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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第27話 東京の真ん中に、敵の心臓がある

 新宿外縁線の簡易会議区画には、戦場帰りの熱がまだ残っていた。


 机の上には、さっき撃破した対異世界戦力寄りの中型個体から抜き出したログ断片。

 その横には東京中心部の地図、首都圏防衛区分布図、高高度ドローンの進行ライン、そして榊原玲奈が徹夜で作ったらしい、敵高位個体の同期パターン推定図が積み重なっている。


 湿ったコンクリートの匂い。

 冷めきっていないコーヒー。

 蛍光灯の白さ。

 壁の向こうではまだ補修班が金属板を打ちつけていた。


 第二波を押し返し、夜の高位個体狩りに成功し、リュミエル召喚も果たした。

 だが、戦況が良くなっている手応えと同じくらい、敵の輪郭も嫌な方向へはっきりし始めていた。


「じゃあ、改めて整理するわよ」


 玲奈がホワイトボード代わりのパネルへ乱暴にペンを叩きつける。

 その表情は疲れているくせに妙に鋭かった。技術者というより、獲物の足跡を見つけた猟犬に近い。


「今日の収穫は二つ」

 一本目の線を引く。

「一つ目。対異世界戦力用に寄った個体が、もう実戦投入されてる」

「それはもう十分嫌ってほど分かった」

 木村三曹が顔をしかめる。

「俺も同意です」

 恒一が言う。

「学習速度が予想より早い」

「で、二つ目」

 玲奈が二本目を引く。

「そいつらが、どこか“深いところ”から同期を受けてる」


 その言葉に、部屋の空気がまた少し重くなる。


 真田一佐は腕を組んだまま低く問う。


「さっきの“東京中心部”という話だな」

「ええ」

 玲奈は端末をモニターへ繋いだ。

「まだ確定じゃない。でも、かなり濃い」


 画面に表示されるのは、都市地図に重ねられた複数の線だ。

 高位個体が出現した地点。

 高高度ドローン群の旋回偏り。

 戦闘中に観測された同期タイムラグ。

 それらが、いくつかの放射状ラインを描いて都心部へ吸い込まれている。


 雫が身を乗り出す。


「これ……全部、真ん中に集まってる?」

「完全に一点じゃないけどね」

 玲奈が言う。

「でも高位個体の学習更新タイミングと、遠隔同期のラグを重ねると、どうしても“ここらへん”が怪しい」


 彼女が赤丸で囲んだのは、東京中心部の高層エリアだった。


 旧都心部。

 高層ビル群。

 地下鉄大深度網。

 政府系データ施設跡。

 どれも、今の東京で最も“何かあってほしくない場所”ばかりだ。


「候補は三つ」

 玲奈が指を立てる。

「旧高層通信ハブ。地下鉄深部の統合制御区画。あと、旧官庁系データセンター跡」

「全部嫌だな」

 木村三曹がうめく。

「嫌よ」

 玲奈もあっさり頷く。

「でも、このへんに“敵の心臓”みたいな場所がある可能性が高い」


 リュミエルが腕を組み、画面を睨んでいた。


「“心臓”ね」

 彼女は少し考えるように言う。

「比喩としては悪くないわ。でも実際はもっと気持ち悪いと思う」

「気持ち悪いって?」

 雫が聞く。

「生命の中枢じゃなく、学習と同期の巣」

 リュミエルは言う。

「全個体の情報を吸って、返して、最適化してる“思考の井戸”みたいなものかもしれない」

「思考の井戸……」

 雫が顔をしかめる。

「聞いただけでやだ」

「正しい感想よ」

 玲奈が言う。

「私も嫌い」


 恒一は画面から目を離さずにいた。


 東京中心部。


 その言葉に、別の意味も重なる。

 ただ敵中枢があるかもしれない、というだけではない。


 家族の避難記録。

 焼け跡の門柱に残っていた北西への誘導印。

 その後の移送名簿で一度だけ引っかかった、“都外縁中継施設への転送記録”。

 そして最近、玲奈たちが掘り返した古い避難ログの中で、経由候補として浮かび上がった東京中心部の避難ハブ名。


 もし、途中の情報が正しければ。

 父と母は、東京中心部方面の避難ラインに一度は乗っている可能性がある。


「コーイチ」

 セレフィアの声が、すぐ横からした。

「……ああ」

「顔に出ています」

「出てるか」

「ええ」


 彼女はそれ以上何も言わなかった。

 ただ、恒一の思考が今どこへ向いているのかを理解している顔だった。


 真田一佐がその変化に気づいたのか、静かに訊く。


「天城」

「はい」

「中心部に心当たりがあるのか」

「心当たり、というほどじゃない」

 恒一は少し言葉を選ぶ。

「でも……家族の避難先情報が、その方面と繋がる可能性が出てきた」

「……」

「まだ推測です。確定じゃない」

「だがゼロじゃない」

 一佐が言う。

「そうです」


 部屋が静まる。


 家族探し。

 敵中枢。

 東京中心部。


 別々だったはずの線が、ここで少しずつ近づき始めていた。


 雫が小さく言う。


