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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第25話 理屈屋エルフ、防衛区を解剖する

 リュミエルが召喚されてから、まだ半日も経っていなかった。


 にもかかわらず、防衛区の空気はすでに少し変わっていた。


 第二波で空を埋めたドローン群を、あのエルフの大魔導士が一瞬で焼き払ったから――だけではない。

 その直後から彼女が見せた行動が、あまりにも“味方として遠慮がない”ものだったからだ。


「で、まず聞くけど」


 地下防衛区の技術分析区画。

 白い照明と薬品の匂いに満ちたその場所で、リュミエルは白衣姿の玲奈と向かい合い、机へ両手をついていた。


「あなたたち、この敵の残骸を今までどう分類してたの?」

「どうって……部位ごと、機能ごと、損傷ごと」

 玲奈が答える。

「普通でしょ」

「普通すぎるのよ」

 リュミエルが即座に切る。

「こいつら、ただの機械じゃないって分かってるんでしょう? なら金属と回路とエネルギー層だけで見ても遅い。境界干渉の痕、位相のねじれ、術式の残滓、その三つを並列で見ないと意味がない」

「……」

「何?」

「いや」

 玲奈が、珍しく本気で感心した顔になる。

「好き」

「何この人」

「榊原玲奈。こっちの世界の技術班責任者」

 恒一が横から補足する。

「面倒だけど頭は切れる」

「それ、かなり褒めてるわね」

 玲奈が満足そうに言う。

「事実だからな」

「コーイチ、あなたその紹介の仕方だと後で揉めるわよ」

「異世界で散々揉めてるから今さらだ」


 防衛区の技術班補助員たちは、少し離れた位置から二人の会話を固唾を呑んで見守っていた。

 白衣の女と銀髪エルフが、敵残骸を前に異常な速度で会話している。しかも内容は半分くらい意味不明だ。

 だが意味不明なのに、“この二人が噛み合ってしまった”ことだけは本能的に伝わる。


 その少し後ろでは、セレフィアが腕を組んで立っていた。


 立ち位置があまりにも自然に恒一の隣だったので、雫がさっきから何度も微妙な顔をしている。


「ねえ」

 雫が小声で恒一へ寄る。

「何だ」

「ほんとにあの人たち、放っておいて大丈夫?」

「大丈夫じゃないかもしれない」

「だよね」

「でも止めても無駄だ」

「それも分かる」

 雫はため息をついた。

「理系の暴走って世界またいでも同じなんだな……」

「妙に納得するな、その言い方」


 リュミエルはすでに次の残骸へ手を伸ばしていた。


 大型制圧機の胸部中核。

 赤黒い結晶体の断面。

 高位個体から抜き出した高純度コアの保護ケース。

 それらを次々に見比べ、玲奈の端末へ勝手に指示を飛ばす。


「これ、走査角度が甘い」

「そう?」

「内部層の流れが潰れてる。こっちの方向から見て」

「……あ、本当だ」

「でしょ。あと、この結晶の応答波形、単独で見ても意味ないから」

「どこと重ねるの?」

「こっちの高純度コア」

「待って」

 玲奈が笑う。

「何それ、面白い」

「面白がってる場合じゃないんだけどね」

 リュミエルはそう言いながらも、口元に少しだけ気の強い笑みを浮かべる。

「でも面白いわよ。こんな混線した世界初めてだもの」


 真田一佐が、そのやり取りを少し離れた位置から見ていた。

 軍人らしい無駄のない姿勢のまま、だが明らかに観察している目だ。


「どうです」

 恒一が声をかける。

「率直に言えば」

 一佐は少しだけ間を置いた。

「扱いに困る」

「だろうな」

「だが、有用だ」

 その一言に迷いはなかった。

「榊原一人でも解析速度は高かった。そこへ別系統の理屈を持ち込まれると、今まで“分からない”で止まっていた部分に無理やり手がかかる」

「リュミエルはそういうやつだ」

「……面倒な女を知っている顔をしているな」

「知ってるから言ってる」


 セレフィアがそこで、少しだけ不機嫌そうに言った。


「理屈屋ですから」

「聞こえてるわよ、セレフィア」

 リュミエルが即座に返す。

「ええ。聞こえるように言いました」

「相変わらずね」

「そちらこそ」

「何、喧嘩?」

 雫が本気で不安そうに聞く。

「喧嘩ではありません」

 セレフィアが答える。

