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『異世界で最強賢者になった俺、帰還した日本がAIロボットに滅ぼされかけていたので最強ハーレムを召喚して反撃します』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第11話 門を開く夜

 搬入口区画に描かれた召喚陣が、低い唸り声のような音を立て始めた。


 天城恒一はその中央に立ち、ゆっくりと息を整える。

 足元から伝わるのは、異世界で使い慣れた魔法陣の感触に似ていて、決定的に違う脈動だった。青白い第一円環は座標を探るように明滅し、第二円環は敵コア由来の未知結晶とリュミエルの共鳴結晶の間で不安定に震え、第三円環は呼び出し先を指し示そうとして何度も揺らぐ。


 完全ではない。

 むしろ危うい。

 だが、成立しないほどではない。


「共鳴率、七二……七五……!」

 榊原玲奈が端末を握りしめたまま叫ぶ。

「座標窓、仮形成! でもまだ薄い! 天城、もっと深く繋いで!」

「言われなくてもやってる!」


 恒一は歯を食いしばった。


 魔力を流す。

 自分の内側にある異世界の痕跡――十年かけて積み上げた術式構造、戦いの記憶、仲間たちとの共鳴――それらを、この世界に無理やり押し広げていく。


 リュミエルの共鳴結晶が強く光る。

 ミレーネの聖印がかすかに熱を帯びる。

 そして敵コアの赤黒い断片が、それに反発するように、だが確かに引き寄せられるように脈打っている。


 異世界と現代日本。

 魔法とAI。

 本来混ざるはずのないもの同士が、今この召喚陣の中心で無理やり結び合わされようとしていた。


 その時、地上から重い衝撃が落ちてくる。


 ドォンッ――!


 区画全体が揺れた。

 天井の隅から細かな埃が落ち、照明が一瞬だけ明滅する。


『外縁線第三壁、損傷! 損傷!』

 無線が叫ぶ。

『大型個体接近! 四脚群突破寸前!』

『対空班、右上空のドローン群に押されてます!』


 真田一佐が即座に無線を取る。


「第三壁を捨てるな! 後退して第二線で噛め! 16式二番、道路中央を封鎖! 対戦車班は大型の脚を狙え!」

『了解!』


 木村三曹もすぐに動く。


「搬入口第一防衛線、前へ! 射界確保! 爆薬班は通路に待機!」

「了解!」

「補給員は壁際から動くな! 勝手に出るなよ!」


 その怒声の裏で、雫が唇を引き結びながら箱を抱えている。

 中身は予備の結晶固定具と、玲奈が使う計測ケーブルだった。

 彼女は明らかに怖がっていた。それでも逃げようとはしない。


「雫!」

 木村三曹が怒鳴る。

「そこから動くな!」

「分かってる!」


 返事は強かったが、声は少し上擦っていた。


 恒一は召喚陣の中央からその様子を横目で見て、短く息を吐く。


 全員が限界の綱の上にいる。

 兵たちは外縁線を支え、技術班は術式を支え、雫たち民間人ですら、持てる範囲でこの場を支えようとしている。


 なら、自分が揺れるわけにはいかない。


「セレフィア……!」


 小さく名を呼ぶ。


 思い浮かべるのは、異世界での彼女の姿だ。

 金髪。気高い瞳。剣を抜いた時の研ぎ澄まされた空気。

 誰よりもまっすぐで、誰よりも頑固で、そして誰よりも“自分の願いを守ろうとしてくれた”騎士姫。


 彼女なら来る。

 この術が届きさえすれば、必ず。


「天城!」

 玲奈が叫ぶ。

「術式の先がまだ浅い! 呼び出し先がぼやけてる!」

「分かってる!」


 恒一は魔力の流れを変えた。

 座標を“場所”ではなく“相手”に寄せる。世界のどこにいるかではなく、誰へ届かせたいかを優先する召喚。負荷は上がるが、今のように世界境界が不安定な状況では、その方が成功率は高い。


