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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第12話 聖剣姫、東京に降り立つ

門は、白金の輝きとともに完全に開いた。


 搬入口区画の中央。

 天城恒一の足元に展開された召喚陣は、青白い第一円環、白銀の第二円環、そして金色の第三円環を重ねながら、今までとは比較にならない密度で脈動している。


 向こう側の夜気が、こちらへ流れ込んできた。


 異世界の風だった。

 魔力の濃い、乾いていて、それでいてどこか草と石の匂いを含んだ空気。

 十年ぶりに嗅ぐはずなのに、恒一の体は一瞬でそれを思い出した。


 そして、その光の中から、一人の少女が歩み出る。


 まず見えたのは、白銀に縁取られた黄金の鎧だった。

 次に、長く流れる金髪。

 鋭くも美しい横顔。

 最後に、眩い光をまとった聖剣。


 セレフィア・ルクスフィリア。


 異世界で“聖剣姫”と呼ばれた騎士。

 王家の血を引き、誰よりまっすぐで、誰より頑固で、そして誰より最後まで恒一の帰還を祝福してくれた少女。


 その彼女が、焼けたコンクリートと銃火の匂いに満ちた終末日本の地下搬入口区画へ、何の迷いもなく降り立った。


 金属靴が床を打つ。


 カン、と澄んだ音がした。


 その瞬間、搬入口区画の空気が一変した。


 敵AIロボットの赤い単眼。

 自衛隊員たちの銃口。

 榊原玲奈の端末。

 三崎雫の見開かれた目。

 すべてが一瞬、聖剣姫という異物に呑まれる。


 セレフィアは、まず周囲を見た。


 倒れた四脚機。

 通路奥から侵入しようとする人型殲滅機。

 銃を構えた自衛隊。

 警戒しながらも動きを止めた防衛班。

 床に描かれた召喚陣。

 そして、その中央で膝をつきかけている恒一。


 彼女はたった一拍で状況を理解した。


「コーイチ」


 その声は、異世界で別れた時のままだった。


「迎えが遅くなりました」


 恒一の喉が一瞬詰まる。

 言葉が出ない。出るはずがない。

 会いたかった。必要だった。呼んだ。来てくれた。

 その全部が一気に現実になって、感情が追いつかない。


「……お前、本当に来たんだな」

「あなたが呼んだからです」


 当たり前のようにそう言ってから、セレフィアは剣を構えた。


 その瞬間、通路奥の敵機が一斉に再起動したように動き出す。


《高脅威未確認個体ヲ検出》

《識別不能》

《排除行動ヲ――》


 最後まで言わせなかった。


 セレフィアは床を蹴る。


 速い。

 人間の踏み込みではない。

 異世界でも彼女の突撃は最前線を裂く一撃だったが、現代日本の狭いコンクリート通路では余計にその鋭さが際立った。


 聖剣が一閃する。


 金の軌跡。

 次の瞬間、先頭の人型殲滅機が胸から上を斜めに両断される。赤い単眼が明滅する暇もなく、上半身がずれ落ちた。


 さらに二歩。


 四脚機が前肢の高周波刃を振り上げるより先に、セレフィアの二撃目がその脚部関節を四本まとめて刈り飛ばす。

 機体が崩れたところへ、返す刃で頭部を貫く。


 金属の悲鳴。火花。倒壊。


「なっ……」

 木村三曹が絶句する。


 だが、まだ終わらない。


 通路奥の中型機が肩部兵装を展開し、セレフィアを狙って弾体をばら撒こうとした。

 セレフィアはそれを真正面から見て、眉をひそめる。


「無礼な」


 短くそう呟き、左手を掲げた。


 異世界の騎士姫は剣だけではない。

 高位の聖属性術式もまた、彼女の得意領域だ。


「聖盾」


 金色の半透明障壁が一瞬で展開し、飛来した弾体を正面から受け止める。

 爆発。

 だが障壁は割れない。

 むしろ炸裂の光を逆に押し返すように、眩い燐光を散らした。


 その光の向こうへ、セレフィアは迷わず踏み込む。


「邪悪なる鉄の傀儡ごときが、コーイチの前に立つな!」


 聖剣が振り下ろされる。


 中型機の肩部兵装ごと、胴体中央が真っ二つになった。


 両断された機体が床へ倒れ伏し、通路にいた残存機たちの動きが一瞬止まる。

 おそらく“新たな高脅威個体”として再評価しているのだろう。


 その一瞬の遅れを、真田一佐は見逃さなかった。


「撃て!」

 怒声が響く。

「敵が止まってる間に叩き込め!」


 20式小銃の一斉射。

 89式の追撃。

 木村三曹率いる防衛班の機関銃が、セレフィアの斬撃で乱れた敵隊列へ容赦なく流れ込む。


 さらにセレフィア自身も止まらない。


 今度は縦ではなく横に踏み込み、人型機の脇を抜ける。

 その動きは、まるで戦場に金の線を引くようだった。


 一体。

 二体。

 三体。


 聖剣の軌跡が走るたび、敵機が綺麗に沈黙していく。


 単なる破壊ではない。

 恒一がすぐに分かった。セレフィアの聖属性は、自分の雷撃とは別の形で敵コアへ効いている。斬られた機体の“止まり方”が、通常火器にやられた時とは違う。あれもまた、成立そのものを切っているのだ。


