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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第32話 見られている防衛区

 偵察隊の編成が固まってからというもの、防衛区の空気は妙に張っていた。


 地上では前線補修。

 地下では装備点検。

 技術分析区画では玲奈とリュミエルが相変わらず高速で何かを言い合い、木村三曹はその横で「頼むから爆発だけはするな」と本気の顔で釘を刺している。


 準備そのものは進んでいる。

 だが、問題はそこではなかった。


 敵が静かすぎる。


 新宿外縁線に生きている者なら、その静けさが吉兆ではないことくらい分かる。

 攻めてこないから安心、ではない。

 攻めずに見ている時の方が、むしろ嫌だ。


「また出た」


 監視卓の前で、雫が小さく呟いた。


 地下防衛区の一角にある簡易監視室。

 壁にはモニターが三つ、古いレーダー表示が一つ、ホワイトボードが一つ。

 そこへ今、恒一、雫、玲奈、木村三曹、真田一佐、それにリュミエルが集まっている。


 モニターに映っているのは、上空から拾った観測ログと、周辺巡回班が持ち帰った映像だ。


 高高度を回る小型ドローン。

 攻撃意図があるようには見えない。

 だが、新宿外縁線を大きく円を描くように旋回している。


「同じ場所?」

 恒一が聞く。

「少しずつずれてる」

 雫が画面を指差す。

「でも、見てるのはたぶん同じ。搬入口上空、防空配置、あと地下換気口の並び」

「嫌だな」

 恒一が素直に言う。

「うん」

 雫も頷く。

「すごく嫌」


 玲奈が端末を叩きながら口を挟む。


「嫌って言葉で済ませると分かりにくいけど」

「じゃあ分かりやすく」

 木村三曹が言う。

「偵察じゃない」

 玲奈ははっきり言った。

「もっと絞ってる。こっちの防衛の継ぎ目だけを見てる」

「継ぎ目?」

「そう。どこが脆いか、どこを突けば嫌か、どこで人間が慌てるか、その反応を拾ってる」


 真田一佐の目が細くなる。


「攻めるための観測ではなく」

「誘うための観測かもしれない」

 リュミエルが静かに言った。


 その一言で、監視室の空気が少し変わる。


 恒一は画面から目を離さず聞き返した。


「誘う?」

「ええ」

 リュミエルは壁に寄りかかりながら答える。

「こちらの召喚、異世界戦力、防衛の反応。向こうは今、それを攻めるためだけじゃなく、“こちらがどう動くか”を見るために観測してる」

「中心部へ来させるため?」

 雫が聞く。

「可能性は高い」

 玲奈が頷く。

「第31話で決めた偵察、向こうも予想してるかもしれない」

「……最悪だな」

 木村三曹が顔をしかめる。

「最悪よ」

 玲奈は平然としていた。

「でも、それが現実」


 その時、監視卓の横に置かれたもう一つの端末が鳴った。

 周辺巡回班から上がってきた、地上痕跡ログだ。


 玲奈が開くより早く、木村三曹が覗き込む。


「これは……」

「何?」

 雫が聞く。


 画面には、崩れた高架下のコンクリート床が映っていた。

 そこへ点々と残る、細い金属脚の痕。

 ドローンではない。四脚機でもない。

 何かが、一度そこへ降りて、長く留まらず、また離れたらしい跡だ。


「擬装型か?」

 恒一が言う。

「いや」

 木村三曹が首を振る。

「人型にしては軽すぎる。四脚にしては狭い」

「観測特化個体?」

 玲奈が言う。

「あり得るわね」


 リュミエルはその画像を見て、少しだけ嫌そうな顔になった。


「戦う気がない個体ほど気持ち悪いものはないわ」

「分かる」

 恒一が言う。

「こっちを測ってる感じがする」

「実際そうなんでしょうね」


 真田一佐が低く問う。


「他には」

 玲奈は端末を切り替える。

「通信障害の分布」

 表示されるのは、新宿外縁線周辺で起きた短時間ノイズの記録だ。

「攻撃の前後じゃない。むしろ何もない時に、数秒ずつ乱れてる」

「意味は」

「こっちがどう補正するか見てる」

 玲奈が言う。

「無線が乱れた時、どの班がどう動くか、指揮がどこで詰まるか、予備回線に切り替わるまで何秒かかるか」

「……」

「嫌な意味で、観察が細かい」


 雫が腕をさする。


「見られてるって感じがする」

「実際そうよ」

 玲奈が返す。

「今の新宿外縁線、敵にとっては“異世界戦力がいる防衛区サンプル”みたいなもの」