「対象固定、人物優先……!」


 足元の第三円環が音を立てて光量を増す。

 青白かった陣に、淡い金の筋が混ざる。


 玲奈が目を見開いた。


「何したの!?」

「場所じゃなく、人を指した!」

「そんなのアリ!?」

「普通は危ない!」

「今さらだわ!」


 その時、搬入口へ続く通路の向こうから、乾いた銃声が一斉に響いた。


 第一防衛線だ。


「来たぞ!」

 誰かが叫ぶ。

「人型三! 四脚二! 通路侵入!」

「撃て撃て! 止めろ!」


 20式小銃の連射音が狭い地下通路へ反響する。

 すぐに金属が弾ける音。四脚機の脚が壁を削る甲高い擦過音。

 敵が、もう搬入口区画のすぐ手前まで来ているのだ。


 真田一佐が歯を食いしばる。


「木村!」

「分かってます! 第二線、前へ! 近接に入らせるな!」


 爆薬が一つ、通路で炸裂した。

 火花と煙が吹き上がり、人型機の一体が吹き飛ぶ。だがすぐに次が来る。敵は迷わない。恐れない。ただ最短距離で“術者”へ到達しようとしてくる。


「本当にこっち狙ってきてるじゃない……!」

 雫が青ざめて言う。

「解析どころじゃないでしょこれ!」

「解析してる場合じゃないから召喚してるの!」

 玲奈が怒鳴り返す。

「文句あるならその固定具渡して!」

「あるけど渡す!」


 雫が半ば叫びながら固定具を投げる。玲奈が片手で受け取って、第二円環の結晶接点へ叩き込む。


 パチィッ、と青赤の火花が散った。


 召喚陣全体が脈動する。

 今まで“描かれた図形”だったものが、ようやく“門の骨組み”へ変わり始めるのが分かった。


「きた……!」

 玲奈の声に熱が混じる。

「位相窓が立つ! まだ細いけど、立ってる!」


 恒一も感じていた。


 向こう側だ。

 まだ遠い。まだ曖昧。だが、確かに“あちら”へ繋がる手応えがある。

 異世界の空気。魔力の密度。自分が置いてきた世界の、懐かしく鋭い感触。


 だがその瞬間、敵も動いた。


 通路の奥で、今までの人型や四脚とは違う重い足音が響く。

 ズン、ズン、と圧迫感を伴うそれは、大型級だ。


「……まずい」

 木村三曹の顔色が変わる。

「通路に大型が来るぞ!」

「こんなとこまで入れてたまるか!」

 真田一佐が叫ぶ。

「対戦車爆薬を前へ! 通路を潰せ!」


 だが命令が間に合うより先に、通路の奥が赤く光った。


 次の瞬間、衝撃。


 大型機の砲撃が通路入口近くの遮蔽板を吹き飛ばし、第一防衛線を丸ごと揺らした。

 鉄板が捻じ曲がり、土嚢が弾け、隊員たちが伏せる。


「くっそ……!」

 木村三曹が怒鳴る。

「第二線、撃て! 頭上の配管を落とせ!」


 銃撃。機関銃。対戦車弾。

 狭い通路の中で、火力と火力が正面衝突する。


 だが、恒一はそこへ援護を回せない。


 召喚陣を離れたら終わる。

 今ここで術式を切れば、せっかく立ち始めた位相窓は閉じる。もう一度同じ状態まで持ってくる余裕は、たぶんない。


 理解していた。

 だから余計に、歯噛みするしかない。


「天城!」

 真田一佐が振り向かずに言う。

「召喚に集中しろ! ここは持たせる!」

「でも――」

「持たせると言った!」


 その声には、有無を言わせない強さがあった。


 異世界で何度も見た。

 自分が大技の詠唱に入る時、前で敵を押さえてくれる仲間たちの背中。

 今、それと同じことを、この世界の人間たちがやっている。


 だったら信じるしかない。


「……頼みます」


 恒一は目を閉じた。


 魔力を絞る。

 体の奥底から引きずり出す。

 この世界では回復が遅いとか、負荷が重いとか、そういう言い訳を捨てる。


 呼ぶ。

 届かせる。

 世界を越えてでも、仲間へ手を伸ばす。


「セレフィア! 聞こえるなら来い……!」


 召喚陣が一気に明るさを増した。

 青白い第一円環。

 白銀の第二円環。

 金色の第三円環。

 その全てが高速回転し、中央に白い裂け目のようなものが生まれる。