「……やっぱり、そうか」


 榊原玲奈が半ば呆然としながら端末を握りしめている。


「魔法だけじゃない……“異世界由来の術式全般”が効く……」

「博士! 今は解析より前見てください!」

 雫が叫ぶ。

「分かってる! でも見ないわけにいかないでしょこんなの!」


 最終的に、搬入口通路へ侵入しかけていた敵群は、三十秒とかからず沈黙した。


 静寂。


 敵機の残骸が煙を上げる。

 火花が弾ける。

 兵たちの荒い呼吸だけが残る。


 誰もすぐには動かなかった。

 いや、動けなかったという方が近い。


 終末日本の地下防衛区に、突然現れた金髪の騎士姫が、信じられない速度と威力でAIロボットを切り捨てたのだ。理解が追いつくはずがない。


 セレフィアは聖剣を振って機械油を払い、ようやくこちらを振り返った。


 その瞳が、まっすぐ恒一を捉える。


 まるで周囲など最初から見えていないかのように。


「コーイチ」

「……ああ」

「事情は後で聞きます」

「助かる」

「ですがまずは」


 彼女は焼けた通路と敵残骸を一瞥し、それから凛とした声で言った。


「この世界の敵を斬ればよろしいのですね?」


 その台詞は、搬入口区画にいる全員へ、これ以上ないほど鮮烈に刻み込まれた。


 真田一佐が最初に我に返る。


「……天城」

「はい」

「今のも、仲間か」

「はい」

「お前基準だと、全員こうなのか」

「方向性は違いますけど、まあ、大体」

「頭が痛くなってきたな」

 木村三曹が呻く。

「味方でよかったって思う反面、常識が死ぬ」


 雫は半分口を開けたまま、半ば恒一へ、半ばセレフィアへ視線を往復させていた。


「ほんとに来た……」

 小さく呟いたその顔には、驚きと安堵と、少しだけ別の複雑なものが混じっている。


 玲奈に至っては完全に研究者の顔だ。


「聖属性……近接戦闘……異世界由来高密度エネルギー……しかも判断速度が人間離れ……」

「博士、興奮しすぎです」

「するわよ! 今この瞬間、戦術教範が全部書き換わるかもしれないのよ!?」


 その騒ぎの中心で、セレフィアだけは実に落ち着いていた。


 彼女は聖剣を下ろし、改めて周囲を見渡す。

 銃を持った兵士たち。白衣姿の玲奈。作業服姿の雫。迷彩服の真田一佐。機械残骸。敵弾痕だらけの通路。天井から落ちた粉塵。


「……なるほど」


 小さく呟くと、彼女は恒一の前まで歩いてきた。


 そして、ごく自然な動作で膝を折った。


「お怪我は」

「ちょっと消耗してるだけだ」

「“だけ”ではありません」

 セレフィアの眉が寄る。

「顔色が悪い。無茶をしましたね」

「した」

「でしょうね」


 その言い方に、恒一は思わず少し笑ってしまった。

 異世界で散々見た顔だ。心配と呆れと、それでも結局見捨てない意志が全部混ざった顔。


「久しぶりだな」

「はい」

 セレフィアは短く答える。

「……本当に、久しぶりです」


 その一言だけ、ほんの少し震えていた。


 恒一の胸が熱くなる。

 だが今ここで感傷に沈む暇はない。周囲には自衛隊も技術班もいるし、戦闘自体も完全に終わったわけではない。上空のドローン反応も、外縁線の戦況もまだ不安定だ。


 真田一佐が一歩前へ出た。


「私は真田。ここの防衛区の指揮官だ」

「……」

 セレフィアは立ち上がり、真田一佐を見る。

「この世界における将ですか」

「そう言っていい」

「ならば挨拶を」

 彼女は騎士としての礼を取った。

「私はセレフィア・ルクスフィリア。異世界ルクス王国第一王女にして聖剣の騎士。現在は天城恒一の剣であり、盾です」


 その名乗りは、場の空気をまた少しだけ止めた。


 真田一佐は表情をほとんど変えなかったが、木村三曹は明らかに目を泳がせているし、雫は「王女……?」という顔で固まっている。


 玲奈だけは、むしろ更に目を輝かせていた。


「第一王女! しかも騎士! 属性盛りすぎでしょ……!」

「博士、今そこじゃないです」

「今だからいいの!」


 真田一佐は咳払いを一つしてから、セレフィアに言う。


「事情は追って説明する。今はまず確認したい。あなたは敵性を持たないと見ていいか」

「敵性?」

「この世界の人類に敵対意思がないか、という意味だ」

「ありません」


 セレフィアは即答した。


「コーイチが守ろうとするものなら、私も守ります」