「言い方最悪だな」

 恒一が言う。

「最悪なのは向こう」

「それはそうだけど」


 監視室の天井を、遠くの爆音が鈍く震わせる。

 前線のもっと外側で、散発的な接触が続いているのだろう。

 だが今ここで問題なのは、見える戦いではない。


 見えない観測。

 意図のある静けさ。

 そして、“中心部へ来させる”ような空気。


「……誘いなら、なおさら行きたくないな」

 恒一が言う。

「でも行くんでしょ」

 雫が横を見る。


 その問いは責めるものではなかった。

 確認だ。

 覚悟を共有するための。


「行く」

 恒一は答えた。

「だろうね」

「嫌だけどな」

「うん」

 雫も頷く。

「私も嫌」


 リュミエルが静かに言う。


「でも、ここで止まるのはもっと悪手」

「理由は」

 真田一佐が聞く。


 彼女はモニターのドローン軌跡を指した。


「向こうは“来るかもしれない私たち”を見てる」

「ええ」

「なら、行かなければ行かないで、その分だけ向こうに準備時間を与える」

「……」

「どちらにせよ、中心部はいずれ触らないといけない。だったら、まだこちらが主導権を少しでも持っているうちに覗くべきよ」


 玲奈も頷いた。


「同意見」

「でも罠の可能性は?」

 木村三曹が言う。

「高い」

 玲奈は即答した。

「むしろ罠前提で考えた方がいい」

「じゃあ何で行くんだよ」

「罠の中身を見ないと、攻略準備が組めないから」

「ほんと嫌な戦争だな」


 その時、セレフィアが監視室へ入ってきた。


 鎧のままではなく、防衛区で借りた簡易ジャケットを羽織っている。

 それでも立ち姿がきっちりしているのは、もはや本人の性質だろう。


「何かありましたか」

「見られてる」

 恒一が言う。

「ええ」

 セレフィアはすぐに空気を読む。

「敵の観測が濃くなったのですね」

「濃いどころじゃない」

 玲奈が画面を示す。

「防衛区の反応そのものを見てる」

「なるほど」

 セレフィアは少しだけ目を細めた。

「では、こちらを“誘う意図”が混ざっている可能性も高い」

「お前もそう見るか」

 恒一が聞く。

「はい」

 彼女は頷く。

「もし中心部に敵中枢があるなら、向こうもまた“いつかこちらが来る”と考えるのは自然です」


 雫が少しだけ不安そうに言った。


「罠って分かってて行くの、普通に嫌なんだけど」

「私も嫌です」

 セレフィアが言う。

「でも、だからといって放置できる類のものではありません」

「……」

「守るだけでは詰む」

 リュミエルが淡々と続けた。

「だったら、噛みつかれる前に牙の位置を見に行くしかない」


 監視室が静まる。


 誰も楽観していない。

 誰も“行けば何とかなる”とは思っていない。

 それでも、進まなければもっと悪くなるのも分かっている。


 真田一佐がゆっくり口を開く。


「予定通り、偵察は実施する」

 低い声だった。

「ただし、前提を一つ追加する」

「何だ」

 恒一が聞く。

「中心部は“見に行く場所”ではなく、“こちらを待っている場所”だと思え」

「……」

「それでも行くか」

 一佐は、あえて確認するように言った。


 恒一は少しだけ目を閉じた。


 敵の心臓。

 家族の避難ハブ。

 異世界由来の境界汚染。

 全部がそこへ繋がるなら、待たれていようが、罠だろうが、避けては通れない。


「行く」

 短く答える。

「ええ」

 セレフィアも続いた。

「私も」

 リュミエルは肩をすくめる。

「最初からそのつもり」

 木村三曹は苦い顔で頷く。

「じゃあ俺もだ」

 雫は少しだけ息を止め、それから吐いた。

「……分かった。行く」

「よし」

 真田一佐が言う。

「なら、あとは“生きて帰る”準備だけだ」


 その言葉で、監視室の空気は決まった。


 見られている防衛区。

 誘われているかもしれない中心部。

 罠の気配。

 それでも偵察を止めないという決断。


 終末日本の戦争は、もう守勢だけでは立ち行かない。

 だからこそ、相手の口の中へ顔を突っ込むような偵察でも、やるしかない。


 そして恒一は、モニター上の高高度ドローンの軌跡を見ながら、静かに思った。


 あの中心部は、敵の本拠であると同時に、自分が帰ってきた理由のど真ん中にある場所なのかもしれない。


 ならば、どのみち行くしかないのだ。

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