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呪いと祝福の子らは女神の掌で踊る〜南からの使者・幕間・南方留学編〜  作者: 樹弦
南方留学編 11

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レックスの手入れ

 ジュディスは出かける前にレイの血を飲んでいた。注射器の中の残りでは足りなかったようだった。ウォードに鎖を渡されたレックスが興味深そうにその様子を見ている。ジュディスはやはりレイの血が一番美味しいと思った。レイもどこかうっとりとした顔付きでジュディスの髪を撫でている。レイはジュディスが血を飲み終わるとウォードに言った。


「レックスをお願いします」


「分かりましたよ。責任を持ってお預かりします」


 ブリジット以外は変装の準備のために部屋へと消える。やがて魔力の気配も大幅に減って、頭に南の日除けの布を被った二人が姿を現した。布は鮮やかな緑で金糸の刺繍が美しかったが、日除けは派手な柄が多いのでこれでも目立たない方だと言えた。四人が姿を消すとブルーノはそれまで不安そうにしてレイの背中を見送っていたレックスに声をかけた。ただ寄り添っているだけでは済まないこともある。性奴隷は手入れを怠ると精神的に不安定になりやすい。王女は明らかに手入れに関しては無関心だった。奴隷の命は軽い。ダメになれば新しい奴隷を手に入れれば済む。壊れたら捨てられるおもちゃと同じだ。


「隣においで、レックス…」


 ウォードは首の鎖を優しく引くと自分の隣に座らせてから鎖を外した。レックスは少し怯えたような表情をしている。学院長は隣のソファーですっかり脱力しているサイラスに魔力を流していた。ブルーノもいたから痩せ我慢で無理をしていたらしい。学院長はちらりとウォードを見る。ウォードは頷いた。最初からレイのいない間に一通り終わらせるつもりだった。レイは知らなくて良いことだとも思った。


「奴隷の扱い方は一応学んでいるけれど、五年ほど前の知識だから間違っていたら教えてくれると助かるよ。君は魔力交換をするなら外と寝室と…どちらが好み?王女の好みではなく自分の好みを言って」


「…そ…外です…室内は…息苦しくて苦手で…」


 レックスは小声で答えた。少し意外だ。こんな大人しそうな見た目なのに、とウォードは思った。


「分かったよ。今日は歓迎の意味も込めて特別に恋人同士でする魔力交換をしてあげる。王子は…君にはそれは出来ないから、君の心が安定するまでしばらくは僕がその代わりを務める…僕はウォード。ジュディスさまに剣を捧げているよ。普段は西の王立学院で魔術騎士科の講師をしている。いい?これからすることは、ご主人さまには報告してはいけないよ。彼を困らせてしまうから」


 ウォードはレックスの頬を撫でると瞳を覗き込んだ。レックスがウォードとようやく目を合わせて最初に浮かんだのは、何だか同族のような安心感のある人だなという率直な感想だった。ウォードはソファーを外からは見えないように緩く遮断するとレックスを自分の前に座らせて後ろから片手で抱きしめた。肩の方から背中に向かって指先で触れながら魔力を流す。自慢ではないがウォードは西で魔力暴走を止める講師の中でもかなり評判が良かった。流し方を少し変えるとその意味合いは変わる。ほんの少しの切り替えでウォードはレックスを快楽へと導く。すぐにレックスはウォードのペースに飲まれた。抱きしめる腕に力を込めて一気に魔力を循環させると、レックスの身体はビクリと痙攣した。ウォードはやがてレックスの下着の中に手を入れると大胆に触れ始めた。レックスの大人しそうな見た目から最初は去勢済みの奴隷かと一瞬疑ったがそうではなかった。レックスはちゃんと雄だった。


「出していい。許可する」


 ウォードは低い声でレックスに命じる。躾けられた奴隷は言葉に縛られている。レックスもそうだった。ウォードの巧みな指の動きに身体を仰け反らせてレックスはあっという間に達した。声も上げずに吐息だけが漏れる。それは王族の奴隷の矜持とも言えた。美しい、とウォードは客観的にそう思い、わずかな罪悪感を覚えた。


「よくできたね。えらいよ…」


 レックスはすでにぐったりとしていて頷くのもやっとだった。レックスはウォードの唇が重なるのを感じた。魔力が流れ込んでくる。強い獣の気配だ。レックスはそれで彼に狼の番がいることに気付いて驚愕のあまりに耳を出してしまった。耳に気付いたウォードは唇を離すといたずらな瞳をして笑った。


「…そんなに驚くもの?」


「えっ?…はい…。こちらでは…異種族同士が番うことは…稀ですから…」


 レックスはウォードに感じた同族のような安心感の正体が何なのかをようやく理解した。自分よりも遥かに上位の狼の番がいるからだ。犬科のレックスが簡単に屈してしまうのも当然といえば当然だった。レックスは魔術で身体を清められるのを感じた。