 その言葉は、軍人にとっては十分すぎるほど明快だった。


 真田一佐は短く頷く。

「分かった」

「軽く信じますね」

 恒一が少し意外そうに言うと、一佐は冷静に返した。

「現状、疑っている余裕がない」

「それもそうか」

「それに」

 真田は通路の残骸を一瞥した。

「今のを見た後で敵に回す選択肢は、最初から存在しない」


 もっともな話だった。


 ようやく周囲が少し落ち着いてきた、その時。


 セレフィアはふと視線をずらした。


 彼女の目が止まったのは、恒一のすぐ後ろ――つまり雫と玲奈たちの方だった。


「……ところで、コーイチ」

「ん?」

「その後ろの女性たちは、どなたですか?」


 区画の空気が、妙な方向へ凍る。


 雫が「え?」という顔をし、玲奈は「来たわね」とでも言いたげに目を細め、木村三曹が露骨に面白がりそうな顔をしてから真田一佐に睨まれて真顔へ戻る。


 恒一は嫌な予感しかしなかった。


「いや、待て。今その話か?」

「重要です」

 セレフィアは非常に真剣だった。

「あなたを召喚するまで支えた者たち、あるいはこの世界で既に特別な関係を築いた者たちであれば、こちらとしても認識を改める必要があります」

「認識って何の」

「主に立ち位置です」

「怖い言い方するな!」


 雫が慌てて手を振る。

「いやいやいや! 違うから! 私はただの案内役っていうか、最初に拾っただけっていうか!」

「拾った?」

 セレフィアの目がすっと細くなる。

「コーイチを?」

「言い方!」

 恒一が頭を抱える。

「俺が犬猫みたいになってるだろ」


 玲奈が面白そうに口を挟む。


「私は技術班責任者。召喚成功の最大貢献者の一人と言っていいわね」

「博士!」

 雫が叫ぶ。

「燃やさないで!」

「事実でしょ」

「言い方ぁ!」


 木村三曹はもう肩を震わせているし、真田一佐は露骨に「面倒な方向へ行くな」と言いたげな顔をしている。


 セレフィアはゆっくり雫を見る。

 次に玲奈を見る。

 そして最後に、恒一へ戻る。


「……なるほど」

「何がなるほどなんだ」

「コーイチが別世界でも相変わらず、無自覚に厄介な縁を増やしていることは理解しました」

「増やしてない!」


 その否定が、逆に場の空気を少しだけ和らげた。


 雫が呆れ半分、安堵半分で笑う。

「何か思ったより、普通に人なんだね」

「誰を想像してたんだ」

「もっと神々しい人」

「神々しいですよ」

 玲奈が平然と言う。

「戦闘力だけなら十分」

「博士、煽らない」

「事実確認よ」


 セレフィアはそんな騒ぎの中で、ようやく少しだけ表情を和らげた。


「……まあ、今はそれでいいでしょう」

「今は?」

 恒一が嫌な汗をかく。

「後でじっくり聞きます」

「ですよね」


 その返答に、搬入口区画のあちこちから小さな笑いが漏れた。


 ついさっきまで敵侵入と召喚失敗の恐怖で張り詰めていた場所に、初めて“人間らしい緩み”が戻った瞬間だった。


 もっとも、その緩みも長くは続かない。


 無線が再び鳴る。


『外縁線、敵反応再編中! 大波は一時減衰! ただし高高度ドローン群、なお監視継続!』

『第一波の撃退を確認!』


 真田一佐が即座に現実へ戻る。


「喜ぶのは後だ。第一波は止めたが、終わってはいない」

「はい」

 木村三曹もすぐに顔を締める。


 セレフィアはその空気を読み取り、すぐ騎士の顔へ戻った。


「コーイチ」

「何だ」

「この世界の戦況、あとで全て聞かせてください」

「ああ」

「その上で、私は剣を振るいます」

「助かる」

「当然です」


 恒一は、改めて彼女を見た。


 異世界で別れた仲間が、今ここにいる。

 終末日本の地下防衛区で、自分の隣に立っている。

 それはまだ夢のようで、だが通路に転がる敵残骸がそれを現実だと証明していた。


 一人では覆せない戦線。

 だから呼んだ。

 そして、その第一歩は間違いなく成功した。


 聖剣姫セレフィア、東京に降り立つ。


 その事実は、新宿外縁線だけでなく、この戦争全体の意味を変え始めていた。

 人類はもう、異世界帰りの賢者一人に頼るだけではない。


 最強パーティー再集結の、最初の一人が来たのだから。

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