「牽制です」

「牽制なんだ……」

「日常よ」

 恒一が言う。

「嫌な日常だなあ!」


 だが、そのやり取りの裏で、リュミエルの目は真面目だった。


 彼女は中型支援機の残骸へしゃがみ込み、単眼部分の奥を覗く。

 そして今度は、回収された高純度コアへ指先を近づけた。


 青紫の光が、ごくわずかに弾ける。


「……やっぱり」

 低く呟く。

「何が」

 玲奈が訊く。

「敵の高位個体、単純な演算強化だけじゃない。こっちの世界の技術で“術式の形だけ真似た”んじゃなくて、もっと深いところで境界に触れてる」

「どのくらい深い?」

「雑に言うと」

 リュミエルは立ち上がり、恒一たちを見渡した。

「次に来るやつらは、たぶん私たち用に調整してくる」


 技術分析区画が静まる。


 玲奈が眉を上げた。

「“私たち用”?」

「ええ」

 リュミエルははっきり言う。

「コーイチの雷。セレフィアの聖属性。私の広域術式。こっちの火器体系。それぞれに対して別々の嫌がらせをしてくる」

「嫌がらせって……」

 木村三曹が苦い顔をする。

「軍人っぽい言い方だと?」

 リュミエルが聞く。

「対異世界戦力用個体、とか」

 恒一が答えた。


 その言葉に、玲奈の目が鋭くなる。


「……それ、かなりしっくり来る」

「でしょうね」

 リュミエルは頷いた。

「だって、もう始まってるもの。第二波の大型だってその一歩手前だった。雷の予備動作を見てた。斬撃の入り方を嫌ってた。次はもっと露骨になる」


 真田一佐が低く問う。


「どの程度まで進むと見る」

「早ければ次の交戦」

 リュミエルは即答した。

「遅くてもその次」

「……」

「向こうの学習速度は異常よ。しかも、その核の中に“境界の癖”が混ざってるなら、単なる機械学習よりずっと嫌な伸び方をする」


 雫が腕をさする。


「それ、要するに」

「敵がもう“魔法が効く敵”じゃなくて、“魔法に慣れる敵”になる」

 玲奈が言った。

「最悪」

 雫が顔をしかめる。

「本当にね」

 玲奈は今度は冗談抜きで言う。


 リュミエルはそのまま、防衛区全体を見たいと言い出した。


「解析室だけ見ても駄目」

 彼女はきっぱり言う。

「敵の進行、兵の配置、補給導線、避難民の密度、電源経路、全部見せて」

「休まないのか?」

 恒一が聞く。

「休んでる場合?」

 リュミエルが逆に聞き返した。

「……ないな」

「でしょうね」


 こうして一行は、防衛区の内部を歩くことになった。


 まず前線寄りの補給路。

 弾薬箱の列、担架の往復、仮設発電機の唸り、壁に貼られた手書きの配置図。

 次に医療区画。負傷兵、疲れ切った看護要員、足りない薬品。

 さらに民間居住区。家族単位の狭い区画、名簿、避難先情報、静かに泣く子供。


 リュミエルは、どこでも足を止めた。

 そして見る。

 話を聞く。

 覚える。

 ただの見物人ではなく、すでにこの防衛区の一員として“どこが死ねば全体が崩れるか”を確かめている目だった。


「この世界の兵站、脆いわね」

 彼女は補給路を見て言った。

「だから苦労してる」

 雫が返す。

「そうでしょうね」

「でもその言い方、ちょっと腹立つ」

「ごめんなさいね。腹立ててもらって結構」

 リュミエルは肩をすくめた。

「でも事実を先に認めないと対策が組めないもの」


 セレフィアが口を挟む。


「それはそうですが、もう少し言い方というものが」

「あなたが言う?」

 リュミエルが即座に返す。

「“当然の位置です”とか言ってた人が?」

「……」

 セレフィアが一瞬だけ止まる。

「聞いていたのですか」

「壁薄かったわよ」

 玲奈が横から楽しそうに言う。

「防衛区あるあるね」

「何があるあるだ」

 恒一が額を押さえる。

「やっぱり聞こえてたのか……」

「聞こえるでしょ、あの宣言は」

 雫が赤くなりながら言う。

「普通に」


 リュミエルはそこで、じっと雫を見た。


「あなたが三崎雫?」

「え?」

 雫が少し身構える。

「う、うん」

「コーイチを最初に見つけた子」

「見つけたっていうか、一緒に逃げたっていうか……」

「へえ」

 リュミエルの目が少しだけ細くなる。

「そう」

「何その反応」

「何でも」

「絶対何かあるよね」

「ありますね」

