表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/40

第24話 エルフの大魔導士は廃都に笑う

 搬入口区画の上で、空襲が始まっていた。


 ドゴォンッ、ドンッ、と鈍い衝撃が地下のコンクリートまで震わせる。

 天井の継ぎ目から粉塵が落ち、照明が白く明滅し、どこかで警報が途切れそうになりながら鳴り続けている。


『高高度群、一部突破!』

『搬入口上空へ接近!』

『中型支援機、対地射撃開始!』


 無線の怒声と銃声が混ざり、搬入口区画の空気そのものが張りつめる。


 それでも、召喚陣は崩れていなかった。


 中央に立つ天城恒一の足元で、第一円環が青白く脈打つ。

 第二円環は白銀に光り、回収した高純度コアが赤黒い脈動を刻んでいた。

 そして第三円環。人物固定のための淡金の円が、今まさに向こう側の一点へ細く深く伸びている。


 その補助位置で、セレフィアは静かに聖剣を掲げていた。


 金色の糸のような位相線が、聖剣の鍔元から召喚陣へ流れ込んでいる。

 彼女は戦う時の顔でも、笑う時の顔でもなく、もっと静かな、祈りにも似た表情で門を支えていた。


「コーイチ」

 小さく呼ばれる。

「ん……」

「あと少しです」

「ああ」


 恒一は歯を食いしばる。


 魔力の流出がきつい。

 高純度コアでかなり補われてはいるが、それでも“世界をまたぐ穴”をこじ開ける負荷は尋常ではない。

 前回のセレフィア召喚よりは明らかに安定している。だが安定しているからこそ、通すべき相手がはっきりしなければ意味がない。


 リュミエル。


 理屈っぽくて、皮肉屋で、魔法のことになると人の話を聞かないエルフの大魔導士。

 広域殲滅。術式解析。構築魔法。敵の一手先を読む頭脳。

 今のこの世界に、最も必要な一人。


「リュミエル……来い!」


 名を呼ぶ。


 その瞬間、召喚陣の中央に開いていた青白い裂け目が、一気に横へ広がった。


 前回の門とは違う。

 セレフィア召喚時の白金の輝きではなく、今度は青と紫が混じる、もっと知性じみた色の門だ。

 まるで夜空に描かれた数式が、そのまま亀裂になったような光景だった。


「位相窓、拡大!」

 榊原玲奈が端末を握りしめて叫ぶ。

「固定良好! 高純度コア、出力維持! 天城、そのまま! 今止めたら全部飛ぶ!」

「止めるかよ……!」


 その時、搬入口直上でひときわ大きな爆音が落ちた。


 ズガァンッ!


