”たちがまだこちらを見ている気配はある。だが、追撃はない。


 それがかえって不気味だった。


 まるで、敵の中心部は“今日はここまででいい”とでも言いたげに、彼らを見送っているようだったからだ。


 しばらく走って、ようやく高層エリアの外縁に近いビル陰まで戻った時、木村三曹がようやく息を吐いた。


「……最悪だ」

「ええ」

 リュミエルが言う。

「でも、収穫は大きい」

「大きすぎて胃が痛い」

 木村三曹が顔をしかめる。


 雫はまだ少し青い顔のままだった。


「今の……本当に、言ったよね」

「言った」

 恒一が答える。

「“帰還個体、確認”って」

「うん」

「つまり」

 雫が言葉を探す。

「敵の中心部は、天城さんが来ることを、知ってたかもしれない」

「その可能性がかなり高くなった」

 リュミエルが冷静に言う。

「少なくとも、あの都市の深部は“帰還者”という概念をもう持ってる」

「……」

「そして、それを発話する程度には、こちらへ向ける意識がある」


 セレフィアが、静かに恒一の横へ立った。


「コーイチ」

「大丈夫だ」

 反射で答えたが、自分でも声が少し硬いと分かった。

「いいえ」

 彼女はきっぱり言う。

「大丈夫ではありません」

「……」

「ですが、立て直せます」

「……ああ」

 恒一は息を吐いた。

「その通りだ」


 地下深部への道は見つけた。

 敵中枢へ繋がる可能性が極めて高い入口。

 境界汚染の濃い層。

 高位個体の搬送反応。

 そして、帰還個体を認識する機械音声。


 今日の偵察は、十分すぎるほどの成果だった。

 そして同時に、ここから先は今の戦力ではまだ踏み込みきれない、という事実もはっきりした。


「帰るぞ」

 恒一が言った。

「防衛区へ」

「ええ」

 リュミエルが頷く。

「帰って、全部整理して、それから次の手」

「ミレーネ召喚も含めてだな」

 木村三曹が言う。

「そうね」

「必要になる」

 セレフィアも言った。

「この先へ降りるなら、回復、浄化、結界。彼女の力は不可欠でしょう」


 誰も異論はなかった。


 敵中枢への入口は見つけた。

 だが、今はまだそこで止まるしかない。

 止まることが敗北ではなく、次に進むための整理だと分かっているからこそ、全員がそれを受け入れた。


 終末東京の中心部は、ついに恒一たちへ声を返した。


 「帰還個体、確認」


 その一言は、この戦争の謎が、もはや遠い推測ではなく、はっきりとこちらを見始めていることを示していた。

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