 セレフィアが淡々と言う。

「ちょっと待って、何でそこでセレフィアさんが肯定するの」

「だってあるでしょう?」

「あるでしょうじゃないよ!」


 玲奈が壁にもたれて笑いをこらえている。


「いいわねえ」

「博士、今日ずっとそれしか言ってない」

 雫が睨む。

「しょうがないでしょ、面白いんだから」


 だが、その軽い空気も、前線側から聞こえてきた報告でまた締まった。


『監視班より、南東高空に再び散発反応』

『地上機接近はなし。ただし観測ドローンの旋回パターンに変化あり』


 真田一佐がその報告を聞き、地図へ視線を落とす。


「見に来ているな」

「ええ」

 リュミエルがすぐ答えた。

「攻める気ではない。でも見てる」

「何を?」

 木村三曹が聞く。

「防衛区の呼吸」

 リュミエルは端的に言った。

「どこが弱いか、どこで反応が鈍るか、誰が指揮を取ってるか、何を動かすと兵が揺れるか」

「嫌な言い方だな」

「嫌な敵だから」

 リュミエルは淡々と返す。


 そのまま彼女は、防衛区中央の簡易司令卓へ手をついた。


「このままだと、向こうは次に“私たちを殺すための個体”を出してくる」

「やっぱりそう見るか」

 恒一が言う。

「当然でしょ」

 リュミエルは恒一を見る。

「だって私たち、分かりやすく目立ってるもの」

「否定はできないな」

「しかも、向こうの中核には異世界の境界痕がある。つまり“こっちの理屈だけで育ってない敵”ってこと。なら、異世界戦力に合わせた最適化に入ってもおかしくない」

「最悪だ」

 木村三曹が吐き捨てる。

「ええ」

 リュミエルはさらりと言う。

「でも、だから先手を打つの」


 玲奈が頷いた。


「次の召喚か」

「その前に敵中枢の位置と構造を掴みたい」

 リュミエルが言う。

「今のまま呼んで増やすだけだと、向こうも同じ速度で学ぶ。なら、敵が“どこで考えてるか”を知る必要がある」

「中枢、か」

 真田一佐が低く繰り返す。


 恒一は、リュミエルがここへ来てまだほとんど時間が経っていないことを思い出して、少し呆れた。


「お前、来たばっかりだよな」

「だから?」

「もうそこまで考えてるのか」

「だって見れば分かるもの」

 リュミエルは本気で不思議そうだった。

「この戦争、“数で押してくる敵”に見せかけて、本体はもっと奥にあるわよ」

「……」

「東京の真ん中」

 彼女ははっきり言う。

「そこに、敵の心臓がある」


 その一言で、防衛区の空気がまた変わった。


 ただ守るだけの戦いではない。

 外縁線を維持するだけでは、いずれ詰む。

 どこかにある敵の“考える場所”を見つけなければ、この戦争は終わらない。


 真田一佐はゆっくり頷いた。


「やはり、そうか」

「やはり?」

 恒一が聞く。

「高位個体の動きも、通信異常も、全部が“中心を持つ動き”に見えていた」

 一佐は答える。

「だが確証がなかった。お前と榊原の分析でようやく輪郭が出てきた」

「だったら」

 リュミエルが言う。

「次は中心部を覗くべきね」

「簡単に言うな」

 木村三曹がぼやく。

「覗くだけでも首が飛びそうなんだぞ」

「飛ばないように行くのが仕事でしょ」

「このエルフ、すげえ涼しい顔で無茶言うな……」

「コーイチの仲間ですから」

 セレフィアが言う。

「いや、お前も同類だろ」

 恒一が突っ込むと、セレフィアはほんの少しだけ目を逸らした。


 雫がぼそっと言う。


「何かさ」

「何だ」

 恒一が聞く。

「異世界ヒロイン増えるたびに、普通に人類側の会議レベル上がってない?」

「それはそう」

 玲奈が即答する。

「しかも面倒くささも比例してる」

「褒めてる?」

 リュミエルが聞く。

「半分は」

「残り半分は?」

「胃が痛い」

「素直でよろしい」


 そう言ってリュミエルは、ようやく少しだけ口元を緩めた。


 終末日本の地下防衛区。

 戦いの最中。

 それでも彼女はすでに、この場所を“自分の戦場”として解剖し終えていた。


 そして、その解剖の果てに出した結論は一つ。


 敵は次、対異世界戦力用個体を出してくる。


 その予測は、これから始まる第3章の不穏な方向を、はっきりと示していた。

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