 区画全体が跳ねる。

 上部補強材の一部が軋み、壁際の遮蔽板が倒れ、隊員の誰かが痛みに呻く声がした。


「一佐!」

 木村三曹の怒鳴り声。

「上が抜かれかけてる!」

「持たせろ!」

 真田一佐の声も飛ぶ。

「召喚完了まで一秒でも稼げ! 今潰されたら全部終わる!」


 防衛班がさらに前へ出る。

 排気ダクト側の即席網が破られ、小型ドローンが二機侵入。だがそれを木村三曹と若い隊員の射撃が叩き落とす。

 別方向の通路では中型支援機の砲撃が壁ごと揺らし、人型機の単眼が暗がりに赤く点る。


 敵はもう完全に、この儀式の価値を理解していた。


「ほんとに潰しに来てるじゃない……!」

 雫が顔を青くしながら叫ぶ。

 だがその手は震えていても、補助固定具から離れていない。


 セレフィアが低く言う。


「雫」

「え」

「動かないでください」

「う、うん」

「その位置が崩れると、門が揺れます」

「分かってる! 分かってるけど、今すごい怖い!」

「それで正常です」

 セレフィアは静かに答える。

「ですが、あなたはよく踏ん張っています」


 その一言で、雫の顔が少しだけ引き締まる。


 恒一は、そのやり取りさえ遠く感じながら、門の向こうへ意識を伸ばした。


 異世界の夜気。

 魔力の濃い空。

 石畳の気配。

 そして――こちらの召喚へ、明らかに苛立ち混じりで反応している、あの独特の魔力。


 来る。


 今度は分かった。

 セレフィアの時の“まっすぐ届く感じ”とは少し違う。

 複雑な術式を逆算しながら、文句を言いながら、それでも最短でこちらへ辿り着こうとする気配。


「は?」

 裂け目の向こうから、声がした。

「ちょっと待って、何この座標の繋ぎ方。頭おかしいの?」


 聞き慣れた、呆れたような高い声。


 恒一の口元が、思わず緩む。


「相変わらず第一声がそれかよ……!」

「コーイチ!?」

 向こう側で気配が跳ねる。

「あなた、帰還したと思ったら何してるの!? しかも世界の境界にこんな無茶苦茶な穴開けて――」

「説明は後! 来られるか!?」

「来るに決まってるでしょ! でもこの世界、魔力密度薄すぎるし理屈が気持ち悪いし最悪なんだけど!?」


 そう叫びながら、門の向こうに人影が現れた。


 長い銀髪。

 尖った耳。

 夜色のローブに、幾重にも刻まれた術式紋様。

 そして、細い指先にまとわりつく青紫の光。


 リュミエル・アストレア。


 異世界最強パーティーの頭脳。

 エルフの大魔導士。

 魔法を誰より愛し、その理を汚されることを誰より嫌う女。


 彼女は門をくぐる寸前に、こちらの景色を見た。


 崩れかけた地下搬入口。

 爆音に揺れる天井。

 防衛線を守る自衛隊。

 侵入する機械群。

 そして、術式の中心で歯を食いしばる恒一と、その後ろで門を支えるセレフィア。


 リュミエルの顔が、綺麗に引きつった。


「はぁ!?」

 その声は、区画の全員へはっきり届いた。

「ちょっと待って、あなたまた面倒な世界に巻き込まれてるじゃない!」


 そして次の瞬間には、すでに彼女の目は“状況を読む魔導士”のものへ変わっていた。


「敵はあれね」

 青紫の瞳が、侵入してくるドローンと中型支援機へ向く。

「しかも異世界由来の境界痕混じり。なるほど、最悪」


 そう言い捨てながら、リュミエルは完全にこちら側へ踏み出した。


 門が眩く光り、彼女の足が終末日本のコンクリート床を踏む。

 その瞬間、召喚陣は一度だけ大きく脈動し、安定した。


「第二召喚、成立!」

 玲奈が叫ぶ。

「来た! 本当に来た!」


 だが感動に浸る暇はない。

 中型支援機がその瞬間を狙ったように砲撃を通してきた。


「危ない!」

 雫が叫ぶ。


 だが、リュミエルは振り向きもしなかった。


「うるさい」


 その一言とともに、彼女の前に複雑な魔法陣が五つ、瞬時に展開する。


 重ね詠唱。

 術式圧縮。

 異世界でも、彼女の本気を知らない者はまず一瞬で置いていかれた。


「《蒼雷天幕》」


 青紫の光が、天井一帯へ扇状に広がる。


 それはただの雷ではない。

 空間そのものへ張られた魔導網だ。

 搬入口上空へ侵入しかけていたドローン群が、その網へ触れた瞬間、まるで羽虫のように一斉に感電し、光を引きずりながら墜ち始める。


「え」

 木村三曹が言葉を失う。

「は?」

 雫も口を開いたまま固まる。


 だが、リュミエルは止まらない。


 天井近くで散開しようとしていた高高度侵入群へ、さらに指先を向ける。


「《星落とし》」


 青白い光点が、夜空の流星群のように上へ向かって撃ち出された。

 次の瞬間、それらは軌道を反転し、上空ドローン群へ降り注ぐ。


 連続爆発。

 破裂。

 焼損。

 高高度にあったはずの黒点が、次々に火を噴き、赤い残光を引きながら地上へ落ちていく。


 防衛区の上空から、敵の“空”が剥がれていく。


 それは、今まで誰も見たことのない光景だった。


『上空反応、急減!』

 監視班の無線が裏返る。

『ドローン群が……消えていきます!』

『なんだこれ、空が……』


 真田一佐でさえ、一瞬言葉を失っていた。


 セレフィアが小さく息を吐く。


「相変わらず、派手ですね」

「何その感想」

 リュミエルが振り向きざまに言う。

「久しぶりに会って最初の一言がそれ?」

「事実ですので」

「あなたは相変わらずそういうところが腹立つのよ」


 その二人のやり取りに、恒一はようやく少しだけ笑った。


「本当に来たな」

「呼んだのはそっちでしょ」

 リュミエルは肩で息をするでもなく言う。

「こんな雑な世界座標でよく届いたわね。あとで術式全部見せなさい」

「第一声から説教と解析要求かよ」

「当然でしょ。帰還したと思ったら終末世界にいて、しかも異世界の痕跡が混じった機械と戦ってるとか、情報量が狂ってるのよ!」


 玲奈が、その横で完全に目を輝かせていた。


「好き」

「え?」

 リュミエルが眉を寄せる。

「今のテンション、すごく好き」

「何この人」

「技術班責任者。榊原玲奈」

 恒一が説明する。

「こっちの世界で一番、理屈から噛みつくタイプだ」

「へえ……」

 リュミエルの目が細くなる。

「あとで話しましょう」

「ぜひ」

 玲奈も笑う。


 絶対に危険な組み合わせだ、と恒一は思った。


 だが、今はそれ以上に大きい事実があった。


 新宿外縁線の上空。

 ずっと人類を押し潰してきたドローン群の空が、初めて“取り返された”のだ。


 無線では歓声に近い声まで混ざり始めている。

 兵たちも避難民も、ただの一撃で空の脅威が消える光景を見てしまった。

 それが何を意味するか、説明などいらない。


 リュミエルは、ふと足元の敵残骸へ目を向けた。


 焼けた中型支援機。

 赤黒いコアの欠片。

 そこへ伸びる、異世界に似て非なる嫌な気配。


 彼女の表情が、すっと変わる。


「……これ」

 その声音は、さっきまでの軽口とはまるで違っていた。


 恒一も、セレフィアも、玲奈も真田一佐も、自然とそちらへ意識を向ける。


 リュミエルはしゃがみ込み、指先を残骸へ近づける。

 すると赤黒い欠片の奥で、ほんのわずかに紫の線が震えた。


「ただの暴走AIじゃない」

 彼女ははっきり言った。

「向こうの術式が混ざってる」


 その断言は、この戦争の輪郭をまた一段深く変えた。


 第二召喚、成功。

 リュミエル、降臨。

 そして彼女は到着直後に、敵の正体へ更なる疑いを突きつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