 まだ細い。

 まだ閉じそうだ。

 だが、裂け目の奥に何かが見えかけた。


「もっと魔力を!」

 玲奈が叫ぶ。

「あと一押しで固定できる!」

「言うのは簡単だ……!」


 恒一の視界が揺れる。

 魔力の流出量が大きすぎる。脈が早い。呼吸が荒くなる。

 この世界では、一人で高位召喚を回すにはやはり無茶なのだ。


 その時だった。


 掌で、リュミエルの共鳴結晶が強く熱を持った。


「……っ!」


 青い光が、今までとは違う色で脈打つ。

 まるで“向こうから”応じるように。


 恒一の脳裏に、一瞬だけ声が響いた気がした。


 ――そんな無茶な座標の繋ぎ方、あなただけよ。


 リュミエルの、呆れたような、でもどこか安堵した声に似ていた。


「まさか……」


 共鳴結晶が、術式の不足分を埋めるように光を広げる。

 リュミエルが最後に言っていた。世界が違っても、完全には切れないかもしれないと。


 それが今、術式の補助点として生きている。


「玲奈!」

 恒一が叫ぶ。

「結晶が補助してる! そこを増幅できるか!?」

「やる!」


 玲奈は端末を叩きながら、補助員に怒鳴る。

「共鳴ライン、青結晶優先に切り替え! 赤黒側は流量制限! 変な逆流が来たら即切断!」

「了解!」

「雫、左の補助ケーブル押さえて!」

「はいはいっ!」


 雫が床へ膝をつき、ぶるぶる震える指でケーブル固定具を押さえる。

 怖いはずだ。だが逃げない。


 搬入口通路の奥では、さらに激しい銃声と爆発音が響いた。


「大型、まだ止まらん!」

「通路壁が持たないぞ!」

「爆薬二番、起爆!」


 ドガンッ、とまた強い衝撃。

 区画全体が揺れる。


 恒一はその揺れに逆らうように、魔力を一点へ叩き込んだ。


「開け――!」


 白い裂け目が、一気に縦へ広がる。


 今度ははっきり見えた。


 向こう側の夜。

 風。

 石造りの床。

 そして、眩しいほどの黄金色。


 誰かがいる。


「見えた!」

 玲奈が叫ぶ。

「何かいる! 人影――いや、甲冑!」

「固定しろ!」

 真田一佐も思わず叫ぶ。

「ここで閉じるな!」


 だが、敵も最後の一押しを仕掛けてきた。


 通路入口の遮蔽板がついに吹き飛び、赤い単眼がいくつも搬入口区画へ覗いたのだ。

 人型殲滅機。

 四脚機。

 その奥には、肩部砲塔を持つ中型機の影。


「侵入! 侵入!」

 木村三曹が吠える。

「撃て! 術者に近づけるな!」


 銃火が走る。

 最前列の人型二体が吹き飛ぶ。

 だが四脚機が低く潜り、床を削って区画内へ飛び込もうとする。


 その一瞬、雫のすぐ前へまで金属の影が迫った。


「雫、伏せろ!」

 恒一が叫ぶ。


 だが自分は陣の中央から動けない。

 真田一佐も木村三曹も別方向の敵を押さえている。

 間に合わない。


 次の瞬間だった。


 白い裂け目の向こうから、眩い黄金の光が走った。


 それは光線ではない。

 剣閃だった。


 門の向こうから放たれた一太刀が、四脚機の前肢と頭部をまとめて両断する。

 機体は悲鳴を上げる暇もなく、区画の床へ崩れ落ちた。


 搬入口区画が、一瞬、完全に静まり返る。


「……え」

 雫が固まる。

「今の……」


 裂け目の向こう、黄金の光がさらに強まる。


 甲冑の輪郭。

 長い金髪。

 凛と伸びた背筋。

 そして、誰より見慣れた、まっすぐな気配。


 恒一の喉が震える。


「……セレフィア」


 門の向こうの少女は、一歩踏み出した。


 光が溢れる。

 召喚陣の全円環が共鳴し、白金の火花を散らす。

 玲奈が何か叫んでいる。木村三曹も真田一佐も銃を下ろしかけている。だが、恒一の耳にはもうほとんど何も入っていなかった。


 別れたはずの騎士姫が、今、こちらへ来ようとしている。


 ついに門は、完全に開いたのだ。

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