「聞いてもいいかい?嫌なら答えなくてもいいよ。最後に王女と恋人の魔力交換をしたのは…いつ?」


 レックスはいつだったろうと考えた。奴隷の入れ替えでレックスは返却されずに宮に残された自分に誇りを持っていた。なのに王女は新しく入った人間の奴隷の一人に夢中になった。犬科の半獣人のレックスを差し置いて人間に夢中になるなど、今まででは考えられないことだった。レックスは目の前で王女に愛されるその奴隷の姿を見て、かつてない屈辱を味わった。とうとうチョーカーまでが外されたとき、レックスの敗北は決定的なものとなった。


「一ヶ月以上…前です…それからは…一度もありません…イルヴァ王女さまに命じられて…護衛の兵士と…交換させられた以外は…」


「そう、答えてくれてありがとう。よくそれで耐えられたね。精神力の弱い子だったら、もっと酷い状態になってるよ…」


 ウォードは耳の後ろを掻くように撫でる。心地よい。レックスは穏やかな見た目のこの人間の中に、更に不思議な魔力が隠されていることに気付いていた。西の王子や婚約者にもあるその気配はレックスにはあまり馴染みのないものだったが、怖いようで惹かれるような少し変わった気配だった。


「なに?レックスはこれが気になるの?別に秘密にしている訳じゃないよ?見たことはない?」


 ウォードは手のひらをレックスの目の前に向けるとそこから蔦を出した。するすると伸びた蔦はレックスの腕に絡みつく。そこからも少しずつ魔力が流れ込んでくる。


「話にしか…聞いたことがなかったです…狼の気配がして精霊の蔦も持っているなんて…国王陛下のようですね…」


「レックス、それは買い被りすぎだよ。国王陛下は蔦の眷属…僕はその下の蔦持ちだからね。今出している蔦はレイ王子とお嬢…ジュディスさまの種から芽吹いた蔦だから、この気配を覚えておくといいよ。君のご主人さまの蔦と同じ系譜だから…」


 ウォードは蔦でレックスを絡め取ると微笑む。レックスは一ヶ月ぶりに、ようやく自分が心の安寧を手に入れていることに気付いた。乾いて苦しかった心が解きほぐされる。


「その分だと夜も眠れていなかったよね?少し眠るといいよ。王子が市場に出掛けて帰ってくるまでの間、心と身体を休めたら、もっと本来の君らしくなれるはずだよ」


 ウォードはレックスの耳元でそう囁いた。やがて本当にレックスがすやすやと眠ってしまうと、隣のソファーから学院長が声をかけた。その横に座っているサイラスまでがウォードの方を見てニヤリとした。ウォードは遮断を解く。


「さすがと言うべきか…こうも間近で気配を感じてしまうと、身体がむず痒くなりそうだな…いや、褒めているんだよ?私には真似できない…君は少しブリジットに似てきたな…影響されたと言うべきか…」


(リオンのせいでレックスは追いやられたんですから…このくらいのフォローはしてあげないと僕としては寝覚めが悪いですよ。生きていてくれて良かったです…この子はまだ十六歳だ…もう少し人生に楽しいことがあったっていいでしょう…)


 ウォードの心の声に学院長はレックスの顔を見た。レイとレックスは同じ年の生まれだ。一方は王子で一方は奴隷。レックスは読み書きすらできない。


「人たらしの才能は個人差がありますから…俺は嫌われる方が多いので正直なところ羨ましいですよ。その技を盗ませて下さい」


 サイラスまでがそんなことを言ってくる。


「…学院長に似せたその顔で人たらしの才能があったら、それはもう犯罪じゃないですか。南の雌はあなたの前で軒並み卒倒しますよ?僕はせいぜい人並みの容姿しか持ち合わせていませんから、他の能力で補っているんです」


「随分と謙遜するね。ところで…君が髪を伸ばし始めたのは…ジュディスのせいか?」


 不意に学院長がウォードに尋ねる。ウォードは最近髪を切らなくなっていた。今も無造作に束ねている。


「…えっ?どうしてそれを?」


 学院長はハッと短い笑い声を上げた。やはり当たった。


「私はそれで短くしたんだよ。この歳になってくると…人前で娘のような姿のジュディスに頭をぐしゃぐしゃに撫でられる訳にもいかないからね…格好がつかないだろう」


 ウォードは少しだけ想像して、うっかり笑いそうになり表情を引き締めた。そして確かに自分はよくそうされていたと思い返す。最近少し触れ合うことが減ったのはやはり自分に番ができたことで、ジュディスなりの遠慮があるのかもしれない、ウォードはそう思いながら、レックスの寝顔を見つめた。

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