「じゃあ、天城さんにとっても、そこはただの戦場じゃなくなるんだ」

「最初からそうかもしれなかった」

 恒一が答える。

「でも今は、前より現実味がある」


 玲奈はすぐにそこへ食いつかなかった。

 研究者らしく空気を読まない時もあるが、読むべき時には読む。今はその顔だった。


「私情を優先しろって意味じゃないわよ」

 彼女は真面目に言った。

「でも、個人的動機と戦略目標が重なるなら、むしろ悪くない」

「そうだな」

 真田一佐が頷く。

「戦う理由は、多い方が折れにくい」


 木村三曹が鼻を鳴らす。


「問題は、そこへどう行くかだ」

「いきなり攻略は無理」

 玲奈が即答する。

「今の防衛区の戦力じゃ、中心部へ本隊を突っ込ませたら帰ってこられない」

「同感です」

 リュミエルも言う。

「今分かっているのは、“心臓がありそう”ということだけ。位置も構造も、防御の仕方も、何一つ確定していない」

「なら先に見る」

 恒一が言った。

「偵察だな」

 真田一佐が続ける。


 その一言で、会議区画の空気が少しだけ前へ進む。


 守るだけの会議ではなくなった。

 “敵の中心へ近づく”ための会議になったのだ。


 リュミエルがモニターの地図を指す。


「ここから先の戦いは、外縁線の押し引きだけじゃない」

「分かってる」

 恒一が言う。

「敵の“考える場所”を叩かないと、学習速度でいずれ詰む」

「ええ」

 リュミエルは頷いた。

「私たちが増えれば向こうも学ぶ。向こうを止めたければ、学ぶ場そのものを壊すしかない」


 セレフィアが静かに口を開く。


「奪還、ですね」

「……ああ」

 恒一が答える。


 その言葉は、今までよりずっと重かった。


 防衛。

 迎撃。

 生き延びるための戦い。

 ここまではそうだった。


 だが今、初めて視線が“向こう側”へ向いた。

 敵の中心。

 東京の真ん中。

 奪い返さなければならない場所。


 真田一佐は腕を解き、机へ両手をついた。


「繰り返す」

 一佐の声は低く、はっきりしていた。

「防衛を続けるだけでは、遅かれ早かれこちらが磨耗する」

「はい」

「敵中枢が中心部にあるなら、いずれ覗かなければならん」

「今すぐは無理」

 玲奈が言う。

「でも、場所の輪郭を掴むだけでも違う」

「なら」

 木村三曹が息を吐く。

「まずは偵察か」

「そうなる」

 一佐が頷く。


 雫が顔を上げる。


「でも東京中心部って、外縁よりずっと危ないんでしょ?」

「危ないどころじゃない」

 玲奈が答える。

「敵の密度も観測の目も、比べものにならないはず」

「じゃあ偵察なんて……」

「だから少数精鋭」

 真田一佐が言う。

「いきなり攻略ではない。まずは“見る”」


 恒一はその言葉を聞きながら、地図の赤丸を見つめていた。


 もし、そこに敵の心臓があるなら。

 もし、そこに家族の避難ラインの断片が残っているなら。

 自分はいずれ、必ずそこへ行くことになる。


 その確信だけが、妙にはっきりあった。


「コーイチ」

 セレフィアが小さく呼ぶ。

「ん?」

「行くのでしょう?」

「……ああ」

 恒一は視線を地図から外さずに答える。

「多分、行くことになる」

「なら」

 彼女は静かに言った。

「私は、当然ついて行きます」

「言うと思った」

「当然です」

「その“当然”便利だな」

「ええ」


 そのやり取りに、リュミエルが鼻で笑う。


「あなたたち、本当にそういうところ変わらないわね」

「何だよ」

 恒一が見ると、彼女は肩をすくめた。

「面倒な場所ほど、二人とも迷いなく前を見る」

「褒めてるのか?」

「半分」

「残り半分は?」

「呆れてる」

「素直だな」

「誰かさんたちと違ってね」


 玲奈がその会話を挟むように言った。


「でも、面倒ってことはつまり価値があるってことでもある」

「博士、またそういう」

 雫が呆れる。

「だってそうでしょ」

 玲奈は言う。

「東京中心部。敵の心臓。避難ハブの経由線。全部が重なってるなら、そこはこの物語の“次の場所”よ」

「物語みたいに言うな」

 木村三曹が言う。

「現実だ」

「知ってる」

 玲奈は一拍置いて、今度は少し低い声で続けた。

「だからこそ、ちゃんと見に行くの」


 その言い方に、誰も茶化さなかった。


 技術班の女も、軍人も、異世界の騎士姫も、大魔導士も、現代の少女も。

 全員が今、同じ地図を見ている。


 戦場が変わろうとしている。

 守るだけではなく、東京の真ん中へ手を伸ばす戦いへ。


 敵の心臓がある。

 そう仮定した瞬間から、物語の向きはもう決定的に変わっていた。


 そして恒一にとっては、それが家族へ近づく線でもある。


 だからこそ、この赤丸はただの戦略目標ではない。

 もっと重く、もっと個人的で、もっと逃げられないものになっていくのだった。

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